80年代にブルーズを復活させたスタンダップ・ブルーズ&ソウル・シンガー、Z.Z.ヒル
ON AIR LIST
1.Please Don’t Make Me(Do Something Bad To You)/Z.Z. Hill
2.Down Home Blues/Z.Z. Hill
3.Hey Little Girl/Z.Z. Hill
4.Cheating In The Next Room/Z.Z. Hill
スタンダップ・ブルーズシンガーの特集最終回です
今日ON AIRするZ.Z.ヒルは黒人音楽にハマってからも私の中ではこれという決め手のない微妙なシンガーでした。60年代からブルーズとソウルを歌う上手いスタンダップ・シンガーということはわかっていてもジョニー・テイラーやボビー・ブランドほどのインパクトを感じたことがなかったんですね。
それが覆されたのが70年代終わりに南部ジャクソンのマラコ・レコードに移籍してから。当時、自分の中ではサザン・ソウルがブームになっていてOV.ライトやオーティス・クレイ、アル・グリーンなどを聴き漁っている時、あるバーで聞かされたのがマラコから初めてリリースされたばかりのZ.Z.ヒルのシングルでした。
こんな歌詞です「みんなが君はオレを騙そうとしているっていうんや。そんなのはほんまやないって言うてくれよ。オレは君だけを愛してきたんや。だから俺に悪いことをさせないでくれよ。君を傷つけたくないんよ。お前にはジョーンズいう男がいて、俺が仕事でおらん間にこの家にその男が来てるっていう、お前、それはあかんやろ。オレは嫉妬深い男なんや。だからお前に悪いこと、嫌なことはしたくないんや」
1.Please Don’t Make Me(Do Something Bad To You)/Z.Z. Hill
とてもソウルフルな歌です。これでZ.Z.ヒルへの印象が変わりました。彼はサム・クックとボビー・ブランドを尊敬していてダイレクトではないけれどその二人の影響が感じられます。ソウルに関してはサム・クック、ブルーズに関してはボビー・ブランドというのも聞いているとわかります。次のZ.Z. Hillの生涯の大ヒットとなった曲ではやはりボビー・ブランドのテイストが感じられます。
絶妙なミディアム・シャッフルのビートとゆったりとした南部ならではのダウンホーム・フィーリング。
これは女性の歌です。仕事を頑張っている女性が週末のパーティにやって来て靴(多分ハイヒール)を脱いで、髪を下ろしてお酒飲んでリラックスしているときに「そんな子供っぽい曲ではなくてダウンホーム・ブルーズをかけてよ」とDJに言ってる・・そんな歌。
2.Down Home Blues/Z.Z. Hill
ダウンホームとはアメリカの黒人の人たちにとっては南部の故郷のこと。つまり、リラックスしてくつろげる場所のこと。
Z.Z.ヒルは50年代にゴスペル・シンガーとして出発してからいろんなレーベルを渡り歩きました。大きなところではケント、ユナイテッド・アーティスツ、コロンビアなど。しかし最もヒットしてチャートに上がったのは62位の”Don’t Make Me Pay for His Mistakes”なので全国区のシンガーというわけではなかったのです。でも、レコーディングするレコード会社があるということは業界では歌の実力を認められていたということでしょう。
それがやっと花開いたのがマラコ・レコードに入ってからで遅咲きのシンガーでした。マラコ以前の曲ではKentレコード時代の曲にいいのがあるのですが、大きなヒットには至らなかった。次の曲はぼくのバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」でハーモニカのコテツくんが歌ってますが、最近歌いませんね。マラコレコードに入るほぼ20年前のケント・レコードでの録音です。
3.Hey Little Girl/Z.Z. Hill
マラコに移籍して最初にチャートに上がったのが次の”Cheating In The Next Room”
Cheatというのは浮気。「隣の部屋で浮気している。浮気相手と次に会う計画をしている。電話で小声で話して次に会う約束をしている。おまえのキスと愛の営みはずっと偽りだったや。でもうまくいくことを願ってそれについて来た。でももう自分の気持ちを利用されるよりは自分で踏み潰したほうがマシや」なんや怖い歌です。
4.Cheating In The Next Room/Z.Z. Hill
アメリカの皆さんはこういう不倫ソングが本当に好きなんですね。まあそれだけ不倫がよくあるということなんでしょうけど・・。
Z.Z. Hillは1984年に交通事故の後遺症で足に血栓ができてそれが原因で心臓発作を起こして急死してしまいました。48才という若さでした。79年にマラコに入って5年後です。せっかくその実力と人気が一致して南部のスター・シンガーになれたのに本当に残念です。実は彼がマラコレコードでヒットを出したことでそのあとにジョニー・テイラー、リトル・ミルトン、デニス・ラセール、ボビー・ブランドたちがマラコに入社して南部のブルーズシーンは再び盛り上がったのです。彼の存在は”Blues Is Back”(ブルーズが戻って来た)と銘打ったマラコにとっては看板のような存在でした。そのブームの先駆けでした。亡くなったあとにはメモリアル・アルバムもリリースされました。
そして、彼が尊敬していたボビー・ブランドは先日この番組で特集したようにこのマラコレコードで素晴らしいアルバムを残し、晩年を悠々自適に暮らすことができたと思います。敬愛するブランドに恩返しできたとZZは思っていたのではないでしょうか。
今年も素晴らしい、いい曲をON AIRします。Hey,Hey,The Blues Is Alright