2020.05.15 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.18
フォーク・ブルーズ編

AMERICAN FOLK & BLUES ANTHOLOGY/LEADBELLY (NOT NOT3CD111)

AMERICAN FOLK & BLUES ANTHOLOGY/LEADBELLY (NOT NOT3CD111)

FRISCO BOUND/Jesse Fuller (ARHOOLIE CD-360)

FRISCO BOUND/Jesse Fuller (ARHOOLIE CD-360)

The Best Of Mississippi John Hurt/Mississippi John Hurt (Vanguard VCD-19/20)

The Best Of Mississippi John Hurt/Mississippi John Hurt (Vanguard VCD-19/20)

ON AIR LIST
1.Midnight Special/Leadbelly
2.Cotton Field/Leadbelly
3.Good Night Irene/Leadbelly
4.San Francisco Bay Blues/Jesse Fuller
5.Coffee Blues/Mississippi John Hurt

今回は「フォーク・ブルーズ」のスタンダード曲
「フォーク・ブルーズ」というのは、僕の中では50年代から60年代の白人のフォーク・ブームの時代に、弾き語りの黒人ブルーズマンが白人のフォークソングと同じような感覚で受け入れられ人気になった頃のブルーズを指しています。
50年代、ボブ・ディランなんかもそうですが、アメリカの民族音楽を過去にさかのぼって歌った人たちがいます。そういうミュージシャンたちは白人のカントリー&ウエスタンと一緒に社会的に弱者であった黒人のブルーズ、ラグタイムなどとくに戦前のアコースティック・ギターの弾き語りの黒人音楽に興味を抱いたようです。
最初に聴いてもらうレッド・ベリーの曲は白人シンガーにも広く取り上げられました。
レッド・ベリーは19世紀後半の生まれですが、生年月日がはっきりしません。生まれたのはルイジアナの農場ですが、若い頃はルイジアナとテキサスあたりのストリートで演奏してました。時には売春や賭博が盛んなヤバい場所で演奏することもあり、気の短い性格からもめ事も多かったのか殺人や殺人未遂で3,4回刑務所で服役しています。最初に聴いてもらう曲も刑務所で作った曲でロックバンドのCCRのカバーでも有名になった曲です。
「朝からろくな食べ物ももらえない刑務所で朝から仕事が始まる。でも、文句は言わない方がいいよ、いろいろとトラブルになるから。Let the midnight special Shine a light on meですから「ミッドナイトスペシャル、ライトで私を照らしてくれ」というサビの部分は、ミッドナイトスペシャルというのは刑務所の近くを夜中に走る急行列車のことで、その列車のライトが刑務所を照らすのですがそのライトを浴びたものは刑務所から出られるという噂というか迷信が囚人たちの間にあったそうです。だからオレを照らしてくれと。それでヒューストンあたりにいるんだったらギャンブルでもめ事を起こさない方がいいよ、喧嘩なんかしたら刑務所行きだからね」という歌です
1.Midnight Special/Leadbelly

中学生の頃に次の歌をニュークリスティ・ミンストレルスという白人のフォーク・グループのカバーで初めて聴きました。シングルレコードも持っていますが、高校生の頃に今度はさっきも言ったロックバンドのCCRがカバーしているのも好きになりました。
ブルーズ・テイストがあるかと言われればあまりないのですが、いわゆる民衆の歌としてフォークとブルーズが一緒に取り上げられた時代の代表的な曲として今回選びました。
2.Cotton Field/Leadbelly

1886年にガッシー・ディヴィスという人が歌ったのが最初と言われている曲をレッドベリーがカバーして、それをまた白人のフォークシンガーたちが歌って有名になった曲です。
少し前にストーンズのキース・リチャーズのソロアルバム”Crosseyed Heart”にも収録されていました。
3.Good Night Irene/Leadbelly
レッドベリーは主に12弦ギターを弾きながら歌いましたが、次のジェッシー・フラーも12弦ギターです。ブルーズのギター名人、ロバート.Jr.ロックウッドもよく12弦ギターを弾いてましたが、戦前の黒人の弾き語りブルーズマンには12弦ギターを使う人が多くいます。12弦の音の響きも好きなんでしようが、大きな音が出るということもうるさい酒場とかストリートで演奏するには役立った楽器だったのでしょう。
ジェッシー・フラーはギターだけでなく、歌、ハーモニカ、カズーそれに自分で作ったフットデラという楽器をひとつりであやつるいわゆるワンマンバンドで、YouTubeで一回見て欲しいんですがめちゃおもろいです。
そのジェシー・フラーのこの曲もフォーク・ブルーズの名曲「愛していた女性が船に乗って行ってしまいサンフランシスコ湾(ベイ)にひとり残されて泣きたい気分だよ」という歌。
1974年にシンガー・ソングライターのフィービー・スノウがリリースしたデビューアルバムがこのタイトルでした。もちろんこの曲も歌っているのですが、白人のフォーク好きな人たちなら必ず知っている鉄板の名曲です。
4.San Francisco Bay Blues/Jesse Fuller
1991年にアンプラグドのライヴをやったポール・マッカートニーがカバーしていました。

フォーク・ブルーズで忘れてはいけないのがミシシッピー・ジョン・ハート。1893年にミシシッピーに生まれたジョン・ハートは多くの黒人と同じように幼い頃から農園で働いてました。9才の時に母親に買ってもらったギターに夢中になり、独自の「スリーフィンガー・ピッキング」を修得し10代にはストリートで演奏するようになってました。34才の時に一緒にやっていたフィドルプレイヤーのウィリー・ナムールがオーケーレコードでレコーディングした際に、彼がジョン・ハートのレコーディングをレコード会社に薦めてくれて録音したもののまったく売れず、彼は故郷に戻ってしまいます。それでずっと地元で農作業をしながら夜の酒場やパーティなんかで歌っていたところ、1963年70才になった頃にハートを探していた民俗学者のトム・ホスキンズという男が訪ねてきてハートは多くの人前に出ることになります。トムはレコードで聞いていた伝説のジョン・ハートを探し続けていたのです。
5.Coffee Blues/Mississippi John Hurt
彼はブルーズマンではないという人もいます。フォーク・シンガーと呼んだ方がいいのかも知れない。実際彼のレパートリーは昔から伝えられてきたカントリー・ソングやフォーク、例えばYou Are My SunShineのようなポピュラーな曲まで入っています。もちろんブルースもあるのですが、聞いてもらったように彼の表現がきれいなギターワークに深みのある暖かい声の歌でブルーズ的な要素よりもカントリー、フォークの要素の方が強いです。でも、ブルーズを聞いているとこういう音楽にも出会うわけで一曲選んでみました。