2022.03.25 ON AIR

サザン・ソウルの名盤、O.V.ライトの”Memphis Unlimited”を聴く

Memphis Unlimited/ O.V.Wright

ON AIR LIST
1.Please Forgive Me/O.V. Wright
2.I’d Rather Be Blind, Crippled And Crazy/O.V. Wright
3.He’s My Son (Just The Same)/O.V. Wright
4.I’ve Been Searching/O.V. Wright
5.Ghetto Child/O.V. Wright

大好きなソウル・シンガー、O.V.ライトのアルバムを順次聞いていこうと思っていたのが去年の夏くらいで途絶えてましたが、久々の復活で今回は73年のアルバム”Memphis Unlimited”です。
このアルバムのレコーディングは鉄壁の「ハイ・リズム・セクション」のメンバー、ドラム:ハワード・グライムス、ベース:リロイ・ホッジズ、キーボード:チャールズ・ホッジズ、ギター:ティーニー・ホッジズ、そしてホーンにウェイン・ジャクソン、アンドリュー・ラブなどのメンフィス・ホーンズ、プロデュースはウィリー・ミッチェル。
これがO.V.ライトのバックビート・レコード時代の最後のアルバムです。このあとハイ・レコードに移籍します。

「もし、あなたの気に沿わないことを僕がしたのならどうか許してほしい。もし、君に涙を流させるようなことをしたのなら僕を許してほしい。もし電話に出れなかったのなら傷つけるつもりはなかったんだ、許してほしい」どうか僕を信じてほしい」と愛する人に許しを願う歌です。

1.Please Forgive Me/O.V. Wright

歌の強弱というか押すだけでなく引きもあって見事な歌唱です。
次はO.V.ライトがライヴ最初の曲として歌っていた曲で日本公演の時もこの曲で登場しました。ライヴだともう少しテンポが早いのですが、このスタジオのミディアム・テンポのグルーヴはやはりこの録音メンバーならではのものです。
曲の内容が彼女に愛されないなら目が見えなくなって、不自由になって、気が狂った方がマシだという少し過激なものですが、O.V.の歌は迫ってくるようなリアリティがあります。

2.I’d Rather Be Blind, Crippled And Crazy/O.V. Wright

バックの重厚なグルーヴとサウンドに支えられてO.V.の名唱の一つであり、ソウルの名曲に入れてもいい素晴らしい曲だと思います。

個人的にはこのアルバムのハイライトが次の曲です。歌の内容は重いです。
「恐らく刑務所で服役を終えて帰ってきた男。帰ってくると自分の妻に子供ができていた。子供は可愛くて顔も仕草も自分に似ているけど、自分の刑期は5年、子供は3才だ。どう考えても自分の子供ではない。すると妻が自分の兄弟と一度だけ過ちを犯したと言う。つまり自分の兄弟の子供で自分の子供ではない。でも、それでもこの子は自分の子供だ。この子を愛している」と言う内容。
歌詞の光景が浮かんでくるような素晴らしい歌です。

3.He’s My Son (Just The Same)/O.V. Wright

自分の子供ではないが自分の子供も同然だと受け入れる悲しく、辛い内容ですが、こう言う曲をリアリティを持って歌えるシンガーってなかなかいません。いつも心に残る歌です。

O.V.ライトは例えば同じ南部のソウル・シンガー、オーティス・レディングのように白人層の客の前に出ていくことはほとんどありませんでした。つまり黒人コミュニティでは人気があったのですが、白人層まで人気が広がらなかったためにビッグ・ネイムにはならなかったし、メガヒットもありませんでした。60年代から70年代多くのR&B、ソウルシンガーがイギリスはじめヨーロッパでツアーしましたが、O.V.はそれもなかったようです。だから亡くなる前の年に日本にやってきたのは本当に奇跡のようです。

4.I’ve Been Searching/O.V. Wright

ほんの少しの誠実さとほんの少しの真実をオレはずっと探し続けているんだ。このくそったれな人生の中で探してるんだ・・・と歌ったO.V.の本当の気持ちなのかも知れません。

次の”Ghetto Child”は街角に立って道ゆく人にお金を乞う少年の姿が歌われてます。「お母さんは死んだようにベッドに横たわり、お父さんとは長い間会っていない・・・僕はゲットーの子供なんだ」と歌われています。そういう貧しい黒人の境遇にも彼は腹立たしい思いだったのではと思います。

5.Ghetto Child/O.V. Wright

O.V.は南部に生まれアフリカン・アメリカンとして決して踊るためだけの歌を歌ったのではないシンガーでした。人種差別を受けながらそして貧しさの中にいながらコミュニティの中生きる同胞である黒人たちのために歌っていたと思います。

このアルバム”Memphis Unlimited”から少し期間が空いて、四年後に今度は「ハイレコード」からアルバムをリリースします。
そして実はその四年間、O.Vはドラッグにハマり服役していた期間もありました。またO.V.特集やります。