2023.02.10 ON AIR

遠い昔に音楽は人種を越えていた
黒人音楽に素晴らしい曲をたくさん作った白人のソングライターたちその3/
ダン・ペン&スプーナー・オーダム

Moments From This Theatre / Dan Penn&Spooner Oldham(LIVE)
The Fame Studio Story
The Complete Gold Wax Singles

ON AIR LIST
1.Do Right Woman Do Right Man/Aretha Franklin
2.I’m Your Puppet/James & Bobby Purify
3.The Dark End Of The Street/James Carr
4.I’m Living Good/The Ovations Feat. Louis Williams
5.A Woman Left Lonely (Live)/Dan Penn

前回、前々回と黒人音楽に多くの曲を提供した白人のソングライター・チーム「ジェリー・リーバーとマイク・ストーラー」の話をしながら彼らの作った曲を聞きましたが、今回は彼らと同じように黒人音楽に素晴らしい曲をたくさん提供した白人のシンガー・ソングライター、ダン・ペンとスプーナー・オーダムの二人です。
ダン・ペンもスプーナー・オーダムも南部の黒人音楽が豊かなアラバマで育ちました。1940年代です。ダン・ペンの本名はWallace Daniel Pennington(ウォレス ダニエル ペニントン」そのダニエル ペニントンからダン・ペンという名前にしたのでしょう。クレジットでダン・ペンの文字を初めて見た時から「おもろい名前やな」と印象に残りました。彼は10代から曲を作っていて1960年にコンウェイ・トゥイッティというカントリー、ロカビリー歌手に作った”Is a Blue Bird Blue”という曲が少し売れたのが19歳の時です。でも、彼は自分でバンドも作っていて歌手としてデビューして売れたかったようです。地元では歌が上手いと評判だったようでしたが売れませんでした。その頃の彼のアイドルはブルーズとR&Bが好きなのがよくわかるボビー・ブルー・ブランドとレイ・チャールズでした。地元のマッスル・ショールズやメンフィスで活動するうちにソングライターでありプロデューサーでもあるチップ・モーマンやスプーナー・オーダムと知り合いになり一緒に曲を作り始めます。
彼の名前が広く知られるきっかけになったのはマッスル・ショールズに録音に来たアレサ・フランクリンが歌いミリオンセラーになったこの曲でした。1967年リリース。

1.Do Right Woman Do Right Man/Aretha Franklin

「女にちゃんとしていて欲しいと言うのなら男もちゃんとしてないとね。女も男と同じ一人の人間、遊び道具ではないからね」
この素晴らしい曲を毅然と歌ったアレサも素晴らしい。この曲はダンやスプーナーの仲間だったチップ・モーマンとダンの共作ですが、次の曲はダンとスプーナーの共作です。

たぶん、アトランティック・レコードがこれからイチ推しでいくアレサにいまのDo Right Woman Do Right Man曲を歌わせたのは、その前年66年にR&Bチャート5位、ポップチャートでも6位になったこの”I’m Your Puppet”のヒットがあったからだと思います。
歌ったのは黒人デュオのジェイムズ&ボビー・ピュリファイ。邦題が「恋の操り人形」。Puppetというのはあやつり人形のことで「君が糸を引っ張れば僕は君にウインクするしキスもする。もし望むなら面白いこともするよ。君は僕を思うように動かせるんだよ」という優しい恋の歌です。

2.I’m Your Puppet/James & Bobby Purify

ダン・ペンは前回、前々回ON AIRしたジェリー・リーバーとマイク・ストーラーたちと同じように子供の頃から黒人音楽が大好きでした。白人の中には黒人の音楽は聴かないという人も多かった時代ですが、彼らは人種差別はなかった人たちでした。スプーナー・オーダムは高校のバンドでピアノを始めてノース・アラバマ大学に入るのですが、あまり大学に行かずにアラバマ、マッスルショールズの音楽好きが集まるフェイム・スタジオにたむろしていたそうです。そこでギタリスト、ジミー・ジョンソン、ドラムのロジャー・ホーキンスたちと知り合いになりフェイム・スタジオのスタジオ・ミュージシャンになりそこで生涯の友、ダン・ペンと知り合います。
それから名前が知られてスプーナーはキーボード・プレイヤーとしてボブ・ディラン、ニール・ヤング、ジャクソン・ブラウンなどのバックや録音にも参加することになります。

僕はダン・ペンが作った歌を初めて聞いたのはたぶん黒人R&Bシンガー、ジェイムズ・カーが歌った次の”The Dark End Of The Street”だったと思います。
通りの突き当たりの暗闇で二人は許されない恋だとわかってるけど逢瀬を重ねるという不倫の歌です。欧米人はほんまに不倫ソング好きです。
たぶんいろいろ歌になるくらい普段から不倫があるんでしようね。

3.The Dark End Of The Street/James Carr

次の歌はダン・ペンが作った曲で僕がいちばん好きな曲です。時々、この歌が浮かんで自転車に乗ってる時とか歩いている時に口づさんでいます。
胸が暖かくなる曲です。
「住んでいる小さな家がぼくが持っている全てで、でもそれはお城のように思える。ボロい車はスタートしない時があるけど君と一緒に乗っていたらリムジンさ。君の優しい愛があるから僕は元気に気持ちよく生きているんだ」
歌っているのはこれも僕の好きなコーラスグループ、オヴェイションズ

4.I’m Living Good/The Ovations Feat. Louis Williams

最後はジャニス・ジョップリンがアルバム”Pearl”で歌っていた曲ですが、愛する人が去ってしまいひとりぽっちになった孤独を歌った歌です。今日は作ったダン・ペン本人の歌で聞きましょう。
1998年にダンとスプーナーがイギリスで行ったコンサートの素晴らしいライヴアルバム「モーメンツ・フロム・ジス・シアター」から聞いてください。

5.A Woman Left Lonely (Live)/Dan Penn&Spooner Oldham

ダン・ペンの歌は淡々としていますがソウルフルです。人を愛する時に生じる悲しみとか辛さとか苛立ちとか・・複雑な想いがその声の中に潜んでいます。彼は若い頃、黒人シンガーのような歌手になりたいと思っていたみたいですがなれなかった。でも、その歌手になれなかった気持ちを持ちながらやっぱり音楽からは離れないで曲を作っていた。そして出会った生涯の友、スプーナー・オーダムに手伝ってもらってまた歌い始めた。それはもう黒人シンガーのようになりたいという気持ちではなく自分でありたいと思った時だったのではなかと思います。このアルバムはもう軽く人種を越えています。素晴らしいです。
彼のソロ・アルバムもたくさん出ています。ぜひ聞いて見てください。今日は白人のソングライター・シリーズでダン・ペンとスプーナー・オーダムを取り上げました。