2020.09.04 ON AIR

モダン・ゴスペル・カルテットの素晴らしさvol.2

They Sing Praises (Legacy/Columbia CK 67007)

They Sing Praises (Legacy/Columbia CK 67007)

The Gospel Train Is Coming (MCA VICTOR MVCE-24003)

The Gospel Train Is Coming (MCA VICTOR MVCE-24003)

The Gospel Sound Of Sprit Feel/ 入門ゴスペル・サウンド (P-Vine UPCD-57)

The Gospel Sound Of Sprit Feel/ 入門ゴスペル・サウンド (P-Vine UPCD-57)

ON AIR LIST
1.Prayer Wheel/The Dixie Hummingbirds
2.In the Morning/The Dixie Hummingbirds
3.One Day/The Angelic Gospel Singers And The Dixie Hummingbirds
4.Sinner Man/Julius Cheeks and The Sensational Nightingales

先週のソウル・スターラズはじめゴスペル・カルテットの歴史上には素晴らしいグループがたくさんあるのですが、今日最初のグループは「The Dixie Hummingbirds」1928年にサウスキャロライナで高校生のジェイムズ・デイヴィスがクラスメイトを誘って結成されました。この高校生でゴスペルカルテットを結成というのが多いのですが、放課後の部活みたいな感覚でしょうか。まあ、ブルーズなんか歌うよりゴスペルの方が親の許可も出るだろうし、近所の人たちも「神様の歌を歌っているえらい子たちだね」と褒めてくれそうだ。
最初は「ステェアリング・ハイスクール・カルテット」という名前だったのが、自由にどこにでも飛び回れる鳥のようにという想いを込めて「ディキシー・ハミングバーズ」と改名しました。
ハミングバードはハチドリのことですね。鳥の中でいちばん小さい鳥と言われていて、蜂のようにブーンブーンって羽根の音を立てるのでハチドリと呼ばれてます。英語のハミングはみなさん知ってように口を閉じて「ムー」って歌うことですが、欧米では蜂の羽音ではなくハミングに聴こえるんでしょうね。ディキシーはアメリカンの南部の州のことをディキシー、ディキシーランドと呼びます。「ディキシーランド・ジャズ」と呼ばれるジャズを知っている方もいると思います。このディキシーという言葉が最近の人種差別反対運動の「ブラック・ライヴズ・マター」の中で使えなくなりました。元々ディキシーランドというのはテキサスやルイジアナなど南部の州のことを指す言葉で、僕なんかはすごくいい愛称だと思っていたのですが、南部の州が黒人奴隷制存続を主張しアメリカ連合国を作ってそれが南北戦争につながったことから、人種差別を想い出させるとして最近使えなくなりました。カントリー・ミュージックのディキシー・チックスというグループも「チックス」と名前を変えてしまいました。そうなるとこのディキシー・ハミングバーズの名前はどうなるんでしょう。ただのハミングバーズになるんでしょうか。
「The Dixie Humingbirds」にはアイラ・タッカーというゴスペルカルテット界の屈指のリード・シンガーがいたのですが、そのアイラの歌がゴスペルなのに僕にはソウルみたいに聴こえた一曲です。
1.Prayer Wheel/The Dixie Hummingbirds
曲の最後の方はソウルのオーティス・レディングやウイルソン・ピケットを聞いているのと同じような高揚感を感じます。彼らのライヴはテンションが高くて聴衆が熱狂して失神するということがよくあったそうですが納得の歌唱です。
いまの曲はブルーズっぽいテイストがあり、ブルーズシンガーのボビー・ブランドもアイラ・タッカーの影響を受けたというのがなんとなくわかります。
もう一曲。
「朝、暗い雲が消え去ってあなたに会えるだろう。そしてこんにちはと言い、川に降りていき、私たちは新しく復活する。朝早くに」
2.In the Morning/The Dixie Hummingbirds
この曲のようにバックにギター、ベース、ドラムが付いてしまうともうR&Bですね。歌詞のYouが神様を表していますが、これをShe(彼女)にしたら本当にR&Bです。アイラ・タッカーの歌は強力です。2分32秒で終わりましたが5分くらいは聞きたいです。きっとライヴではガンガンに盛り上がるんだと思います。
アイラ・タッカーは12才から歌い始めているのですが、家が貧しくてお母さんが靴のセールスをして生計を立てていました。その母から与えられた見本の靴(見本の靴は片足しかない)を左右違う靴を履いて学校に行ってたそうです。でも、アイラは「恥ずかしいなんて思わなかった」と言ってます。そして、子供の頃からいろんな家を一軒一軒まわって”Amazing Grace”などを歌ってお金をもらっていました。彼の近所には年取った盲目のブラインド・シミーというブルーズシンガーがいてその人の世話もしていたそうです。アイラはそのシミーのことを「最高のブルーズシンガー」と言ってます。この話でゴスペルとブルーズが貧しい黒人の生活の中で同じように歌われていたことがわかります。アイラ・タッカー、12,3才のころの話です。
次はディキシー・ハミングバーズが女性のゴスペルグルーブの「アンジェリック・ゴスペルシンガーズ」と一緒に歌っている録音です。これも強力な曲ですが、アンジェリック・ゴスペルシンガーズはフィラデルフィアで結成されて”Touch Me, Lord Jesus” という曲が1949年にミリオンセラーになった有名なグループ。メンバーの交代がありながらも2005年くらいまで続いてたようです。リーダーのマーガレット・アリソンが2008年に亡くなってグループは完全に終わったようです。
1950年代はじめ頃にハミングバーズとアンジェリックは一緒にツアーもしていたようですが、ふたつのグループが強力な掛け合いのゴスペル・シンギングを毎晩繰り広げていたのでしょう。
3.One Day/The Angelic Gospel Singers And The Dixie Hummingbirds

