2023.02.03 ON AIR

遠い昔に音楽は人種を越えていた

黒人音楽に素晴らしい曲をたくさん作った白人のソングライターたちその2/ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー vol.2

The Leiber & Roller Story
The Best Of The Drifters
Elvis’ Golden Records

ON AIR LIST
1.Spanish Harlem/Ben.E.King
2.There Goes My Baby/The Drifters
3.Searchin’/The Coasters
4.Jailhouse Rock/Elvis Presley
5.Chapel Of Love/The Dixie Cups

先週に引き続きブラック・ミュージックの作詞作曲をした白人の二人組、ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの話です。
40年代後半から50年代に入ると黒人の音楽がかっこいいと思う白人たちがたくさん出てきます。エルヴィス・プレスリーもそうですが特に貧しい地域では黒人と白人は近所に住んでいるので当然黒人音楽が白人の耳に入るわけです。特にラジオが主体の時代は流れてくる音楽が白人のものか黒人のものかはわからないので(例えばエルヴィスをラジオで聞いた人の中にはこれは黒人だと思い、逆にチャック・ベリーは白人と思われたということがありました)自然と黒人のブルーズやR&Bを好きになる白人が出てきたのです。ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーはまさにそういう白人です。

一曲目、曲名の「スパニッシュ・ハーレム」はニューヨークのマンハッタンのイースト・ハーレムにある黒人や有色人種が多く住む地域ですが、作詞のジェリー・リーバーはそこで生きる女性のことを詞にしました。つまり黒人女性のことだと思います。この曲の作曲はマイク・ストーラーではなくジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの下で働いていた後に名プロデューサーとなるフィル・スペクター。
「スパニッシュ・ハーレムに一本のバラがある。真っ赤なバラがある。太陽の下では見られなくて月が輝いて星が出てくるとそのバラは現れる」
ということは夜の仕事をしている女性のことでしようか。1960年リリース。私の大好きな歌です。

1.Spanish Harlem/Ben.E.King

哀愁のある都会の歌ですね。ストリングス、サックス、コーラスなどいろんな楽器がすごくうまく使われている中にあるベン・E・キングがいい歌声でさらっと歌ってます。

次の歌は今歌ってたベン・E・キングが在籍したこともあるドリフターズなんですが、ベン・Eとあと二人が曲を作ってジェリー・リーバーとマイク・ストーラーはここではプロデューサーとしてクレジットされています。ヒット・メイカーとなったジェリーとマイクはそういう役割も任されていたんですね。これは彼女が出て行ってしまう歌で「なんでオレを置いて行ってしまうんや」と歌ってますが、2番の歌詞に”I broke her heartAnd made her cry”って出てくるんですが、彼女を泣かせるようなことをこの男はやったわけです。多分浮気したんでしょうね。それで怒った彼女が出ていくとなって慌てていると・・。

2.There Goes My Baby/The Drifters

次はジェリー・リーバーとマイク・ストーラー1957年の作品。歌ったのはこれもコーラスグループの「コースターズ」
R&Bチャート1位 ポップでも3位になってます。
R&Bチャートは黒人音楽のチャートでポップ・チャートは白人チャートですが、ポップで3位というのは白人層にもかなり支持されたということです。
Searchin’ですから「探してる」もちろん彼女を・・これも逃げられた歌です。彼女を探して探していつか連れ戻してやるっていう歌ですが、女性は出って行ったらなかなか戻りまへんで・・。

3.Searchin’/The Coasters

Searchin’,Searchin’ってあんまり追いかけると返って逃げられますけどね。私は「去る者は追わず」主義です。
曲を作ったマイク・ストーラーは正式な音楽教育を受けていて大学ではクラシック音楽を専攻していた。マイクもジェリーも黒人音楽が大好きでしたが、レコード屋で働きながら作詞をしていたジェリーがマイクに曲を作ろうと積極的に働きかけていたそうです。
二人は作詞作曲家チームとなり売れ始めるとアトランティック・レコードでプロデュースの仕事もするようになりました。その頃、二人の下で働いていたのがさっき話したビートルズのプロデュースもした名プロデューサーのフィル・スペクター。

ビッグ・ママが歌った”Hound Dog”をエルヴィス・プレスリーカバーしたことで大ヒットとなり、ジェリーとマイクはエルヴィスの曲も書くようになります。やがてエルヴィスの映画の主題歌も担当するようになりレコード業界で大きな成功を得ました。
エルヴィスの映画の主題歌となった曲のひとつが邦題「監獄ロック」。1957年リリース。アメリカでもイギリスでもチャート一位になった世界的なヒット曲で、ブルーズ・ブラザーズ、ジェフ・ベックはじめ多くのカバーを生みました。

4.Jailhouse Rock/Elvis Presley

曲を作ったジェリー・リーバーとマイク・ストーラーそして歌ったエルヴィスは3人とも白人ですが、人種差別が厳しかった50年代に彼らは黒人音楽の素晴らしさを感じそれを人種を超えて自分なりに表現をした偉大な人たちです。50年代に音楽ではすでに人種の壁を超えてくる人たちがいたわけです。
そしてジェリーとマイクは60年代に入るとレッド・バード・レコードという自分たちのレコード会社も設立しました。二人は作詞作曲からプロデューサーとして活躍しレコード制作の裏方としても活動します。
1964年次の曲はジェフ・バリーとエリー・グリニッチとフィル・スペクターの共作でジェリーとマイクのレコード会社からリリースされ全米一位に輝いた曲です。歌ったのはニューオリンズのガールズ・グループ、ディキシー・カップス「涙のチャペル」

5.Chapel Of Love/The Dixie Cups

教会に行って結婚しましようというハッピーな歌で”We’ll love until the end of time”(人生が終わるまで愛し合いましよう)なんてう歌詞が出てきますが、こういうのがチャート一位になるわりには離婚率の高いアメリカです。

2週に渡って50年代から素晴らしい曲をたくさん作った作詞作曲家チームのジェリー・リーバーとマイク・ストーラーの音源を聴きました。黒人音楽の曲を白人たちが作っていたというのを初めて知った時は少し意外でしたが、考えてみればこうしてラジオから流れてくる音楽に黒人も白人もないし、作ったのが黒人か白人かもないわけです。ただいい曲かどうかだけです。音楽は早くから人種の壁を越えていたという話でした。
来週はマイクとジェリーのように黒人音楽が大好きで同じように黒人ミュージシャンにたくさんの曲を提供したシンガー・ソングライター、ダン・ペンの曲を聴きます。