2021.12.10 ON AIR

亡きキャロル・フランに捧ぐ

Soul Sensation/Carol Fran And Clarence Hollimon(P-Vine PCD22253)

See There /Carol Fran And Clarence Hollimon (Black Top CD BT1100)

ON AIR LIST
1.Push-Pull / Carol Fran And Clarence Hollimon
2. I Had A Talk With My Man/Carol Fran And Clarence Hollimon
3.Daddy, Daddy, Daddy/Carol Fran And Clarence Hollimon
4.I Don’t Want To Do Wrong/Carol Fran And Clarence Hollimon

キャロル・フランは以前に一度ON AIRしたことがある。ルイジアナ、ラファイエット出身のキャリアの長い女性ブルーズシンガーで大きなヒットはなかったのですが、とても魅力のある歌声でファンキーでウイットに富んでいて気さくで南部で人気のあるシンガーでした。そのキャロルが9月1日に87才で亡くなりました。残念です。ビッグネイムではなかった彼女ですが、ルイジアナのスワンプ・ブルーズやニューオリンズR&B、ケイジャンなどの匂いのある貴重なシンガーでした。
1933年10月23日生まれ、誕生日が僕と1日違いです。レコード・デビューは1957年でその”Emmitt Lee”という曲はローカルでヒットしたようです。そこからキャロルはずっとシングルをいろんなレーベルからリリースし、ニューオリンズのバーボン・ストリートを拠点にライヴ活動を続けてギター・スリム、リー・ドーシー、ジョー・テックスなどのツアーにも参加しシンガーとしてタフに生きてきました。
しかし、なかなか売れずにメキシコ、マイアミ、テキサスといろんなところに移住して歌い続けました。
彼女に転機が訪れたのは1982年にキャロル・フランは昔一緒にやっていたギタリストのクラレンス・ホリマンと25年ぶりにテキサスで再会したことでした。二人は25年前にニューオリンズで初めて会い、お互いに好意を持っていたようです。再会しそして2人は結婚してそこからデュオで活動を始めます。
漫才だと夫婦漫才ですが夫婦ブルーズがここから始まります。それがとてもいい感じで、92年にブラック・トップレコードから”Soul Sensation”というアルバムをリリース。自分たちのオリジナルにサム・クックやニューオリンズのアール・キングの曲、ゴスペル曲なども収録したこのアルバムが評判になりました。
まず一曲、ザディコ・ミュージックのテイストのファンキーなスワンプ・ブルーズです。途中のクラレンス・ホリマンのファンキーなギターソロも聞きどころです。
1.Push-Pull / Carol Fran And Clarence Hollimon

キャロルのお母さんはピアニストだったので彼女も小さい頃からピアノを弾いてました。それで地元のコンテストで優勝して、15歳くらいから地元のクラブやルイジアナあたりでピアニスト兼ボーカリストとして雇われるようになりました。ある日、ニューオリンズのバーボン・ストリートのキャバレーで歌っているときにエクセロ・レコード(スリム・ハーポなどが在籍)の社長のJ.D.ミラーの目に止まり、レコーディング・デビューすることになりました。それが”Emmit Lee”というニューオリンズ・バラード風の彼女のオリジナル曲でした。この曲はかなり売れました。でも、それ以降もリリースはありましたがヒットは出なかった。しかし、ルイジアナ・ブルーズの大物ギター・スリムのツアーに参加したり、ニューオリンズのクラブで歌ったり、60年代にはジョー・テックスのレヴューでツアーもしましたが録音のヒットは出ませんでした。70年代にマイアミのクラブで歌ったりしていましたが、レコーディングは途絶えてしまいました。
80年代にテキサスのヒューストンに移った時に先ほど言った25年前にニューオリンズで知り合ったギターのクラレンス・ホラマンと再会しました。ここから2人は恋に落ち、83年に結婚して2人で活動するようになります。
次の歌は1964年に女性シンガーのミッティ・コリアがヒットさせたソウル・バラードなのですが、こんなことがキャロルとクラレンスの間であったのかなと想像させます。
歌詞「昨日の夜、彼と話した。彼は全て大丈夫だよと私を安心させてくれた。夜が明けるにつれて悩みが消えていくようで君はショーのスターなんだよと言ってくれた。ぼくは君のものだし他のだれかを好きにはならない。君を寂しくはさせない、結婚してほしいと言ってくれた。私は泣いた。私の目からこぼれる涙に彼はキスしてくれた」
最後のHe kissed the tears From my weeping eyes(こぼれる涙に彼はキスしたのよ)がたまりません。2人のアルバム”Soul Sensation”から
2. I Had A Talk With My Man/Carol Fran And Clarence Hollimon

ホリマンはボビー・ブランド、チャールズ・ブラウンはじめ多くのブルーズ、R&Bシンガーのバックに起用されるギター名人でしたが、やはりキャロルとデュオを組んでから一段とその名前が知れ渡り、二人にとってデュオ組んだことは大正解でした。
90年代に入ると彼らは活発に活動してヨーロッパにも行き、98年には日本のパーク・タワー・ブルースフェスに2人で来日しました。2人のライヴはいつもファンキーで楽しいステージでした。
92年には今聞いてもらったアルバム”Soul Sensation”をリリース。次の曲は94年に同じブラック・トップからリリースされたアルバム”See There”からニューオリンズ・テイストのこの曲。
3.Daddy, Daddy, Daddy/Carol Fran And Clarence Hollimon

2000年にもアルバム”It’s About Time”をリリースしたのですが、リリース後にクラレンス・ハラマンが急死してしまいました。ブルーズの男女デュオもいないし、すごくいい感じで活動してきた2人なので本当に残念で、何よりキャロルの気持ちを思うと切ないです。そして、翌年にはキャロルのお母さんが亡くなり、キャロルは故郷のルイジアナ、ラファイエットに戻りました。その後ソロ・アルバムを出してクラブで歌い続け2015年ドキュメンタリー映画”I Am The Blues”にもキャロルは出演して歌っていました。
次の曲はグラディス・ナイト&ビッブスやエスター・フィリッブスも歌っていますが、キャロルの歌もいいです。
4.I Don’t Want To Do Wrong/Carol Fran And Clarence Hollimon
キャロル・フランはこれという大きなヒット曲もなかったし、録音した曲が発表されないでお蔵入りも多く、不遇な面もありすごく有名なシンガーではない人でした。でも、とても味のある、ファンキーでもありダウンホームなところもありました。いわゆる黒人サーキットの人気クラブシンガーでした。彼女のような女性シンガーが本当に少なくなってしまって寂しいかぎりです。9月1日に故郷ルイジアナ・ラファイエットで87才で亡なくなったキャロル・フランをお送りしました。キャロルのめい福を祈ります。