2020.09.25 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード曲集 vol.24
戦後エレクトリック・シカゴブルーズvol.4
サニーボーイ・ウィリアムスン2 vol.2

The Real Folk Blues/Sonny Boy Williamson (Chess/MCA MVCM-22021)

Bummer Road/Sonny Boy Williamson(Chess/Universal UiCY-93316)

King Biscuit Time/Sonny Boy Williamson(Arhoolie/P-Vine PCD-24117)

The Sky Is Crying/Elmore James (Sphere/P-Vine PCD-23790)

ON AIR LIST
1.One Way Out/Sonny Boy Williamson
2.One Way Out/Elmore James
3.Unseen Eye/Sonny Boy Williamson
4.Pontiac Blues/Sonny Boy Williamson
5.Mighty Long Time/Sonny Boy Williamson

前回に引き続きサニーボーイ・ウィリアムスン(アレック・ライス・ミラー)から聞いてみましょう。最初の曲は”One Way Out”
僕はロックのオールマン・ブラザーズがカバ-しているのを最初に聴きました。黒人ブルーズに入るすこし前です。サニーボーイを知ってオリジナルはサニーボーイかと思っていたのですが、実はそれよりほんの少し前にエルモア・ジェイムズがレコーディングしています。サニーボーイがチェスレコードで録音したのが1961年9月。エルモアは同じ年の2月か3月にスフィア・レコードで録音してますからエルモアの方が少し早いのですが、作ったのは誰かとクレジットを見るとエルモアの方はエルモア・ジェイムズになっていてサニーボーイの方はサニーボーイとエルモアと両方名前がクレジットされています。たぶん、これはエルモアの作品だと思います。
歌の内容がですね、旦那が家におらんうちにこの男はその嫁さんと不倫濃厚接触するためにその家におったんですね。するとそこへ旦那が帰ってきてしもた。隠れたんですが逃げるにも逃げられへんがなという歌です。
1.One Way Out/Sonny Boy Williamson
サニーボーイとエルモアは若い頃からミシシッピのデルタ一帯で旅をしていた仲なので、たぶんお互いの曲を自分のレパートリーにしたり、歌詞の一部を自分の歌で使ったりということはよくあったんでしょう。実はそこにロバート・ジョンソンも加わって3人で旅っていうのもあったらしいのですが、一緒に旅したいようなしたくないような3人ですが・・・めちゃ怖いですよね。
エルモアのOne Way Outも聞いてみましょうか。エルモアの”The Sky Is Crying”という名盤に収録されているのですが、エルモアはこんな感じです。
2.One Way Out/Elmore James
同じ曲とは思えないですが、リズムもエルモアはシャッフルでやっているし、歌がもうまったく違います。この歌もすごいです。エルモアというと何かとスライドギターと言われますが、こういう普通の押弦スタイルだと意外とB.B.King スタイルのモダンな感じで弾くんですが、こういうスタイルも上手いです。

次は気怠いムードで始まるサニーボーイのハーモニカが本当に素晴らしい。バックのギターはロバートJr.ロックウッドとルーサー・タッカーですが、曲全体に彩りを添えるロックウッドのモダンなギターは見事です。彼のギターでこの曲は更にグレードアップした感じです。ドラム、フレッド・ビロウ、ピアノがオーティス・スパン、ベースがウィリー・ディクソン。鉄壁のチェスレコードのレコーディング・メンバー。1957年、時代的にブルーズ全体が下降していく中、この曲はエレクトリック・シカゴブルーズが円熟した、その極みのサウンドを聞かせてくれます。
「自分のやることには気をつけた方がいいよ。見えない目がオマエを見続けてるいるからな」といかにもサニーボーイらしい思わせぶりな内容です。
3.Unseen Eye/Sonny Boy Williamson
ディープだけどモダンな絶妙の味わい。

では、以前このブルーズスタンダード曲集のメンフィス編でサニーボーイの”Eyesight To The Blind”をOn Airしましたが、シカゴに出てくる前に南部に居た頃の彼の名曲がまだあるので聞いてみましょう。
車をネタにしたブルーズの曲はたくさんあります。次の「ポンティアック・ブルーズ」は50年代最初に流行った車でキャデラックなんかより少し安い車で黒人に人気のあった車種です。「あんたのことも好きやけどポンティアックには首ったけ」という彼女を乗せてドライヴする話で、最後にハイウェイ49をぶっ飛ばすと彼女が「あんた、すべてが最高やわ」というその光景が目に浮かぶような歌です。
4.Pontiac Blues/Sonny Boy Williamson
今日の最後は大好きな曲で、ジェイムズ・コットンがカバーしているのを以前ON AIRしました。
「本当に長い時間が過ぎた。オレがあいつと会ってから長い時間過ぎた。眠れない夜も長く続いた。長い時が過ぎた。部屋のカーペットも色褪せてしまった。もし、あいつが戻ってきたら、オレはもう離しはしない」
5.Mighty Long Time/Sonny Boy Williamson
サニーボーイ・ウィリアムスンはバンドのメンバーにギャラを払わないでひとり占めして逃げてしまうようなひどい人でしたが、彼の曲、歌、ハーモニカはやはりブルーズそのもので、ブルーズという音楽の素晴らしさを味わうことができます。サニーボーイは酔っぱらってスタジオに来て「ウィスキーはないのか」と言って、その場で適当に歌を作ってしまう人でした。生きていることがブルーズそのものである彼がわざわざ曲を作る時間をもうける必要などなかったのでしょう。言葉を発してハーモニカを吹けばそれはもうブルーズだったのです。