2017.07.14 ON AIR

テキサスの荒野のように乾いているが、暖かい歌声で飄々と歌うマンス・リプスカム

Mance Lipscomb/Texas Songster

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ON AIR LIST
1.Mama, Don’t Dog Me/Mance Lipscomb
2.Motherless Children/Mance Lipscomb
3.Take Me Back Baby/Mance Lipscomb
4.Rag In G/Mance Lipscomb
5.Baby Please Don’t Go/Mance Lipscomb
6.Willie Poor Boy/Mance Lipscomb(予備)

 

 

 

 

 

 

 

アルバムタイトルがテキサスソングスターですが、
songsterというのはその綴りがstar(stάɚ)ではなく、ster(stɚ)つまり「人」という意味でgangsterといえばギャングのことです。だからsongsterは「歌手」Texas Songsterはつまりテキサスの歌手・・・そんなこと改めて言わんでもと思いますが、つまりこの人はテキサス・ブルーズマンではなくてソングスター、この場合ソングスターというのはブルーズだけでなく、フォークソングやスピリチュアルズ、ラグタイムなども歌う人のことを指してます。
なのでレパートリーのバリエーションは幅広い人です。まずは一曲
1.Mama, Don’t Dog Me/Mance Lipscomb
すごくリズムがいいですよね。この時代の弾き語りのミュージシャンは酒場やパーティで演奏することが多かったので、ビートのある曲でみんなを踊らせるというのが大切な役割のひとつだったわけで、そうなるとリズムがよくないとダメだったのでしょう。

マンス・リプスカムは初録音が65才です。普通やったら定年で孫の世話と盆栽ですか・・その年でデビューです。
彼は1895年にテキサスに生まれてます。お父さんはフィドル、つまりバイオリンを弾いていたそうでそのお父さんの友達にギターを習ったようです。お父さんはアラバマで奴隷の子供として生まれてます。息子のマンス・リプスカムは奴隷ではなかったですが、お父さんが家族を捨ててどこかへ行ってしまったので、彼はテキサスの農園でシェア・クロッパー、要するに農園の小作人として毎日焼け付くような太陽の下でこどもの頃から働きました。
そして土曜の夜になると明けて日曜の昼近くまで近くのジュークジョイントで演奏して、日曜の夜は白人に呼ばれて演奏して、月曜にはまた農園で働くという生活を彼は47年間続けていました。
しかし、彼の歌を聞いているとどこか飄々としていてそういう過酷な日々を送ってきた人とは思えないです。逆にすべての思いをいろんな歌に託してある意味諦観、つまりあきらめていたのかも知れません。
次の歌はスピリチュアルズの有名な一曲で「お母さんが死んだら、お母さんのいない子供はつらい時を過ごす。お母さんが死んだら、お母さんのいない子供はつらい目に遭う。行く所がなくてドアからドアへさまよい続ける」母親がいなくてつらい目にあっている子供たちはいまも昔も世界中でさまよい続けています。
2.Motherless Children/Mance Lipscomb
いまの曲はエリック・クラプトンも「461オーシャン・ブールバード」で歌っていましたが、僕はステイプル・シンガーズのカバーが好きです。

マンス・リプスカムのようなソングスターの人たちはいろんなジャンルの歌を歌うのですが、マンスの声のどこかにいつもブルーズが潜んでいることを感じます。ヘヴィーなブルーズシンギングをするわけでもないので、フォークソングのようにも聴こえるんですがなんかとても悲しい声をしています。
このアルバムのジャケット写真もハットを被って、シャツ一枚でアコースティック・ギターを抱えていてよくいる南部の田舎のおっさんです。玄関先で夕方に歌っているこういう黒人のおっさんを見たことがあります。たぶん近所の人たちはこのおっさんが素晴らしいミュージシャンであることに気づいてないかも知れません。そのさらっと感がやはり音楽にも出ています。
次の一曲もそんな感じです。

3.Take Me Back Baby/Mance Lipscomb
いい声してますよね。いつまでも聞いていられる芯があって枯れてるけど暖かみのある声です。ライヴ聞いてみたかったですね。
1962年に65才で初録音してから亡くなった1976年まで15年の間に彼はカフェやクラブ、フェスティバルにたくさん出演して、ボブ・ディランやジョーン・バエズはじめ多くのミュージシャンに尊敬されて幸せな晩年だったのでは・・と思います。幸せだったと思いたいです。
ブルーズの世界にはブルーズの王様と言われたB.B.キングやオーケストラをバックに華やかなモダン・ブルーズを作ったT.ボーン・ウォーカー、面白い歌詞を作ってダンサブルなブルーズを歌ったルイ・ジョーダンといろんな有名なブルーズマンたちがたくさんいるのですが、その下には日常と寄り添って歌を歌い続けたこのマンス・リプスカムのような人や。まったく名前が知られてなくてレコードにはUNKNOWN(名前知れず、無名)と記載された人たちによって作り上げられてきた世界がブルーズです
次は彼のギターの素晴らしさがわかるインストの一曲です。
4.Rag In G/Mance Lipscomb

毎日仕事が終わってから家でギター抱えて歌ってたんでしょうね。誰に歌うでもなく自分に歌ってたんだと思います。
次はライトニン・ホプキンスやたさくんのブルーズマンが歌った曲「ベイビー、行かないでくれよ」 1分48秒のブルーズです。
5.Baby Please Don’t Go/Mance Lipscomb

財産もお金もない当時の農園で働き続ける黒人が、この歌のように恋人も失ってしまう・・その喪失感の大きさはいかばかりかと思います。
6.Willie Poor Boy/Mance Lipscomb

YouTubeに映像も出ているので見てください。本当に淡々としていて穏やかで、たくさんの辛かったことをすべて抱えて飄々と歌っているように見えます。今日はテキサス・ソングスター、マンス・リプスカムでした。名盤です。ゲットしてください。