2025.10.10 ON AIR

祝50周年P-Vine Records! 第12回

83年にP-Vineレコードがリリースした狂気の沙汰マディのLP11枚組その1

Muddy Waters The Chess Box

ON AIR LIST
1.Gypsy Woman/Muddy Waters
2.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters
3.Rollin’ Stone/Muddy Waters
4.Rollin’ And Tumblin’/Muddy Waters
5.Just Make Love To You/Muddy Waters

少し前にP-Vineレコードが83年にリリースしたチャック・ベリーのLP三枚組セットをON AIRしましたが、P-Vineは翌84年に私が「狂気の沙汰」と呼んだマディ・ウォーターズのLP11枚組ボックスセットをリリース。チャック・ベリーの時はロック・ファンにもブルーズ・ファンにもLP三枚組は売れるだろう・・・と思いましたが、マディ・ウォーターズのしかもLP11枚というのは価格も高くなるだろうしちょっと無謀ではないかと思いました。ちなみに発売同時の定価は¥22,000。私もライナーノーツを少し頼まれて書きましたがこれは大変な企画だと思いました。
今日はマディの全盛だったチェスレコード時代のこの11枚のアルバムから私が個人的に思い出に残っている曲をON AIRします。
まず11枚のアルバムの1枚目のA面の1曲目。このボックスセットの最初の曲です。僕のLPレコードで聴いてもらうのですが途中で針が一箇所飛んでいます。そこもお楽しみください。
1947年ピアノのサニーランド・スリムのレコーディングにギタリストとして雇われたマディですが、多分時間が余ったので「マディ、お前も録音してみるか」ということだったんではないかと思います。初めてのリーダー録音。ピアノはサニーランド・スリム、ベースがビッグ・クロフォード、ドラムは名前がわからずUnknownと記載されてます。そして歌とギターのマディ・ウォーターズ

1.Gypsy Woman/Muddy Waters

こういうサウンドは1930年代から流行ったシティ・ブルースと呼ばれる曲調で主にピアノとギターとかギターにハーモニカとかの編成で泥臭い南部のブルーズとは違った当時にしては少し小洒落たサウンドだったのです。ブルーバードというレーベルからこの手のブルースがたくさんリリースされたことからブルーバード・ビートとも呼ばれています。
南部の泥臭さを抑えてマディの歌の上手さだけを使って小洒落たブルーバード・ビートにして売ろうとチェス・レコードは目論んだのですが、売れなかったんですね。
それで次はマディに南部時代から得意としているスライド・ギターを弾かせて、ピアノは入れずにビッグ・クロフォードのウッドベースだけという録音させたのが次の曲です。これは売れました。

2.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters

マディがミシシッピにいた頃からやっていたスタイルでまさにデルタ・ブルーズ直送。そしてこの曲が評判になりここを原点にマディはシカゴ・ブルーズのボスへと上り詰めていくわけです。
この生き生きとしたマディの歌とギターとベースのグルーヴ感は今聴いても新しさを感じさせます。
さて、ロックバンドのローリング・ストーンズはマディ・ウォーターズの曲名からバンド名をつけたという話を知っている方もいると思いますが、その曲を自分が初めて聴いたときのなんとも言えない衝撃を今も思い出します。僕もまだロックを聴いていた頃だったのでストーンズのイメージから派手な曲を想定していました。すると聞こえてきたのはこれでした。

3.Rollin’ Stone/Muddy Waters

次の曲もマディで知る前に白人のブルーズ・ロック・バンド「キャンド・ヒート」のバージョンで知ってました。ブルーズのトラッドな曲でキャンド・ヒートが誰の元歌を聴いたのかわからないですが、これもマディで聞くと泥臭く関西弁で言う所の「いなたい」音だった。つまりその「いなたい」と感じたものこそブルーズだったのです。そしてそこにハマるとブルーズのマディ・ウォーター(泥水)に足を取られ底なし沼に浸かってしまうことになるわけです。

4.Rollin’ And Tumblin’/Muddy Waters

このマディ・ウォーターズ11枚組LPボックスセットは凡そ時系列に曲が収録されてます。ブルーズのスタンダードとして残っている曲も多く、最初から5枚目くらいまでは50年代のマディの勢いを知る思いです。そしてこの時系列の流れはそのままシカゴ・エレクトリック・ブルーズの流れでもあります。そしてマディの録音に参加する精鋭のブルーズマンたちの素晴らしさ。そしてその個性的な実力を持つブルーズマンたちが集まってマディを中心としたエレクトリック・シカゴ・ブルーズが作られていったわけです。次の曲も高校生の頃、ローリング・ストーンズがカバーしていて知っていたのですが、今思うとストーンズのカバーは若いと言うか・・この原曲を聴いた時にこれが大人の音楽、大人のブルーズだと思いました。サウンドとビートの重厚感、途中のリトル・ウォルターのハーモニカのきらびやかな音そしてマディのディープな歌声。大好きなブルーズです。

5.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters

このマディのLP11枚組セットは大げさでなく、日本のP-Vineレコードが作った世界に誇る名盤、名ボックスセットやと思います。中古盤でもあまり見かけることがなくなったんですが、ネットでは時々出ているようです。