リードのアイラ・タッカーはずっと歌っていましたが2008年に天に召されました。ハミングバーズはあまり活動していないようですが、グループとしてはまだ存続してます。どうするんでしょう、グループの名前。ハミングバーズになるんでしょうか。気になります。

アイラ・タッカーを更に熱唱型にしたのがアイラと同じサウス・キャロライナ出身のジュリアス・チークス。アイラより4才年下でアイラを尊敬していたそうです。ソウルのウィルソン・ピケットやジェイムズ・ブラウンはジュリアス・チークスの歌い方をマネしたと言われています。いわゆるハード・ゴスペル・シャウター。
南部のブルーズマンが子供の頃、貧しくて綿花畑で綿花を摘む仕事を子供の頃からやらされていたという話をいままでたくさんしてきましたが、ゴスペル・シンガーになった人たちも小さい頃の境遇はまったく同じです。「ゴスペル・サウンド」という有名な本に書いてあるのですが、チークスの家は貧しくて12人の兄弟がいたけれどお母さんは全員立派に育てたということです。チークスは成功したある日お母さんに50ドル渡すと「これを全部くれるつもりじゃないよね」とお母さんが言いました。50ドルは大きなお金だったのです。すると横にいたチークスの親友のサム・クックがお母さんのポケットに30ドルを入れたそうです。するとお母さんはその心遣いに泣き出してしまったらしいです。お金にずっと苦労してきたので感極まったのでしょう。
では、ジュリアス・チークスが在籍したカルテット、センセーショナル・ナイチィンゲーイルズです。ゴスペル・カルテットにはリードがふたりいる場合もよくあるのですが、次の曲はアーネスト・ジェイムズがリードで歌い始め、途中からチークスがリードを代わりテンションを上げていくのですが、「明日のことを考えないシャウト」と僕は呼んでるのですが強烈なチークスのシャウトが聞けます。
4.Sinner Man/Julius Cheeks and The Sensational Nightingales
鋼鉄のような強い歌声です。ジェイムズ・ブラウンが歌うようなファンクのルーツも感じます。
ナイティンゲールとは夜にも鳴くので「夜鳴きウグイス」と言われる鳥のことで美しい声で鳴くらしいのですがチークスの声はシャウトする夜鳴きウグイスです。
そういえば、僕の好きなソウルシンガーのオーティス・クレイもセンセーショナル・ナイチィンゲーイルズのメンバーだったことがあります。
ブルーズやソウルとも密接な関係を持ちながら生き続けてきたゴスペルをこの番組でまた聴きたいと思っています