2022.06.10 ON AIR

ソニー・テリーとブラウニー・マギーをトリビュートしたライ・クーダーとタージ・マハールの新録”Get On Board”

Get On Board/The Songs Of Sonny Terry & Brownie Mcghee/Ry Cooder & Taj Mahal (Nonesuch Records 1-667107)

ON AIR LIST
1.The Midnight Special/Taj Mahal & Ry Cooder
2.My Baby Done Changed The Lock On The Door/Taj Mahal & Ry Cooder 
3.Pawn Shop Blues/Taj Mahal & Ry Cooder
4.I Shall Not Be Moved/Taj Mahal & Ry Cooder 

ライ・クーダーとタージ・マハールのコラボ・アルバム”Get On Board /The Songs Of Sonny Terry & Brownie Mcghee”がリリースされて評判になってます。

ライ・クーダーは75才、タージ・マハールは80才。その2人が若き日に聴いて影響を受けたフォーク・ブルーズのデュオ、ソニー・テリーとブラウニー・マギーをトリビュートしたアルバム。

ライはこのアルバムに一文を書いています。それによると若かった頃にフォークウェイというレーベルからリリースされていたソニー・テリーとブラウニー・マギーの”Get On Board”というタイトルの10インチレコードに出会い、フォーク・ブルーズという音楽が好きになったと書いてます。フォーク・ブルーズというのは、ライも書いていますが、南部のブラインド・レモン・ジェファーソンのようにすごく悲しいブルーズでもなく、ハウリン・ウルフのように荒々しいブルーズでもなく、ワイノニー・ハリスのように大人のよこしまなことを歌うブルーズでもなく、普通の民衆の親しみやすい歌詞で簡単なリズム、そしてアコースティックなサウンドのブルースです。白人でもとっつきやすいブルーズのテイストです。

例えばこんな曲です。

1.The Midnight Special/Taj Mahal & Ry Cooder 

この歌は大昔からアメリカの民謡として主にアフリカン・アメリカンの間で歌われてきた曲です。ミッドナイト・スペシャルとは刑務所の中から見える通り過ぎる夜行列車のライトのことで、刑務所の壁に映る夜行列車が通り過ぎる一瞬の光が服役している囚人にとっては刑務所から出る希望として映ったという歌です。黒人のブルーズシンガー、レッド・ベリーで有名になり、ロックバンドのCCRでご存知の方も多いと思います。

2人が初めて出会ったのは1964年でタージは22才でライはまだ17才。2人は意気投合してバンド「ライジング・サン」を結成してデビュー。レコーディングまでこぎつけたがリリースされたのはシングル一枚でアルバムはリリースされなかった。92年になってやっとアルバムは出ました。

「ライジング・サン」はその後すぐ解散しましたが、68年のタージのファースト・アルバムにはライが参加しています。その後は2人ともブルーズやカントリー、ゴスペル、ジャズなどアメリカン・ルーツ・ミュージックを吸収しながら自らの活動を続け、ライは広くワールド・ミュージックの世界にまで漕ぎ出してキューバの「ブエナビスタ・ソシァル・クラブ」の音楽をプロデュースして世界的にヒットさせたのを覚えてる方も多いと思う。「パリ・テキサス」など多くの映画音楽もライ・クーダーは手がけているのも有名です。一方、タージもブルーズのルーツを持ちながら60年代から途絶えることなくアルバムを発表し、レゲエやハワイアン、カリブの音楽をミクスチャーさせた個性的な音楽も作ってきた。どちらかというとタジのそちらの音楽が好きという人もいる。

こうやって2人の紹介をしているとキャリアが長いのでなかなか曲には入れなくなってしまいますが、新譜「Get On Board」から二曲目。アルバムの最初の曲です。

なかなか面白い曲で夜に家に帰ったらドアの鍵が変えられていて鍵を開けられず中には入れなかった。彼女に「もうその古い鍵ではドアは開かないからね」と言われ、どうしょうかと途方に暮れていたら、友達がやってきて何してるんだというからドアの鍵が変えられていて中には入れないんだと言ったら、「言いにくいけど窓から家の中を見てみろよ」と友達がいうから中を見たら彼女が他の男とキスしてハグしてたという歌です。

2.My Baby Done Changed The Lock On The Door/Taj Mahal & Ry Cooder 

ここで今回のアルバムのテーマとなったソニー・テリーとブラウニー・マギーの話をすると、アコースティック・ギターのソニー・テリーは独学でギターを弾いたのですが、ギターのうまい盲目のブルーズマンもブラインド・ボーイ・フラーと出会いギターを教えてもらってすごくギターが上手くなりました。それでブラインド・ボーイ・フラーが亡くなってからニューヨークに行った時に、ブラインド・ボーイ・フラーが生前コンビを組んでいたハーモニカ・プレイヤーのブラウニー・マギーとコンビを組むことになったわけです。ソニー・テリーがブラインド・ボーイ・フラーのようにギターを弾くことができたからです。そこから2人のデュオが始まりました。

ライが言ってるように音楽的に親しみやすいアコースティックなサウンドと歌詞だったので、ソニー・テリーとブラウニー・マギーは50年代終わりから60年代にかけて白人の若者にすごく人気が出ました。リリースされたアルバムもかなりの枚数があります。南部のコテコテの濃いブルーズではなかったところがウケたのでしょう。

次はライがリード・ヴォーカルを取っている曲でオリジナルはそのブラインド・ボーイ・フラー。とてもリラックスした録音風景がわかるようないいグルーヴです。

3.Pawn Shop Blues/Taj Mahal & Ry Cooder 

いつ聞いてもライのスライド・ギターは素晴らしいです。

次の歌は60年代の公民権運動や人種差別反対運動のデモ行進のときによく歌われていた曲です。ステイプル・シンガーズ、ミシシッビー・ジョン・ハート、カントリーのジョニー・キャッシュなどたくさんミュージシャンに歌われて来たというより、たくさんのアメリカの民衆に歌われて来たトラッド・ソングです。

「私たちは動かない、私たちは退かない」要するに私たちの主張は揺るがないという歌です。

4.I Shall Not Be Moved/Taj Mahal & Ry Cooder 

今日もリモート収録でお送りしました。こういうフォーク・ブルーズからブルーズに親しみが持つ方が増えれば嬉しいです。“