2020.01.17 ON AIR

ブルーズの革新からロックの核心を作ったリトル・リチャード その3

Flashin! / Little Richard(P-Vine 1905)

Flashin! / Little Richard(P-Vine 1905)

Here’s Little Richard /Little Richard (Specialty / P-Vine PCD-1901)

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Pray Along With Little Richard (WAX TIME 772186 Vinyl)

Pray Along With Little Richard (WAX TIME 772186 Vinyl)

 

ON AIR LIST
1.Baby/Little Richard
2.Shake A Hand/Little Richard
3.Milky White Way/Little Richard
4.Ready Teddy/Little Richard
5.Jenny Jenny/Little Richard

今日はリトル・リチャードの特集の最後で黒人音楽の聖と俗について、リトル・リチャードのキャリアを通して話してみようと思います。
前々回も話したようにリトル・リチャードも多くの黒人R&Bシンガーと同じようにゴスペル音楽の出身です。幼い頃、彼のお爺さんが信仰の厚い教会の牧師さんだったらしいのですが、お父さんという人は結構のんだくれのグダグダの人だったようです。
つまり、身近に聖なる人間になろうとする祖父とのんだくれの俗っぽい父と別パターンのふたりがいたわけです。そして、前回も話したようにリチャードは早くから自分がゲイだと言う事に気づいて
ました。40年代にゲイであることは社会的にも信仰の上でも除け者扱いで彼の心の中は複雑だったと思います。そういうバックボーンを持ちながら皿洗いや怪しげな飲み屋などでいろんな仕事をしながら彼は音楽への夢を持って、与えられたステージや巡ってきたレコーディングで一生懸命やるのですがなかなか花開きません。リチャードが20代に入った頃の話です。彼はその頃、ビリー・ライトやロイ・ブラウンといった当時流行りのジャンプ・ブルーズを歌っているシンガーが好きでした。つまり、最初はブルーズ・シンガーになろうとしていたわけです。
まずその頃の曲を一曲聴いてみましょう。
1955年ブレイクする前に故郷アトランタでたぶんいろんなレコード会社にアプローチするデモ・テープとして録音されたものです。バックは当時の彼のバンド「アップセッターズ」
このテープを同じR&Bシンガーだったロイド・プライスがスペシャルティ・レコードに送ってみたらどうやと言ってくれたことで道が開けます。
1.Baby/Little Richard
歌の高音部に個性の片鱗がありますが、フツーのブルーズシンガー、R&Bシンガーという感じで曲もバックもまあフツーのよくある感じで強烈に印象に残るものではないです。
それでも、スペシャルティ・レコードのバンクス・ブラックウェルというプロデューサーはこの曲の中に彼の才能を見つけたわけです。
次の曲は僕もカバーしています。フツーのR&Bバラードでそんなにヒットしなかった曲ですが、聴いてもらうとわかるのはバック・ミュージシャンの演奏が素晴らしいのと、その演奏に後押しされるのかリチャードの歌も?溂としてます。
2.Shake A Hand/Little Richard
バンクス・ブラックウェルの名プロデュースで”Tutti Frutti”がヒットして以降、リチャードはヒット街道まっしぐらで名曲が量産されていきます。
しかし、成功して海外ツアーもたくさん始めた2年後の57年にオーストラリアのツアー最中飛行機が墜落しそうになり、それをきっかけに彼は「こういう世俗なR&なんか歌っているからこんな目に遭うんや」と、ロックンロールを止めて突然アラバマのバイブル・カレッジ(日本語でいうと聖書学校)で聖書とキリスト教の神学を勉強して彼は牧師さんになってしまいます。ソウル・シンガーでもブルーズシンガーでもそういウミュージシャンがいますが、ショービジネスの世界とそこで過ごす自分の自堕落な生活がイヤになるんですかね。それはたぶん小さい頃から教会に行ってやはり信仰というものが心に根を張っているからでしょう。
それで先日リトル・リチャードのその頃のゴスペル・アルバムを手に入れました。アナログレコードですが、今日持ってきたので一曲ご紹介します
アルバムタイトルが”Pray Along With Little Richard”「リトル・リチャードと一緒にお祈りしょう」聴いてもらうのはゴスペルのスタンダードで1947年にコールマン・ブラザーズというゴスペルカルテットがヒットさせたものでエルヴィス・プレスリーもカバーしています。
3.Milky White Way/Little Richard
いつものリトル・リチャードもいてある種の強烈さはあるんですが、あの快楽的な悪魔のような歌声ではないですね。

あの悪魔のようなR&Rはもう聴けないのかと思っていたら、その五年後1962年に彼は再びショービジネスの世界に戻ってきます。まさにビートルズをはじめストーンズ、アニマルズなどリトル・リチャードをカバーしてその基礎を築いたイギリスのロックバンドが世界的に売れ始めた頃です。ビートルズのステージでも共演したことがあったのですが、小さなヒットが少しあっただけで昔のようなビッグヒットはなく60年代後半になるとよくある「懐かしのロックンローラー」として活動することになります。70年代はじめにロックンロール・リバイバルのブームで再び脚光を浴びたのですが、いまから聴く50年代の強力なヒット曲はもう出ませんでした。
4.Ready Teddy/Little Richard

ところがまた70年代終わりに「やっぱり教会へ戻るわ」とショービジネスを去ります。ああこれでリトル・リチャードのR&Rももう聴けないかなと思ったら80年代半ばにまたショービジネスに帰ってきました。もうどうなってんのか、おっさん。
僕なんかは信仰がないのでよくわからないのですが、やはり信仰がある彼は何かあると教会に戻るというのが普通のことなんでしょうね。原点に戻るというか。そしかし、ロックン・ローラー、リトル・リチャードはショービジネスでやっぱりお金になるんですよ。すごい歌手ですから。その狭間で揺れ動く心もあると思います。
最後に1957年ロックンローラーとして昇りつめた頃のヒット曲で終わりたいと思います。喉がちぎれんばかりに歌ってます。
5.Jenny Jenny/Little Richard
ほとんどの人間はやはり聖と俗の間で揺れ動くんですが、幼少の頃から信仰のない僕のような人間はそういう意味で帰るところはないんですよね。だから中学の頃からロックやR&Bやブルーズ、ジャズを聴いてきたのは自分にとってはやはり音楽が宗教、音楽が信仰みたいになっています。
偉大なシンガー、リトル・リチャードを三回に渡ってON AIRしました。リトル・リチャードで暖かくなってください。