2020.09.18 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.23
戦後エレクトリック・シカゴブルーズvol.4
サニーボーイ・ウィリアムスン2 vol.1 

Sonny Boy Williamson Sings Down And Out Blues/Sonny Boy Williamson (Chess/MCA MVCM-22006)

The Real Folk Blues/Sonny Boy Williamson(Chess/MCA MVCM-22021)

More Real Folk Blues/Sonny Boy Williamson(Chess/MCA MVCM-22022)

 

ON AIR LIST
1.Don’t Star Me Talkin’/Sonny Boy Williamson
2.Cross My Heart/Sonny Boy Williamson
3.Help Me/Sonny Boy Williamson
4.Nine Below Zero/Sonny Boy Williamson

サニー・ボーイ・ウィリアムスンという名前が出るたびに毎回説明してますが、ブルーズ界には同じサニー・ボーイ・ウィリアムスンという名前のブルーズマンがふたりいます。
しかもふたりともハーモニカ・プレイヤーだからややこしい。それで便宜上サニー・ボーイ・ウィリアムスン1と2と呼んでいます。戦前にシカゴで活躍したサニーボーイ・ウィリアムスン(本名ジョン・リー・ウィリアムソン)が本名ジョン・リー・ウィリアムソン1で、以前このブルーズ・スタンダード曲集でON AIRした””Good Morning Little School Girl”が代表曲。
今日聞くのは戦後になってシカゴで活躍した本名アレック”ライスミラー”ウィリアムスン、サニーボーイ2の方です。

このサニーボーイ2の方はずっとアーカンソー州のヘレナを中心に南部で活動していてシカゴに来たのは1955年くらいです。彼はサニーボーイ・ウィリアムスンというブルーズマンがすでにシカゴで売れていることを知ってわざと名前を同じにして南部で稼いでいたのですが、1948年にサニーボーイ1がシカゴで殺されて死んだのでそれでシカゴに出てきたのではないかと思われます。歌もハーモニカもまったく芸風が違うのですが、まあ名前をパックているから会いたくはなかったでしょうね。ところがこの2の方が売れて有名になったので現在ではサニーボーイというとこの2の方を指すことが多いです。
まずは一曲、これはもう誰もが認めるブルーズスタンダード曲でサニーボーイの最も売れた曲でもあります。「オレにしゃべらせんでくれよ。知ってること全部バラしてしまうからな」まあ脅しみたいなブルーズですが、街で女たちが浮気したり金借りたりしてるの知ってるよみたいな歌です。オレにしゃべらせんなよって怖いです。
1.Don’t Star Me Talkin’/Sonny Boy Williamson
この曲がシカゴに来てチェスレコードで最初に録音した曲で、ギターがジミー・ロジャースとマディ・ウォーターズ、ベースにウィリー・ディスクソン、ピアノにオーティス・スパン、ドラムにフレッド・ビロウと当時のシカゴブルーズの最高のメンバーで、南部で超人気のサニーボーイを迎えたわけです。1955年。すでにヒットを出してシカゴの大物になっているマディがバックを務めるくらいですから。
この曲は”Down And Out Blues”というアルバムに収録されていますが、このアルバムで僕がイチオシでブルーズ・スタンダードに選びたいのが次の”Cross My Heart”
イントロのハーモニカとギターの絡みが生み出す緊張感が素晴らしいです。エレクトリック・シカゴブルーズが完全に成熟したサウンドとグルーヴ作り出した名曲です。ギターはロバート・Jr.ロックウッドとルーサー・タッカー。ロックウッドのイントロと歌の合間のオブリガードは名人芸です。
2.Cross My Heart/Sonny Boy Williamson
戦後のシカゴ・ブルーズはリトル・ウォルターがハーモニカの音をアンプに入れてエレクトリック化して成功したので、エレクトリック・ハーモニカのプレイヤーが増えたのですが、サニーボーイはずっと歌のマイクで吹く生音のハーモニカ・プレイヤーでした。エレクトリックしても個性は出るのですが、この生音こそが僕はブルーズ・ハーモニカの神髄ではないかと思ってます。
あとで番組のHPを見てもらうと分かりますが、このアルバム”Down And Out Blues”のジャケットがホームレスっぽいおっさんがストリートで横たわっている写真なのですが、このおっさんはサニーボーイではありません。このおっさんをサニーボーイと思ってこのアルバムを買った後輩がいまして、僕に「ホトケさん、サニーボーイってホームレスやったんですね」って電話してきたことがありました。インパクトの強いジャケットです。
次の曲聞いて「これ、ブッカーTとMG’sのグリーン・オニオンやん」って思った人、正解です。MG’sのインスト曲”グリーン・オニオン”が大ヒットしたのが1962年で、次のサニーボーイの”Help Me”が翌年63年リリースで、しかもオルガンを使ったサウンドもリフのパターンも同じですからパクったと言われて仕方ないです。でも、サニーボーイの強い個性のある歌があるので僕はグリーン・オニオンより10倍くらい好きですけど。
「ひとりではなんもできへんねん、そやから助けてくれよ。もし、助けてくれんかったら他の女に手出してしまうで」とこれまた脅しみたいな歌ですが、おもしろいです
3.Help Me/Sonny Boy Williamson
サニーボーイは40年代にアーカンソー州のヘレナにあるKFFAというラジオ局で「King Biscuit Time」という番組を任されて、この番組が南部一帯ですごい人気になりました。B.B.キングはじめジェイムズ・コットンなど多くのブルーズマンが少年時代にこの番組を聞いていたそうです。だからすごい人なんですけどメンバーにギャラ渡さないで持ち逃げしたり、大酒飲みでホラ吹きで、わけのわからん人やったらしいです。
次の曲名の”Nine Below Zero”は零下9度という意味。「お金も愛もすべてオマエにあげたのに、オマエは他の男とできてしもてオレを零下9度の外に追い出そうとする。めっちゃ惨めや」ブルーズの中のブルーズみたいな歌です。
4.Nine Below Zero/Sonny Boy Williamson
ミディアムテンポのシャッフルリズムが始まった途端に出てくる音がもう「わーっブルーズ」いう感じで、語りのような歌というか嘆きのような歌とそのあとのハーモニカとそれにからむルーサー・タッカーとロックウッドのバックギターが醸し出すすべてがブルーズです。
僕はハーモニカを吹くブルーズマンの中ではこのサニーボーイがいちばん好きなので、カバーして歌いたい曲がたくさんあるのですがなんとも言えない語りのような歌のような独特の歌の印象が強過ぎて難しいです。
まだブルーズスタンダードの曲として選びたい曲があるので来週もサニーボーイです。