2023.03.17 ON AIR

ブルーズ・ギター名人、ウエイン・ペネットの作品集を聴く

Wayne Benett In Session 1950-1961

ON AIR LIST
1.Stormy Monday Blues/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)
2.Hard Luck Blues/Amos Milburn(g.Wayne Bennett)
3.Knocking At Your Door/Elmore James(g.Wayne Bennett)
4.I Feel Alright Again/Junior Parker(g.Wayne Bennett)
5.You’re The One(That I Adore)/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)

どんな世界にも名人と呼ばれる傑出した才能の持ち主はいますが、今日ON AIRするウエイン・ベネットは間違いなくブルーズ・ギターの名人です。まあ、ブルーズだけではなく何でも弾けるギタリストなのですが、彼が活躍した時代がブルーズとR&Bの全盛期だったのでそのあたりにいい録音がたくさん残っています。
ウエイン・ベネットは1931年オクラホマの生まれ。ロスアンゼルス、ニューヨーク、シカゴで活動し晩年はニューオリンズに住み92年にずっと患ってた心臓の病で亡くなりました。享年61歳。ちょっと早いですね。心臓の手術を受ける予定だったのにその前に亡くなったそうです。
ブルースを好きな人たちの間でウエイン・ベネットと言えば、必ず話題に出るのはボビー・ブルー・ブランドの”Stormy Monday”での名演です。もちろん名ブルーズ・シンガー、ブランドの歌の素晴らしさあってのものですが、ギター・ソロだけでなく歌と呼応して弾くオブリガードの見事さも聴いてください。

1.Stormy Monday Blues/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)

ウエイン・ベネットのギターでこの曲のムードが決められていると言ってもいいと思います。T.ボーン・ウォーカーのギター・スタイルを基本にジャズ・テイストを混じえて自分のフレイズを織り込んだギターが素晴らしく、またギターの音質(トーン)が絶品です。
ウエイン・ベネットの影響を受けたギタリストはたくさんいると思うのですが、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン・オールマンもその一人。オールマン・ブラザーズがStormy Monday Bluesをカバーしてるのをご存知の方もいると思いますが、彼らは原曲のT.ボーン・ウォーカーをカバーしたのではなく今のボビー・ブランドのバージョンをカバーしています。コード進行がボビー・ブランドのバージョンだからです。なので当然今の素晴らしいギターは誰だということになったのだと思います。
ウエイン・ベネットはアラジン、ヴィー・ジェイ、コブラ、デューク、フェデラルと名だたる黒人音楽のレコード会社でスタジオ・ミュージシャンとして録音していますが、今回いろいろ調べていてこの人のバックギターもベネットなんだという発見もありました。

40年代中頃から50年代中頃に人気を博したビアニスト・シンガーのエイモス・ミルバーンの全盛期あたりに録音された次の曲にベネットが参加しています。当時19歳とは思えない落ち着いたギタープレイで見事な歌のバックアッブをしています。
そもそもこのブルーズが悲しいブルーズのいちばんに挙げたいくらいヘヴィな歌詞でこんな内容です。「岩がオレの枕で地面がオレのベッド、(家はなくて)ハイウェイがオレの家・・行くあてもないのに歩いて歩いている。オフクロは死んでしまってオヤジに家から出された」と始まって最後は「オフクロの墓石の上で死んでしまおう」という悲しい歌です。

2.Hard Luck Blues/Amos Milburn(g.Wayne Bennett)

今の歌は元々ロイ・ブラウンが1950年に歌ってR&Bチャート一位になったブルーズですが、こういう歌に共鳴せざるを得ないほどアフリカン・アメリカン、黒人の人たちの生活はきついものだったということです。

ウエイン・ベネットはエルモア・ジェイムズの録音にも参加していて次の曲のイントロからオブリガード、ソロで聴けるシャープなギターはウエインのプレイだと思います。
最初、僕はこれはエルモア本人が弾いていると思ってたのですが、よく聴いてみると歌とオブリが重なっているところがあります。そこはエルモアが歌いながら弾くのは無理かなという箇所がいくつかあり、しかもこのテンションの高いちょっとモダンなギターはやはりウエイン・ベネットかと思います。

3.Knocking At Your Door/Elmore James(g.Wayne Bennett)

エルモアの歌のバックでリズムのいいコードワークをしながら時折オブリガードを弾く技はやはりすばらしい。

ブルーズのギター名人と呼ばれる人は他にも、「ブルース・ブラザーズ」でも活躍し多くのブルーズの名曲に参加したマット・マーフィ、そしてブルーズの巨人ハウリン・ウルフの右腕と称されたヒューバート・サムリン、そしてボビー・ブランドのバンドにベネットの後に参加したメル・ブラウンなど何人かいるのですが、不思議なことに他のギタリストはソロ・アルバムを残しているのにウエイン・ベネットだけソロ・アルバムがありません。ギタリストのランクにすればソロがあって当然の人なのに・・なぜかない。

ウエイン・ベネットの素晴らしさはギターソロだけでなく次のようなシャッフル・ビートのリズム、いわゆる裏打ちというやつですがそれも素晴らしくリズムをグルーヴさせています。

4.I Feel Alright Again/Junior Parker(g.Wayne Bennett)

最後にもう一曲ボビー・ブランドのバックで弾いているウエイン・ベネットを聴いてみようと思います。
タイトルの”You’re The One That I Adore”は私が愛おしく、熱愛するのはあなたですという意味だと思いますが、Adoreは崇拝するとかあがめるという意味もあるくらいで同じ愛するのLoveよりももっと精神的な愛に根ざしているという意味だと思います。ブランドが優しさと強さを混じえた歌の表現をするバックでオブリガートと時にコードワークでバックをするベネットのギターが秀逸です。

5.You’re The One(That I Adore)/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)

ボビー・ブランド、エイモス・ミルバーン、エルモア・ジェイムズ、オーティス・ラッシュ、バディ・ガイ、フェントン・ロビンソン、ジミー・リードなど錚々たるブルーズマンの録音とライヴに参加したギター名人、ウエイン・ベネットの50年代から60年代最初の録音を聞きました。ソロ・アルバム本当にないのかな・・・。