2023.01.27 ON AIR

遠い昔に音楽は人種を越えていた

黒人音楽に素晴らしい曲をたくさん作った白人のソングライターたちその1、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー vol.1

The Leiber & Roller Story

ON AIR LIST
1.Stand By Me/Ben E. King
2.Hound Dog/Freddie Bell&The Bell Boys
3.Hard Times/Charles Brown
4.Kansas City aka KC Lovin’/Little Willie Littlefield
5.Ruby Baby/The Drifters

私はブルーズやR&Bなどブラック・ミュージックを聴き始めた頃、ブラック・ミュージックは黒人たち本人が作詞作曲しているのだと思ってました。
当時はまず作詞作曲家があまり話に上ることもなく、アルバムのジャケットに出るわけでもないしネット社会でもなかったので写真が出回ることもなかったのです。ですから曲を普通に黒人の曲は黒人が作っていると思っていたわけです。そして、黒人のレコーディングも黒人ミュージシャンがやっていると思っていたわけです。そんな頃、白人のオールマン・ブラザーズ・バンドのギターのデュアン・オールマンがウィルソン・ピケットなど黒人の録音に参加していることを知りました。60年代の終わりくらいですかね。それはマッスル・ショールズにあるフェイム・スタジオの録音でした。そこからフェイム・スタジオの録音風景の写真を初めて見たのです。するとミュージシャンはほとんど白人でした。ウィルソン・ピケットの「ダンス天国」もアレサのI Never Loved A Man The Way I Love Youもエタ・ジェイムズのI’d Rather Go BlindやTell Mamaもパーシー・スレッジのWhen A Man Loves A Womanも全てフェイムの白人ミュージシャンがバックでした。そして実は作詞作曲も白人が書いている曲というのがかなりあることに気づきました。その中でよく名前を見かけたのがジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのコンビでした。
まずはその二人が作った最も有名な曲を聴いてみましょう。
1961年 R&Bチャートで一位、ポップチャートでも4位という大ヒットでした。

1.Stand By Me/Ben E. King

実は歌ったBen E. Kingも作詞作曲に参加しておりクレジットには3人の名前が記されています。
Stand By MeはR&Bのヒットからポップのヒットになりこの曲から映画まで作られ有名曲となりましたが、実はジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの二人の最初のヒットは女性ブルーズ・シンガーのビッグ・ママ・ソーントンが歌った”Hound Dog”でした。録音は1952年で翌年53年にR&Bチャートの一位になりましたが、さらに三年後56年に白人のエルヴィス・プレスリーがこの曲をカバーして歌うとあっという間にポップ・チャート1位になりました。
ところが調べてみるとエルヴィスが歌う前にフレディ・ベル&ザ・ベルボーイズというグループが録音していました。今日はその珍しいバージョンを聴いてください。1954年録音。

2.Hound Dog/Freddie Bell&The Bell Boys

これはプレスリーより前にリリースされたのですが、なぜかプレスリーのようにヒットはしませんでした。

ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの作詞作曲コンビはポップ・テイストのあるR&BやR&Rを作る前、最初はブルーズの曲を作っていました。作詞を担当したジェリー・リーバーは早くから父親がいなくて母親が経営する小さな食料品店の配達の手伝いをしていました。彼は白人なのに貧しかったため住んでいる地域が黒人の住む地域でした。それで彼は自然と黒人音楽を耳にしてその楽しさや面白さの虜になっていました。配達に行くと黒人の家に入り込むこともあり、彼らの生活風景を見るわけです。彼らが聴いているラジオから流れている音楽もそうですが、黒人たちが喋るジョークや笑いのネタを知ることになったわけです。だから黒人歌手がジェリーの書いた詞を違和感なく、喜んで歌ったのにはそういう背景があったのです。
「家賃を払う為に服を質屋に入れなければならない貧しさ。つらい時をオレより知ってる奴はいるのか。愛した女は俺が金がなくなると手のひらを返した。あの世に行ってしまえば悲しいこともなくなり、このつらい時もなくなるんだろう」
生きて行くつらい思いを歌ったこういうブルーズの曲を作ったのが白人だったとは・・・。1952年リリース。

3.Hard Times/Charles Brown

これはチャートの67位とそんなにヒットしなかったのですが、チャールズ・ブラウンの代表曲のひとつでこの時代の世相を感じさせるブルーズです。
次は大ヒットしたブルーズですが、こちらはファンキーなブルーズです。この番組では大ヒットしたウィルバート・ハリスンのヴァージョンで何度も聞いてもらっていますが、今日はいちばん最初にこのブルースを歌ったLittle Willie Littlefieldの録音を聴いてください。
内容はカンザス・シティに行けばヒップな可愛い女の子たちと美味いワインがあるよ。飛行機で行くのか列車で行くのか、もし歩いて行くことになっても俺はカンザス・シティに行くよという他愛ないものですが大ヒットしました。
1952年リリース。 曲を作ったジェリー・リーバーとマイク・ストーラーはまだ19歳でした。

4.Kansas City aka KC Lovin’/Little Willie Littlefield

このリトル・ウィリー・リトルフィールドのバージョンは売れなかったのですが、1959年にカバーしたウィルバート・ハリスンのヴァージョンは7週連続一位という快挙。
今のKansas Cityもブルーズの音楽形式ですがサウンドとビートそして全体のムードはR&Bテイストです。それが次の56年リリース、50年代半ばになると流行りは白人の若者も巻き込んだR&BとR&Rになります。
いわゆるパーティ・ソングですがなかなか自分の彼女になってくれないルビーという名前の女の子にいつになったら彼女になってくれるんだ?と問いかけてる歌です。

5.Ruby Baby/The Drifters

ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーは当時「ホワイト・ニグロ」と呼ばれたんですが、本当に黒人の生活に近いところで曲を作り続けた人たちでした。二人はブルーズだけでなくジャズやゴスペルも含め心から黒人たちの歌が好きだったんですね。こんな風に音楽の世界では早くから人種の壁を越えた人たちがいました。
来週もジェリー・とマイクが作ったまだまだある素晴らしい曲の続きをお送りします。