2022.09.16 ON AIR

評判の映画「エルヴィス」そのエルヴィス・プレスリーの初期の歌を聴く

Elvis At Sun/Elvis Presley (BMG BVCM-31120)

ON AIR LIST
1.That’s All Right/Elvis Presley
2.That’s All Right/Arthur Crudup
3.Blue Moon Of Kentucky/Elvis Presley
4.Good Rockin’ Tonight/Elvis Presley
5.Mystery Train/Elvis Presley
6.Milkcow Blues Boogie/Elvis Presley

映画「エルヴィス」が公開されてかなり評判になっていましたが、皆さんご覧なりましたか。
エルヴィス・プレスリーはビートルズ世代の僕よりひとつ前の世代になります。小さい頃、近所のやんちゃなお兄ちゃんたちがプレスリーを真似したリーゼントのヘアーで歩いていたのをおぼえてます。
今日はエルヴィス・プレスリーがその初期に録音を残した「サン・レコード」時代の音源を聴いてみようと思います。メンフィスのサン・レコードはブルーズ・ファンには愛着のあるレーベルでハウリン・ウルフ、ジュニア・パーカー、ジェイムズ・コットンなどのブルーズの録音をたくさんリリースしていました。メンフィスはエルヴィスの地元であることから彼も当然サン・レコードのブルーズをたくさん聴いていました。そして彼が子供の頃住んで地域が黒人たちの居住区と近かったために彼は自然とブルーズ、ゴスペルなど黒人音楽を耳にしていたと言います。
今日聴いてもらう”Elvis At Sun”というアルバムはエルヴィスが初期にどういう音楽的嗜好をしていたのかよくわかる一枚です。
ブルーズ派としてはやはりアルバムに収録されているブルーズ曲が気になりますが、まずは1946年にアーサー・クルーダップが発表した”That’s All Right”のカバー。この曲は1954年エルヴィスのデビュー曲となりました。最初に三曲録音した中の一曲で、他二曲のバラードがあまりバッとしなかった後に歌われました。プロデューサーでもあるサン・レコードの社長サム・フィリップスはこの曲でプレスリーの大きな可能性を見出したと言います。エルヴィスのアコースティックギターのリズムから曲に入ります。エレキ・ギターがスコッティ・ムーア ウッドベースがビル・ブラック。1954年7月のエルヴィスのデビュー・リリース

1.That’s All Right/Elvis Presley

ではここでこの曲の原曲、アーサー・クルーダップのオリジナル・バージョンをちょっと聴いてみましょう。

2.That’s All Right/Arthur Crudup

聴き比べてみるとエルヴイスはブルーズ・テイストもありますが、白人のカントリー・ウエスタンのテイストがありベースも弦をはじくスラップ奏法を使ってます。編成がギター、ウッドベース、そしてエルヴィスのアコースティックギターだけですが、リズムが良いのでグルーヴしていて音が薄いと感じさせません。その頃の社長のサム・フィリップスの口癖は「黒人のように歌える白人のシンガーが出てきたら売れるんだけどなぁ」でしたが、まさにその白人の若者がでてきた瞬間でした。
そしてB面は白人のブルーグラスのシンガー、ビル・モンローの曲のカバーでした。

3.Blue Moon Of Kentucky/Elvis Presley

いま思い出しましたが、確かこの曲、ビートルズのポール・マッカートニーがMTVのアンプラグドのライヴでカバーしていたと思います。
A面”That’s All Right”そしてB面”Blue Moon Of Kentucky”このシングルが売れたことで以後サン・レコードからリリースされたエルヴィスのシングルは片面がブルーズ、もう片面がカントリー、ヒルビリーというセットになりました。つまり、白人にも黒人にも買ってもらえるという目論見でしょう。しかしラジオで流れてくるのを聴いたほとんどの人はエルヴィスのことを黒人シンガーだと思ったようです。
2枚目のシングルのA面となったのはGood Rockin’ Tonight。オリジナルは1947年に黒人シンガーであり、この曲を作ったロイ・ブラウンによってリリースされた曲ですが、その後に歌ったワイノニー・ハリスで大ヒットしてチャート一位になりました。ロックン・ロールの始まりの1曲としても有名な曲です。
プレスリーは1954年9月、さっきのファースト・シングルのリリースから2ヶ月後の2枚目のリリース

4.Good Rockin’ Tonight/Elvis Presley

これもB面がカントリーの曲”I Don’t Care If The Sun Don’t Shine”でした。
今回聴いてもらってるエルヴィスのデビュー直後のサン・レコードの音源でブルース・ファンが気になる一曲は次の「ミステリー・トレイン」でしょう。同じサン・レコードの黒人ブルーズシンガー、ジュニア・パーカーが曲を作り歌った1953年の作品を2年後の1955年にエルヴィスがリリース。
「16両編成の列車がやってきた。俺の彼女を乗せて行ってしまったのさ」と彼女に逃げられた歌かと思いきや3番の歌詞では「線路の上を列車がやってくる。俺の彼女を乗せてやってくる」と彼女は戻ってきたみたいです。

5.Mystery Train/Elvis Presley

次の曲は少し前にON AIRしたココモ・アーノルドがオリジナル・シンガーの曲でミルクカウ・ブルーズ
この曲はスロー・ブルーズで始まるのですが、プレスリーが演奏を止めて「ちょっと変えようぜ」と言ってアップ・テンポのロッキン・ブルーズ、つまりR&Rになるというアレンジ。これでわかるようにロックン・ロールは基本的にそれまでの黒人ブルーズのビートを変えたもの、つまりダンサブルにした音楽だとわかります。
歌詞は出て行ってしまったカウ(乳牛)つまり彼女か、嫁さんに「お前は出て行ったけど、その内オレが恋しくなって俺にしたことを悔やむだろうよ」という曲。

6.Milkcow Blues Boogie/Elvis Presley

エルヴィスは黒人ブルーズにカントリーのテイストを入れて泥臭さを取り、それをロックする早いビートで歌いそれが当時の黒人のブルーズやR&Bを聴きに行けない白人の若者たちに受けたという面もあると思います。それに端正な顔、イケメンでありファッションも最先端。つまりとても歌の上手いルックスのいい白人のアイドルが50年代半ばに誕生したわけです。
来週はエルヴィスが歌手として最も影響を受けただろう、と言うか歌い方がそっくりのロイ・ハミルトンという黒人シンガーの特集です。