2022. 03.18 ON AIR

我が愛するエスター・フィリップスと女性R&Bシンガーたち vol.4

A Way To Say Goodbye / Esther Phillips

ON AIR LIST
1.St. Louis Blues/Etta James
2.Rainy Days / Ruth Brown
3.Something He Can Feel / Aretha Franklin
4.A Way To Say Good Bye / Esther Phillips

今日はエスター・フィリップスの特集の最後です。50年代14歳でデビューしてすぐにヒット曲がいくつも出て「14歳のセンセーション」と呼ばれ、大人のミュージシャンに混じってツアー・バスに乗り毎晩いろんな街のクラブやコンサートで歌う生活をエスターはずっと続けました。ヒット曲が出なければレコーディングの機会はなくなり、どんな小さなレコード会社でもチャンスがあればエスターはレコーディングしました。彼女が生きる術は歌い続けるしかなく60年代は二曲のヒットを支えに歌い続け、生き続けました。70年代に契約したKUDUレコードからリリースしたアルバムから”What A Difference A Day Makes”の大きなヒットも出て、アルバムの内容も充実したものがありました。録音ミュージシャンもその頃の一流ミュージシャンたちが参加し、70年代前半の音楽の流れの中に彼女はいました。76年に移籍したマーキュリー・レコードからも4枚のアルバムをリリースしましたが、大きなヒットは出ませんでした。そして80年代に入るとエスターのレコーディングはとだえてしまいます。

その70年代中頃エスターの朋友、ソウル・シスターであるエタ・ジェイムズもドラッグの依存と戦いながら、倒産寸前のチェスレコードに”Come A Little Closer”と言ういいアルバムを残しました。エスターと同じように麻薬の依存症と戦っていたエタ・ジェイムズはこのアルバムの録音を麻薬治療の病院から許可をもらって少しずつやりとげました。14歳くらいから歌ってきた彼女も歌い続けることしかできない女性でした。このアルバムに残された歌がジャンキーとは思えない力強さと歌に向かう意思を感じさせます。ぼくは名盤だと思ってます。
そのアルバムの中から74年グラミー賞のR&B女性ベスト・ヴォーカルにノミネートされた曲です。こんな古いブルーズをまったく古くなく歌えるシンガーはそうはいません。

1.St. Louis Blues/Etta James

R&Bのもう一人私の好きなシンガー、ルース・ブラウン。ルース・ブラウンは50年代にアトランティック・レコードから数々のヒット曲を出してR&B女王とかミス・リズムと呼ばれ一世風靡したのですが、アトランティックとの契約が終わった60年代からはレコード会社を次々移りアルバム・リリースに苦労していました。しかし、エタ・ジェイムズやエスター・フィリップスと同じように70年代、1972年に”The Real Ruth Brown”と言う素晴らしいアルバムを残しました。
以前来日した時に僕は彼女にインタビューさせてもらったのですが、その時もR&Rの殿堂入りやグラミーにもノミネートされていたのに「レコードの契約が今どこのレコード会社ともない」と嘆いてました。ルース・ブラウンほどの歌手でもレコーディング契約がないのかと驚きましたが、やはりコンスタントにヒットがないと契約がなくなる厳しいショービジネスの世界です。ではその素晴らしい”The Real Ruth Brown”から

2.Rainy Days / Ruth Brown

このアルバムに参加したメンバーはRichard Tee(p,org), David Spinozza(g), Ron Carter(b), Bernard Purdie(ds)と錚々たるミュージシャンたち。しかし、この質の高いアルバムからもヒットは出なくて、ルース・ブラウンもこのアルバム以降4年間録音はなく、その後もレコード会社を移籍しながら録音をつづけていました。

そしてエスター・フィリップスを尊敬し親しくしていたソウルの女王、アレサ・フランクリンはこの70年代中頃どうだったのか・・。アレサはさすがに録音は途切れず毎年のようにアルバムをリリースします。70年代に入っても71年の”Spirit In The Dark”から71年フィルモアのライヴ・アルバム、72年にこれも名盤”Young Gifted And Black” そして同じ年に教会でゴスペルを歌った“Amazing Grace”と非常にクオリティの高いアルバムを次々とリリースしました。しかし、74年くらいからヒット曲はあってもチャートの上位に行かなくなります。

3.Something He Can Feel / Aretha Franklin

76年のカーティス・メイフィールドにプロデュースされたアルバム”Sparkle”で少し息をふきかえすのですが、やはりヒットは減って行きました。そして70年代終わりには長く在籍したアトランティック・レコードから離れました。80年代も録音は続きアレサは頑張りましたがヒットは少しずつ出なくなりす。

当たり前のことなんですが時代の移り変わりの中で音楽も流行があり変わっていきます。亡くなる最後までソウルの女王として君臨したアレサでさえヒット曲が生まれなくなっていくことに苦心します。そしてどんなにいい歌手でもヒットに恵まれなければレコーディングはなくなり、もし録音できたとしても小さなレコード会社だとプロモーションがあまりできません。子供の頃から歌うことで生きてきたエタ・ジェイムズやエスター・フィリップスはそこにしか生きていく基盤がありません。しかも男性ミュージシャンが多い中で気を張って生きて行かなければならない。そして若い頃に覚えてしまったドラッグの依存やアルコールの依存を抱えてしまいます。
80年代音沙汰がなくなったエスターの訃報が伝えられたのは84年8月7日。まだ49才だった。晩年は結婚していたらしいが結婚生活はあまりうまく行かなかったようです。その亡くなる直前にインディーズの「ミューズ」と言うレーベルに遺作を残していました。それはドラムとベースがシンセの打ち込みで作られた安っぽいサウンドで、ジャケットもひどい代物でした。私はそのアルバムを持っているが悲しくなってしまうのでほとんど聞かない。しかし、その安っぽいサウンドの中でエスターが最後の力を振り絞っただろう曲を最後の曲にします。
「夏が終わる時に木の葉が金色に変わる、そう死にゆくものの中に美しさがあることを知る
変わりゆくものによって音楽が作られることも私は知っている
だから私は今日あなたに私たちのゲームを終わりにしてそして別れましょう」

4.A Way To Say Good Bye / Esther Phillips

安っぽいサウンドの中にも私の愛するエスターの歌声は素晴らしいです。
ひとりのミュージシャン、シンガーの歌を大好きになるということはその人の歌の全てを聞き、その人の人生に寄り添うということだと思います。
僕はエスターの人生に寄り添って彼女の歌を聴いてきました。