2021.05.07 ON AIR

永井ホトケ隆が選ぶブルーズ・スタンダード vol.32
ルイジアナ・ブルーズ vil.3

「ニューオリンズR&Bの土台を作った偉大なピアニスト/プロフェッサー・ロングヘア」

21 Blues Giants/Professor Longhair (P-Vine PCD-3758)

NEW ORLEANS PIANO/Professor Longhair(Atlantic Jazz 7225-2)

Crawfish Fiesta/Professor Longhair (Alligator/King KICP 2581)

ON AIR LIST
1.Mardi Gras In New Orleans/Professor Longhair And His Shuffling Hungarians
2.Tipitina/Professor Longhair
3.Big Chief/Professor Longhair
4.Bald Head/Professor Longhair

今年はニューオリンズの年初めの「マルディグラ」のお祭りも春の「ジャズ・ヘリテイジ・コンサート」も中止となりました。
それでもニューオリンズの人たちは自分たちの家を飾ったりハウスパーティを楽しんだようです。
今日のブルーズ・スタンダード特集はルイジアナ編ということでプロフェッサー・ロングヘアの名曲をお送りします。

プロフェッサー・ロングヘアの曲はもう何度もこの番組でON AIRしていますが、今回は曲を中心に後世にも残る彼のスタンダード名曲を紹介します。
プロフェッサー・ロングヘアは通称「フェス」と呼ばれていたのでここからはフェスと記します。

デビュー録音は1949年。当時のフェスのバンド「シャッフリング・ハンガリアンズ」でした。
最初に聞いてもらうこの曲はフェスの代表曲のひとつであり、ニューオリンズ・ミュージックを代表する一曲でもあります。
「マルディグラを見にニューオリンズへ行くんだよ。カーニバルがどんなのか知りたいんだ。チケットも持ってる。ニューオリンズに着いたらズールーキングに会いたいんだ」
マルディグラというのは先ほども少し触れた1月から2月にかけて催されるお祭りでいわゆる謝肉祭と呼ばれるものです。ストリートでパレードがあったり舞踏会やいろんな催しがあり呑んで食べて踊って歌ってのどんちゃん騒ぎが続きます。最後の日は「ファット・チューズディ」と呼ばれ翌日から行われる禁欲的な日々を前に呑んで食べるので「でぶっちょの火曜日」。最後の狂乱のお祭りがくりひろげられます。歌詞にでてくるズールー・キングというのはアフリカのズールー族をリスペクトしたその王様のこと。やはりこういう所にもアフリカン・アメリカンの原点であるアフリカへの憧れがあるように思います。
マルディグラはニューオリンズのというよりアメリカを代表するカーニバルで、映画の「イージー・ライダー」もマルディグラに行くストーリーでした。アメリカ人にとっては一生一回は行って見たいと思っているカーニバル。

1.Mardi Gras In New Orleans/Professor Longhair And His Shuffling Hungarians
最初に口笛から始まりましたが、この口笛もフェスの音楽に欠かせないものでいろんな曲で使われています。この口笛だけでファンキーなムードになっています。
フェスは30年代から活躍していたのに初録音が1949年ですからかなり時間がかかってます。ニューオリンズのクラブ界隈のミュージシャンの間ではすでに独創的なフェスの演奏は評判になっていましたが、なかなか世に出る機会がなかった人です。
その独創性は次の曲でもしっかり聴くことができます。

「ティピティーナス」という有名なクラブの名前は次のフェスの「ティピティーナ」という曲名からつけられました。歌の内容は他愛のないパーティ・ソングでティピティーナというのは女性の名前で、「ティピティーナ、一緒に楽しもうぜ」というだけの歌ですが、カリブのルンバのリズムとブルーズのブギのテイストが混じった独特のフェスのピアノ・サウンドでこれがニューオリンズR&Bのサウンドとグルーヴ、ニューオリンズ・ファンクの元のひとつです。また、ニューオリンズのピアニストにとっては二つ、三つのリズムがミックスされたこういうポリリズムのフェスの音楽は教科書のようなもので、ずっと受け継がれています。
毎年クラブ「ティピティーナス」では「プロフェッサーロングヘア・ピアノナイト」というライヴが催されてニューオリンズのピアニストたちがフェスの偉業を称え、ピアノプレイを競い合います。
2.Tipitina/Professor Longhair
素晴らしいです。フェスの気取らない歌声とファンキーなピアノ、そしてカリブからのルンバのリズム、ニューオリンズならではのダウンホームなテイストがたまらない。
聞いてもらっているようにいわゆるシカゴブルーズのオーティス・スパンやメンフィス・スリムのようなブルーズ・ピアノとは全く違うピアノ・スタイルです。
次の曲のように普通のシャッフルのリズムを基本としたブルーズもあるのですが、その中にやっぱりニューオリンズの匂いがただよってます。よく「陽気なニューオリンズ」という表現を見かけますが、陽気、つまりファンキーなだけでなく、そこに独特の叙情が今の曲に漂っています。

実はフェスが本格的に認められるようになったのは70年代に入ってからです。50年代には同じニューオリンズのファッツ・ドミノがR&Rブームの波にも乗り世界的にも知られましたが、フェスもほぼ同世代のミュージシャンなのに広く知られることはなかった。60年代にはリー・ドーシー、アニーK・ドゥ、アーマ・トーマス、クリス・ケナー、アーロン・ネヴィルなど全米ヒットを出すニューオリンズのR&Bシンガーたちが次々と登場したのですが、フェスはそのシーンにも登場しませんでした。60年代はミュージシャンというよりギャンブラーとして裏の世界で生きていたような有様でした。今から思えばその60年代あたりにもたくさんレコーディングの機会があれば、もっとフェスの音楽が残っていたと思います。
次の「ビッグ・チーフ」もニューオリンズR&Bを代表する曲。作ったのは同じニューオリンズのアール・キングです。
聞くのはフェスの最後のアルバムとなった80年アリゲーターレコードからリリースのアルバム 「クロウフィッシュ・フィエスタ」
3.Big Chief/Professor Longhair
1980年1月に録音して二ヶ月後にフェスは天国へ行ってしまいました。歌もピアノもこれが最後とは思えないほど力がありソウルフルです。そしてフェスを中心に作られているビートのグルーヴはやはり唯一無二のニューオリンズ・サウンドです。

シャッフルのビートとニューオリンズのマーチングのビートがミックスされ、そこにフェスの歌に呼応するコーラスがあってまさにニューオリンズのカーニバルのムードがいっぱい。
そして、途中のフェスのピアノ・ソロのファンキーなこと!
4.Bald Head/Professor Longhair
なかなか広く知られなかったフェスの音楽は晩年そして亡くなってからますますその評価が高まっています。
そして、今日ON AIRした曲はどれもニューオリンズのスタンダード曲としてずっと歌い継がれているものです。