2022.11.11 ON AIR

デビュー前ひたむきにブルーズに取り組むジャニス・ジョップリンを捉えたリハーサル・テープが正式にリリース

Janis Joplin & Jorma Kaukonen/The Legendary Typewriter Tape: 6/25/64 Jorma’s House(BSMF-7677)

ON AIR LIST
1.Trouble In Mind/Janis Joplin
2.Long Black Train/Janis Joplin
3.Kansas City Blues/Janis Joplin
4.Nobody Knows You When You’re Down And Out/Janis Joplin

ロック・ファンならそしてロックを歌う女性なら必ず出会うジャニス・ジョップリン。女性ロック・ヴォーカリストとしてロックの歴史に名を残し、いまも多くのファン、フォロワーを持つ彼女のデビュー前のリハーサル・テープがこの度正式にリリースされることになった。
この音源はこれまでもブートレッグで聞いたことはあったが、音が悪すぎてちょっとという感じだった。しかし今回優れたエンジニアであるマイケル・グレイヴスによって完全修復・リマスターされ音が良くなりリリースに至った。
1964年の録音でジャニスは21歳。1970年にホテルの部屋で一人で死んだ27歳の6年前。故郷テキサスのポートアーサーという小さな街からひとりでサンフランシスコにやって来てまだ1年の頃の録音。
今回リリースされるこのアルバムのタイトルが”The Legendary Typewriter Tape: 6/25/64 Jorma’s House”でミュージシャン名義は「ジャニス・ジョップリン&ヨーマ・カウコネン」です。ヨーマ・カウコネンというのはシスコの有名なロックバンド「ジェファーソン・エアプレイン」や「ホット・ツナ」のメンバーだったレジェンドのギタリスト。この当時ジャニスと二人で小さなクラブでライヴをやりデビュー前のジャニスを支えた人。
このリハーサル・テープはヨーマの自宅で録音されたのでアルバムタイトルに「ヨーマズ・ハウス」と書かれている。しかしタイトルの”The Legendary Typewriter Tape”ってなんだろうと思ったら、この録音をヨーマの自宅でしている時に同じ部屋でヨーマの奥さんがタイプライターを打っていてその音が録音に入っているので「伝説的なタイプライター・テープ/The Legendary Typewriter Tape」となっているそうだ。

最初の曲「トラブルだらけで憂鬱。でもずっとこんなじゃなくて裏口に陽が当たる日も来るだろう。彼と別れてすっかり落ち込んでるけど泣きたくなから笑っているのよ」
ブルーズのスタンダード曲。

1.Trouble In Mind/Janis Joplin

シスター・ロゼッタ・サープ、ニーナ・シモン、ダイナ・ワシントン、アレサ・フランクリンなどたくさんの女性シンガーが歌った曲ですが、ジャニスは誰のを聞いたのだろうか。ジャニスの伝記本を読まれたり、映画を見られた方もいると思いますが、そこでも描かれていますが、10代からあまり友達もいなかった彼女の救いの一つはブルーズを聞き歌うことだった。そんな光景が目に浮かぶジャニスの歌。言われなければ一瞬黒人シンガーかなと思うくらいブルーズ濃度は高い。
次の曲もトラッドな昔から歌われているブルーズ。演奏に入る前にタイプライターの音がめちゃくちゃよく聞こえて笑えますが、そんなこと抜きにジャニスの歌は素晴らしい。

2.Long Black Train/Janis Joplin

ジャニスの堂々とした歌いっぷりが気持ちいいですね。
ヨーマ・カウコネンのギターもすごくいい。フィンガーピッンキングがうまいです。彼のソロ・アルバムを持ってないのでいまゲットしようと検索中。しかし、ヨーマの奥さんも録音しているとわかってただろうにお構いなしにタイプライター打ってるところがなんとも・・それが何十年も経ってこんな貴重な音源になって世界中で聞かれることになるとは・・ヨーマの嫁さんいまどう思ってるんでしょうか。大阪のおばちゃんやったら「そんなん知らんがな」というでしようけどね。
ジャニスは恋愛がなかなかうまくいかなくて男性からの愛に飢えていたと言われているが、次の歌はそんな気持ちで歌ったのか・・・「愛した男は私をばかにしてるから別れるのよ。そしてカンサスシティに男を探しにいくのよ」
メンフィス・ジャグ・バンドの歌で知っているけど、オリジナルは誰なんだろう。この曲でもヨーマのギターのリズムの良さなど上手さが目立ちます。

3.Kansas City Blues/Janis Joplin

いまの歌も言われなければ黒人女性シンガーだと思うくらい。この録音をした21歳の時にすでにこれだけ歌えているわけだから、当時のサンフランシスコの音楽シーンでジャニスが注目されたのも当然という気がする。
このアルバムのジャケット写真を見るとジャニスは長い髪を後ろで束ねて、セーターかトレーナーを着てアコースティック・ギターを持って化粧っ気もなくてすごく真面目な21歳の女性という感じだ。のちのサイケな服に身を包みウィスキーを飲み、タバコをふかし、髪を振り乱して歌うジャニスとは別人のようで顔つきも違う。彼女はすごく短い期間にロックのジャニスになって行ったけど、その根っこにはこのアルバムにあるブルーズがしっかりあったということ。
次の曲もブルーズの古典の一曲。多分30年代の偉大な女性ブルーズシンガー、ベッシー・スミスのバージョンを聞いたのではないでしょうか。
「お金持ってるときには人がいっぱい集まって来てシャンパンやらワインやら高い酒を奢ったけど自分が落ちぶれたらだれも寄り付かなくなった」
最後の方でエンディングが決まらずやり直すところがありますが、まあリハーサル・テープですからそれも楽しんでください。

4.Nobody Knows You When You’re Down And Out/Janis Joplin (start13:00~)

ジャニスはドラッグの過剰摂取で27歳という若さで亡くなった。ともするとそういう酒とドラッグで奔放に生きたというような話題やモンタレー・ポップ・フェスティパルの強烈なパフォーマンスなんかがいつも話題になるのだが、こうしてデビュー前をたどってくとテキサスの小さな田舎町から飛び出して、ウエストコーストにきたブルーズ好きの、そして歌うことが好きな白人の若い女性の姿が見えて来る。まだアルバイトしながら音楽に心の救いを求めて真摯に音楽に取り組んだ普通の女性だと思う。
このアルバムで彼女がやはり類い稀な才能を持った歌手であったことがわかる。
ジャニス・ジョップリンのデビュー前のリハーサル・テープが正式にリリースされたこのアルバムJanis Joplin & Jorma Kaukonen/The Legendary Typewriter Tape: 6/25/64 Jorma’s Houseは12月2日に日本のBMSFレコードから発売されます。