2023.04.07 ON AIR

追悼:スペンサー・ウィギンス vol.2

Soul City U.S.A./Spencer Wiggins(Goldwax Records/Vivid Records)
Feed The Flame : The Fame And XL Recordings/SPENCER WIGGINS

ON AIR LIST
1.Walking Out On You/Spencer Wiggins
2.The Power Of A Woman/Spencer Wiggins
3.That’s How Much I Love You/Spencer Wiggins
4.Love Machine/Spencer Wiggins
5.I’d Rather Go Blind/Spencer Wiggins

先週に引き続き2/13に81歳で亡くなった偉大なサザン・ソウル・シンガー、スベンサー・ウィギンスの特集二回目です。今日もウィギンスが66年から69年まで所属したゴールド・ワックス・レコード時代の曲をまず聞いてみようと思います。ウィギンスは1942年の生まれですから録音された頃は20代半ばで将来に向けて夢を持って歌っていた頃でしょう。
ところが彼はずっとシングルしか出せなくてアルバムを出せない状態が続きます。それはやはり大きなヒットが出なかったからです。
先週から聞いているアルバム”Soul City U.S.A.”も1977年になってやっとシングルを組んでリリースされたものです。今日は最初に僕も「ブルーヘヴン」というバンドを組んでいた時にカバー・レコーディングした曲です。軽快なシャッフル・ビートに乗って歌うウィギンスは持っている歌唱力の6,7分くらいの力で歌ってる感じがします。

1.Walking Out On You/Spencer Wiggins

「遊んでばかりいてイライラさせられる彼女にその生き方を変えないんやったら俺は出て行くぜ」と三行半を突きつけたような歌ですね。

このゴールドワックスというレーベルで録音されたウィギンスの曲はバックの演奏もとても丁寧に作りこまれています。ウィギンスの歌も素晴らしいし、バックも申し分ない演奏です。なのに売れなかった。1977年このSoul City U.S.A.というアルバムが日本でリリースされた頃、日本はサザンソウルのちょっとしたブームに入り始めていました。南部のシングルしかない60年代のソウル・シンガーたちの曲を集めたコンピレーション・アルバムもかなりリリースされました。その中でもウィギンスは傑出したシンガーだと僕は感じていました。
次のバラードはスペンサー・ウィギンスの曲の中でもぼくが好きな1曲で強烈な彼の歌唱が聞けます。
男は偉そうにしているけど結局女性が持っている生きる力には勝てないという曲です。
「男はサムソンやヘラクレスみたいに偉そうにしているけど女性の甘い唇に膝まづいてしまう」という歌詞がいいですね。

2.The Power Of A Woman/Spencer Wiggins

次もバラードですがオーティス・レディングやO.V.ライトが歌った名曲”That’s How Strong My Love Is”に匹敵する最上級のサザンソウル・バラードです。
歌に呼応したギター始め素晴らしいバックの演奏にも耳を傾けて聞いてください。

3.That’s How Much I Love You/Spencer Wiggins

スペンサー・ウィギンスの気持ちとバックが一体となってエンディングに向かって行く演奏の素晴らしさ。
大きなヒットが生まれないまま1969年に所属していたゴールド・ワックス・レコードは会社を畳んでしまいます。結局7枚のシングルをゴールドワックスから出して彼はアラバマのマッスルショールズにあるフェイム・レコードに移籍します。
その移籍第一弾が1969年のこの曲です。

4.Love Machine/Spencer Wiggins

アレンジやサウンドの作りに当時のソウル・ミュージック・シーンに対応してヒットを狙っている感じがします。ファンク・テイストもありダンサブルですが、曲のタイトルの「ラブ・マシーン」というのもそうですが、やはり69年70年最初によくあったダンス・ナンバーという感じは歪めない。最後の方で素晴らしいシャウト&スクリームで盛り上がっていくところはやはりゴスペル出身の実力を感じさせられます。
フェイムレコードではシングルが二枚だけのリリースでした。その2枚目の”Double Lovin’”のB面に収録された”I’d Rather Go Blind”で彼は本領を発揮しています。この曲は女性R&B
シンガーのエタ・ジェイムズが友達と作りエタ本人が歌ってヒットした名曲ですが、このスペンサー・ウィギンスのカバーも素晴らしい出来です。
「君が他の男と去って行くのを見るくらいなら僕は盲目になった方がマシだ」という強烈なロストラブ・ソングです。1970年の録音。

5.I’d Rather Go Blind/Spencer Wiggins

音楽の世界は才能があっても、努力があってもそれがヒットや成功に繋がるわけではありません。人との出会いやチャンス、時代の流れなどいろんな要素も絡んでヒットが出たり成功に導かれれたりします。「ソウルシンガーの中のソウルシンガー」と呼ばれたウィギンスは周りからも一目置かれる歌手でしたから、大きなヒットが出ない苦悩は大きかったと思います。この前の野球のWBCの時の村上選手みたいなもんですよ。すごく期待されていて四番を任されて十分な実力もあるのにホームランとか得点に繋がるヒットが出ない村上選手の苦しみみたいなものです。村上選手はそのプレッシャーをはねのけて活躍しましたが、音楽のヒットは自分だけの努力では難しいです。そしてウィギンスはヒットが出ないことに嫌気がさして故郷メンフィスを後にしてフロリダへ移り住みます。
この後の話はまた来週。