2025.10.17 ON AIR

祝50周年P-Vine Records! 第13回

83年にP-Vineレコードがリリースした狂気の沙汰マディのLP11枚組その2

Muddy Waters The Chess Box

ON AIR LIST
1.Find Yourself Another Fool/Muddy Waters
2.Same Thing/Muddy Waters
3.You Can’t Lose What You Ain’t Got/Muddy Waters
4.My John The Conquer Root/Muddy Waters
5.My Dog Can’t Bark/Muddy Waters

P-Vineレコードが1983年にリリースしたこのLP11枚組セットは1947年から67年までの20年間のチェス・レコードでのマディ・ウォーターズの録音が収録されていますが、デビューから全盛期そしてブルーズ自体が沈滞していく時期までを記録しています。このボックスの企画を聞いたときに僕はP-Vineレコードの担当者に「狂気の沙汰や」と言ったんですよ。LP11枚組のボックスセットってまあ僕みたいなマディ・フリークは買うやろけど、値段も高いし、そもそもマディの代表的なアルバムはもうすでにリリースされてましたからよっぽど好き者やない限り買わんやろと言ったんですよ。売れないと思うと言ったんですが、これが売れたんですよ。日本人はこういう一つにまとまったボックスセットみたいなのが好きなんですかね。まあ、ぼくもJames Brownのアルバムをほとんど持ってるんですが、CDボックスがでた時に買いましたからね。
今日は最後の11枚目の64年から67年までシングルをコンピレーションしたアルバムを聴いて見ようと思います。60年代中期から後期に向かって白人のロック・シーンではクリームやジミ・ヘンドリックスなどブルースをベースにしたミュージシャンたちの活躍が始まります。いわゆるニューロックと呼ばれた音楽のルーツはブルーズでした。それならと白人ロック好き若者をターゲットにチェス・レコードはマディにロック・テイストの曲を歌わせました。こんな感じです。

1.Find Yourself Another Fool/Muddy Waters

まあ、あまりやったことのない8ビートのリズムでマディは頑張って歌ってます。でも、何か印象に残るものがないんですよね。これだけではロック・ファンにもブルーズ・ファンにも売れないやろと思うんですが・・。

次のは64年の録音ですが、ブルーズらしい素晴らしい曲です。マディの代表曲の一つと言っていいと思います。まだこういういいブルーズを録音することができたんですが、あまり売れなかったです。
「女性がタイトなドレスを着ると男たちはどうして夢中になるんだろうか。それは雄猫が夜に喧嘩をするのと同じことだ」と始まります。そして二番の歌詞でBig Leg Womanという言葉が出てくるのですが、ブルーズにはBig Leg Womanという歌もあるくらいで時々この言葉を見かけます。直訳すると大きな足の女ですが足の太ももあたりの肉付きがいい女性のこと。まあ下世話な言い方をすれば太ももがムチっとした女性のことです。つまりセクシーな女性。歌詞はどうして男たちはみんな足がムッちとしたじょせいが好きになるんだろう。それはブルドッグがハウンドドッグをハグするのと同じようなことさ」最後の一節が今もよくわからないのですが、要するに男たちはどうしてセクシーな女性を見るとどうして喧嘩になるんだろう。それはオスの動物たちがメスの取り合いをするのと同じことだ」
多分こういう意味だと思います。
バックのサウンドとビートも素晴らしく、マディの奥深い歌声がもうたまらない魅力です。

2.Same Thing/Muddy Waters

次の曲は9月17日にリリースした僕と山岸潤史のデュオ・アルバム”still In Love With The Blues”でも録音した曲で、この曲を聞いた若い頃に「ないものは無くせない」という日本語のタイトルと歌詞の内容とこの歌に感銘しました。
「お金も彼女も家も持っているからそれを失った時にがっかりする。落ち込んでしまうやろ。そやけど最初からお金も家も彼女もなかったそもそも失うことさえないんや」といういろんなもの所有していない黒人から生まれた曲やと思います。いいタイトルやと思います。「ないものは無くせない」

3.You Can’t Lose What You Ain’t Got/Muddy Waters

今のこの曲もマディの代表曲ですが、60年代半ばになるともうマディだけでなくブルーズ全体が下降線をたどっていく時代でチャートを上がる曲も少なくなっていきます。そんな中でもマディは今の二曲のようにクオリティの高いブルーズも録音しています。
黒人音楽の主流はもうR&Bからソウルに移る時代でファンクなども流行り始めます。シュプリームス、テンプテーションズなどのモータウン勢のソウル、オーティス・レディングやサム&デイヴなど南部スタックスのサザン・ソウル、ジェイムズ・ブラウンのファンクともうめまぐるしく変わっていく60年代後半、その中でブルーズという音楽自体の人気が落ちていきます。そこで戦っているマディなんですが、最初に聞いてもらったようなロックっぼいサウンドでも歌わなければ仕方ない状況になっていくわけです。B.B.キングやボビー・ブランドのようなモダン・プルースのシンガーたちはソウル・テイストの曲を歌っても様になってこの時代をしのいでいくのですが、マディは50年代のシカゴ・ブルースを基本にしているブルーズマンですから時代に対応していくのが難しかった。
次の曲のタイトル「ジョン・ザ・コンクァ・ルート」というのは黒人たちが故郷のアフリカから持ってきた民間伝承の宗教で、植物の一種でそれを持っていると幸運が訪れるというものです。この曲は全盛期に発表したHoochie Coochie Man やMannish Boyと同じ流れの曲で悪く言えば二番煎じなんですが、マディの歌だけは素晴らしいです。

4.My John The Conquer Root/Muddy Waters

次の曲もそれ以前にリリースしていた”Tiger In Your Tunk”と同じリズム・パターンを使った曲です。つまり制作するチェス・レコードもマディを売るための新しいアイデアが生まれなかったんですね。

5.My Dog Can’t Bark/Muddy Waters

このあとマディはファンク・テイストやロックテイストのアルバムをプロデュースされるのですが、本人が頑張って歌っても過酷な言い方ですがやはり50年代のものを越えるものは生まれませんでした。時代の流れを感じます。
前回と今回聞いてもらったマディ・ウォーターズ11枚組LPレコード・ボックスセットはネットでUSEDで出ていることがありますが、マディ・ウォーターズを体系的に知りたい方は是非ゲットしてください。
それにしてもこの11枚組LPレコード・ボックスセットをリリースした日本のP-Vineレコードは偉い!素晴らしい!