2021.06.04 ON AIR

私が愛する異彩を放つソウル・シンガー、O.V.ライトの魅力

Eight Men And Four Women / O.V.Wright
(The Complete Recorded Works By The Boss Of Southern Soul For Backbeat And ABC Labels / P-Vine PCD7303-07)

ON AIR LIST
1.That’s How Strong My Love Is / O.V.Wright
2.Why Don’t You Believe Me / O.V.Wright
3.Eight Men And Four Women / O.V.Wright
4.You’re Gonna Make Me Cry / O.V.Wright
5.If It’s Only For Tonight / O.V.Wright

数多いるソウル・シンガーの中でも私が格別に好きなO.V.ライト。どうしても彼のことを残しておきたくて先日ぼくが連載を書いている「ブルース&ソウル」という音楽雑誌に彼のことを書きました。書きつくせなかったんですけどね。そして、文章で書くのも大切なんですが、やっぱり彼の歌を聴いてもらいたい。
1939年テネシーに生まれている。ソウル・ミュージックが花開いた60年代のオーティス・レディングやウィルソン・ピケット、ソロモン・バークなどと同年代。そして多くのソウル・シンガーと同じでその歌の出発は教会のゴスペル。「サンセット・トラベラーズ」ほかゴスペル・グループで歌っていたO.V.は10代からゴスペル界では才能のある歌手として高く評価されていた。
ゴスペルからソウルに転身して歌った最初の曲はメンフィスのマイナーレーベル「ゴールド・ワックス」から1964年にリリースされた”That’s How Strong My Love Is” 。
恐らく彼は尊敬していたサム・クックがゴスペルから転身して成功したような夢を見ていたと思う。しかし、翌年「スタックス・レコード」がオーティス・レディングにこの歌を歌わせてO.V.を遥かに上回る大ヒットとした。私はオーティスのバージョンよりも明らかにO.V.のバージョンの方がいいと思っている。驚いたのは今の”That’s How Strong My Love Is”のデモテープは最初スタックスレコードに持って行ったのだが、スタックスは「ゴスペルが強過ぎる」つまりO.V.の歌のゴスペル・テイストが強過ぎると言って録音しなかった。スタックスのような黒人音楽を出している、しかもゴスペルのれーべるも持っているレコード会社が「ゴスペルが強過ぎる」なんて言うんですね。ゴスペルは黒人音楽のルーツだから黒人シンガーのゴスペルテイストが強いなんていうのは当たり前で、今聞いても格別ゴスペルテイストが強いとは思えないんですがね。
オーティスはすでに”These Arms Of Mine”のヒットもだしていたし、スタックスはゴールドワックスよりもプロモーションの力が強かったこともあり、O.V.のオリジナルはあまりラジオなどでも流されなかった。
「もし、私が空に登る太陽なら愛する君とどこにでも行くだろう。もし、私が太陽が沈んだ後の月ならまだ君の周りにいることを知ってもらうよ。私のこんなにも強い愛、私のこんなにも強い愛」

1.That’s How Strong My Love Is / O.V.Wright
ゴスペルという大きな樹の周りをブルーズが靄のように取り囲んでいるように思える曲です。これはすごく売れなかったけどソウルの名曲、名唱だ。
この時代の黒人音楽の最大のスターはサム・クックで、O.V.もサムに憧れて成功を夢見ていた。そしてサンセット・トラベラーズのマネージャーだったルーズヴェルト・ジャミソンと一緒にソウル界へ入ることを決めたわけですが、そのサンセット・トラベラーズがレコード契約していたのがテキサスのデューク・レコード傘下のピーコック・レコードだった。それでその社長であるドン・ロビーがうちと契約しているのにゴールド・ワックスと契約するのは違反だと言い始め、O.V.はゴールドワックスへ移籍することができなかった。それで仕方なくドン・ロビーのバック・ビートというレーベルから録音しはじめる。
私が最初に聞いたO.V.はそのバック・ビート時代のシングルを集めた1968年リリースのアルバム”(If It Is) Only For Tonight”に収録されている次の曲だった。
2.Why Don’t You Believe Me / O.V.Wright
この曲がレコード店で流れていてなんかすごくいいなぁと思って見たら、前から名前だけは知っていたO.V.でその場でアルバムを買った。
「こんなに愛しているのにどうして信じてくれないのか」
このアルバム”(If It Is) Only For Tonight”の一曲目に入っているのが”Eight Men And Four Women”という曲なのですが、マイナーの寂しげなコーラスから始まるこの歌が最初はあまりいいとは思えなかった。
そもそもタイトルのEight Men And Four Womenが何を意味してるのかわからなかった。しばらくしてアメリカの裁判の陪審制度の陪審員が全部で12人というのを思い出しただからこれは男8人女4人が陪審で、不倫の愛を裁くという歌ですが、まあ実際の裁判ではなく陪審員はいわゆる世間のことだと思います。日本でも有名人なんかが不倫をするとテレビやマスコミそして世間が徹底的に叩く風潮がいいまありますが。
この歌の中の男はこれは不倫の愛だけどお互いに愛し合ってる本当の愛なんだと訴えてる歌です。切羽詰まっている二人の気持ちをO.V.はリアリティを持って歌っています。こういう重いソウルを歌えるのがO.V.ライトです。
3.Eight Men And Four Women / O.V.Wright

O.V.は「自分の歌っている歌はすべてゴスペルから来ている」とインタビューで語っているように歌を歌う精神的な拠り所はやはりゴスペルで、そのあたりはアレサ・フランクリンなどに似たところがあるように思います。
最初に話したオーティス・レディングはロックンロールのリトル・リチャードの影響が大きいのですが、O.V.が影響を受けた歌手はゴスペル・シンガーが多く、唯一サム・クックを好きな歌手に挙げてますが、そのサムも終生ゴスペルから離れることはなかった歌手です。そして次の曲のようにゴスペルにブルーズがうまくミックスされたときにO.V.の本領が発揮されます。
「お前はオレを泣かせる。オレの心を引きちぎる。頼むからオレを泣かせないでくれ。心を壊さないでくれ。愛は幸せを運んでくる。そして愛は悲しみを運んでくる。愛は今日ここにいるけど明日にはいなくなる。」
4.You’re Gonna Make Me Cry / O.V.Wright
このアルバム”(If It Is) Only For Tonight”に収録されているO.V.の60年代半ばの歌にはやはりサム・クックの影響を感じます。
ただO.V.の歌声はサムほどスイートではない。ゴスペルの厳しさみたいなものが声の中にあり毅然とした感じがします。
次の歌も甘いバラードですが、ビター・スイートなどこかに苦さがあり甘すぎない歌です。サム・クックの影響が歌い方の随所にあります。
「オレは君の腕の中にいて今はだれもいない。君も知ってるようにオレには他に女がいるが、でも君といることが正しいと思える。
待ちわびた君のキス、強く君を抱きしめる。ダーリン、愛してると言ってくれ、例え今宵だけでも」
5.If It’s Only For Tonight / O.V.Wright
こういう歌を聴いていると胸がいっぱいになります。優しくて悲しくて・・・何でしょうね、自分の今までのいろんな風景、光景が浮かんで来たりする曲です。
予備:Don’t Want To Sit Down
次回もO.V.ライト特集するのですが、素晴らしい歌手なのにもっともっと知られていい歌手なのに・・といつも思っているんですよ。
しばらく間を置いてまたO.V.ライトをON AIRしたいと思います。月に一回くらいかな・・。