2021.07.16 ON AIR

ブルーズ・ギターの職人たち 
メンフィスから世界へギター一本で名を馳せた男、マット・マーフィ

Matt”Guitar”Murphy In Session from memphis to chicago 1952-61(Jasmine JASMCD3178)

ON AIR LIST
1.Matt’s Boogie/Matt Murphy
2.Mother Earth/Memphis Slim & His Band(guitar:Matt Murphy)
3.Jamboree Jump/Memphis Slim With Matthew Murphy
4.So Many Roads So Many Trains/Otis Rush(rhythm guitar:Matt Murphy)

どんな職業にも職人技を持っている、名人と呼ばれる人がいます。今日はその職人技のブルーズ・ギターを聞かせてくれるギタリストのマット・マーフィー。彼が1952年から61年の約10年間に参加した音源をまとめたアルバム(Matt”Guitar”Murphy In Session from memphis to chicago 1952-61(Jasmine )がリリースされたので今回はそれで彼の見事なギターを聴いてみたいと思います。
私が最初にマット・マーフィのギターに感銘を受けたのは、60年代ブルーズマンたちがヨーロッパで開催された「アメリカン・フォーク・ブルーズ・フェスティバル」のコンサートで集ったライヴ盤に残されたこのブギの曲です。
安定したリズムで見事なビッキングのギターを聞かせてくれます。
1.Matt’s Boogie/Matt Murphy
ピアノ・メンフィス・スリム、ベースがウィリー・ディクソン、ドラムがビル・ステップニー、そしてギターがマット・マーフィ、1960年代前半シカゴ・ブルーズ一流のメンバーです。
マット・マーフィはミシシッピの生まれですが子供の頃にメンフィスに移住します。その子供の頃からお兄さんと一緒にギターを弾いていました。メンフィスで最初にお兄さんがジュニア・パーカーの”Mystery Train”の録音に参加してプロ入りし、マットはハウリン・ウルフのバンドに入ります。ここでウルフからブルーズの歌のバッキングについて教えられたとマットは言ってます。そのあと1952年にピアニストのメンフィス・スリムのバンド「ハウス・ロッカーズ」に参加します。ここからメンフィス・スリムの相棒ギタリストとしてスリムの録音とライヴにたくさん参加しています。余程相性が良かったのかかなり長い間ライヴも録音も共にしています。
マットのギターが曲全体にいいムードを作っているのがわかると思います。
「欲しいものをなんでも買えるたくさんの金を持っていても、どんなに偉くても、どんなに価値があっても、結局最後には大地(Mother Earth)に戻らなきゃいけないからな」
2.Mother Earth/Memphis Slim & His Band(guitar:Matt Murphy)
ピアニストのメンフィス・スリムは元々自分のバンドにギタリストを入れない人だったそうです。つまりギタリストが好きやなかったんですね。わかりますよ、ギタリストによっては音がでかくてこれ見よがしにやたら弾きまくるギタリストもいますから・・。ピアノはステージでアンプで音を大きくすることもできないし、無神経なギタリストだとピアノが聞こえなくなります。嫌になる気持ちはわかります。1952年にスリムのバンドに入り63年にスリムがフランスのパリに移住してしまうまで約10年間二人のコラボは続きました。マットが弾くソロや歌の合間のオブリガードなどはスリムの歌とピアノにうまく対応していて二人のコンビネーションは抜群でした。
次の曲はマットとスリムのデュオの録音で、ロックン&ロール・テイストですが二人の絶妙な音のやり取りを聞くことができます。
3.Jamboree Jump/Memphis Slim With Matthew Murphy
最高のグルーヴです

マット・マーフィだけでなくジミー・ロジャース、ロバート・Jr.ロックウッド、エディ・テイラーと言ったブルーズのスタジオ・ミュージシャン的なギタリストはソロとか歌の合間に入れるオブリガードが上手いということだけではなく、その曲のグルーヴ感を作るリズム・ギターがしっかりできる人たちです。それがまず基本です。
次のオーティス・ラッシュの代表的な曲のバックでザク・ザク・ザク・ザクというリズム・ギターで曲のグルーヴを作っているのがマット・マーフィ。素晴らしいソロとオブリガードはオーティス・ラッシュですが、バックのマットのリズム・ギターに今日は注意して聴いてみてください。
4.So Many Roads So Many Trains/Otis Rush(rhythm guitar:Matt Murphy)
イントロから突き刺すようなソリッドなラッシュのギターを受けて、最後までずっしりとしたリズムを繰り出しているマットのリズムが素晴らしいです。この曲の肝はこのマットのリズムギターにあります。

70年代に入ると、74年にブッダ・レコードからジェイムズ・コットン・バンドの名盤「100%コットン」に参加。
このアルバムでマット・マーフィはアレンジを担当して実質的なバンド・リーダーの役割を果たしています。面白いことに彼のギター・ソロらしいソロはありません。しかし、このアルバムはマットなくしてはできなかったアルバムで彼の卓越したリズムギターが随所で聞かれます。

マットが亡くなったのは2018年でした。

マットのようなギター名人でも最初からすごくギターが上手かった訳ではなく、20代の最初にミシシッピからメンフィスに出てきた時はまだまだの腕前だったようです。それでもなんかとかハウリン・ウルフのバンドに入ったり、ジュニア・パーカーの録音に呼ばれたりして次第にのし上がっていきます。T.ボーン・ウォーカーやジャズ・ギターのモダンな奏法の影響を受けてますが、ブルーズのアーシーな部分も持っているところがいいですね。
80年代にはブルーズ・ブラザーズに参加して映画でご覧になった方も多いと思います。
ギター一本で世界に知られたブルーズマン、マット・マーフィでした。