2021.12.03 ON AIR

音楽に思い込みは良くないという話/フィフス・ディメンションから半世紀マリリン・マックーとビリー・デイヴィスjr.

The Very Best Of The 5th Dimension / 5th Dimension(Sony Music Japan SICP-3710)

blackbird / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.(BMG EE1 538675442)

ON AIR LIST
1.Aquarius / Let the Sunshine In / The 5th Dimension
2.Wedding Bell Blues / The 5th Dimension
3.Blackbird / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.
4.(Just Like) Starting Over [feat. James Gadson] / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.

今日は少しブルーズから離れた話なのですが、或ミュージシャンに対して今まで自分が思っていた印象が時が経ち改めて聴くと違っていたということはないですか。私はこの番組で少し前に取り上げた映画「サマー・オブ・ソウル」の中に登場する「フィフス・ディメンション」というグループについて長い間というか、50年間くらい間違った認識をしていたことに気づきました。
50年前、つまり私が20才頃に「フィフス・ディメンション」は登場しました。男女何人かのコーラス・グループで今から聴いてもらう”Aquarius / Let the Sunshine In”という曲が60年代終わりに大ヒットし、その曲は「ヘア」というミュージカルで使われた曲だったという記憶でした。そして大きな記憶違いをしていたのは白人のコーラス・グループだと思っていたことです。それが「サマー・オブ・ソウル」を観ていたら「あれ?黒人のグループやん」と記憶間違いに気づきました。
「フィフス・ディメンション」は男性三人、女性二人のコーラスグループでその母体は63年くらいからロスのクラブ歌手グループとして始まっています。何度かメンバー・チェンジがあり60年代半ばにビリー・デイビスJr.、マリリン・マックー、ラモンテ・マクレモア、ロン・タウンソン、フローレンス・ラルーというメンバーに落ち着きました。
皆さんもどこかで一度は聞いたことがあるだろうこの曲からスタートです。
1969年ビルボードチャート一位になった大ヒット曲
1.Aquarius~Let the Sunshine In / The 5th Dimension
この曲はAquarius とLet the Sunshine Inと二つの曲を繋げたものです。元々ミュージカル「ヘア」を観て感動したフィフス・ディメンションのメンバーが劇中で使われていた曲を歌いたいと申し出たのが録音のきっかけです。バックの素晴らしい録音に参加したのはドラマーのハル・ブレインはじめ当時LAのトップのレコーディング・ミュージシャン「レッキング・クルー」のメンバーたちです。
後半の”Let the Sunshine In”の歌を聴くと歌がすごくパワフルでソウルフルでやっぱり黒人グループだなと今は思うのですが、70年頃私にはわからなかった。なぜなら彼らの音楽に白人的なテイストがあるからで、実際プロデューサーは彼らを白人のコーラス・グループの「ママス&パパス」の黒人版にしょうとしてたらしく、実際「ママス&パパス」の曲もカバーさせてます。また、67年に彼らがヒットさせた”Up,Up And Away”も当時ラジオからよく流れてきてましたが、白人的な軽いサウンドやコーラスに聞こえてました。私がこの5th Dimensionを白人グループだと思い込んだのも仕方なかったと言い訳させてください(笑)。
次の曲もヒットした曲でオリジナルは女性シンガー&ソングライターのローラ・ニーロ。この曲は白人のポップチャートでは一位になってますが、黒人のR&Bチャートでは23位とあまり黒人にはウケず白人に受けています。調べて見ると彼らは黒人グループなのに白人チャートでは何度も一位を取っているのに、黒人R&Bチャートで一位になった曲はないんですね。面白いグループです。
2.Wedding Bell Blues / The 5th Dimension
メンバーのマリリンとビリーが「ウェディングベル・ブルース」をリリースした69年に結婚するのですが、75年にふたりがグループを脱退してデュオとして活動を始めます。5th Dimensionはその後もグループとして続くのですが全盛期はここで終わりとなります。マリリンとビリーは「星空のふたり/You Don’t Have to Be a Star」などヒットを出してソウル・デュオとして活躍し、ミュージカル出演やテレビの司会者などアメリカのエンターテイメントの世界ですごく有名な存在となり今も活躍しています。
そしてそのふたりが今年アルバムをリリースしました
アルバム・タイトルが”Blackbird”(正式にはBlackbird Lennon McCartony Icon) がいまヘヴィ・ローテーションで我が家に流れています。このアルバムはタイトル曲もそうですが、ビートルズのジョンとポールの曲を取り上げたアルバムです。”Got To Get Yoy Into My Life”から始まり”The Fool On The Hill”,”Yesterday”,”Help”などが収録されています。アルバム・タイトル曲”Blackbird”はビートルズの68年のホワイトアルバムに収録された曲です。私はこの曲をずっと夜更けに鳴いている黒い鳥のことをただ歌っていると思っていたのですが、この歌を60年代にアメリカ南部で辛く、苦しい目に遭いながらも公民権運動で戦っていた黒人女性たちに向かってポールは曲を書いたと最近知りました。そしてその曲をマリリンとビリーがここ数年アメリカで巻き起こっている人種間の分断、そしてBLM運動を提起する目的でこの歌を取り上げたということです。すごく意味のある選曲です。
「黒い鳥が真夜中にさえずっている。傷ついた翼で空へ飛ぼうとしている。これまでの人生、君がただ待っていたのは飛び立つこの瞬間だったんだね」
3.Blackbird / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.
マリリン・マックーはきれいな方で調べたら若い頃はモデルさんをされていたようです。「サマー・オプ・ソウル」の映画の中でも観客の若い男の子があんな可愛い人を見たことがないと語っていました。でもきれいなだけでなく歌も上手いです。マリリンとビリーは現在80歳くらいですが、本当に仲のいい夫婦でその仲の良さが音楽にも出ていると思います。
実はこのアルバムには一つ嬉しいことがあって、ジョン・レノンの”Starting Over”がカバーされているのですが、そのドラムがジェイムズ・ギャドソンなのです。僕のバンド「ブルーズ・ザ・ブッチャー」とコラボしてライヴ・アルバムを一緒に録音してくれたギャドソンが参加しています。では最後にその曲を。
4.(Just Like) Starting Over [feat. James Gadson] / Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.

フィフス・ディメンションから半世紀、Marilyn McCoo & Billy Davis Jr.の新しいアルバム「ブラックバード」は人種問題や格差の広がりに静かな抗議をしています。80才のアフリカン・アメリカン夫婦の美しい抗議でもあります。いいアルバムです。そして映画「サマー・オブ・ソウル」はぜひ観てください。