スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集
スタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランド その1
ON AIR LIST
1.Farther on up the Road/Bobby Blue Bland
2.I Don’t Want No Woman/Bobby Blue Bland
3.I Smell Trouble/Bobby Blue Bland
4.Cry Cry Cry/Bobby Blue Bland
5.Don’t Cry No More/Bobby Blue Bland
ボビー・ブランドの正式な芸名はボビー・ブルー・ブランドと言います。このブルーが入るところに彼が歌ってきた歌におけるブルーズ濃度の濃さが表れているように思います。今回ギターなど楽器を弾かずに歌だけで勝負するスタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集でやはりスタンダップ・ブルーズ・シンガーと言えばまずこのボビー・ブルー・ブランドを思い浮かべる
人も多いと思います。
1930年生まれで同時代にメンフィスで活動を始めたB.B.キングの5才年下。幼少の頃からゴスペルを歌ったそのルーツはブルーズを歌う時に彼の大きな武器になりました。その彼がボビー・ブルー・ブランドとしてその名を知られるようになったのは1952年にデューク・レコードと契約してから。
最初のヒットは1957年の”Farther on up the Road”
「その道の行く先でおまえがオレを傷つけたようにオマエを傷つけるヤツが出てくるやろ。いつかオマエにもわかるよ。自分で蒔いた種は自分で刈らなあかんっていうことわざがあるやろ、あれは本当や。オマエが誰かをひどい目に合わせるように誰かがオマエをひどい目に合わせることになるんや。笑っているオマエがいつか泣くことになる。これから行く道の先でオレがウソを言うてないことがわかるやろ。この道の行く先でそのうちオマエはわかるはずや」
フラれた男の恨み節のようですが、実にブルーズという感じの歌詞です。
1.Farther on up the Road/Bobby Blue Bland
途中で熱いギター・ソロを弾いているのはブルーズギターの名手パット・ヘア。どっしりとしたシャッフル・ビートを叩き出しているのはのちにB.B.キングのバンドマスターになるソニー・フリーマン。このくらいのテンポのシャッフル・ビートは本当に難しいです。
同じ57年にリリースされたのが、これも今やモダンブルーズ・スタンダードの一曲になっている”I Don’t Want No Woman”
そしてその曲を少しテンポを上げて60年代終わりにギター・サウンドで見事にカバーしたのがマジック・サム。この原曲のギターはクラレンス・ホラマンでマジック・サムはほぼ完コピに近いカバーしてますのでサムも聞いてみてください。アルバム”West Side Soul”に収録されています。
「俺の人生にツベコベ口出すような女はいらん」と突き放すような男らしいブルーズですが、なんか裏があるかもです。
2.I Don’t Want No Woman/Bobby Blue Bland
いまの曲はホーンセクションが入ってないコンボ編成でしたが、ボビー・ブランドは次第に売れるようになるとホーンセクションがついてしっかりアレンジされたゴージャスなサウンドになっていきます。でも実はブランドはギターを重要視していてバット・ヘア、クラレンス・ホラマン、のちに出てくるウエイン・ベネットと必ずギターの名手を起用しています。
次の曲もギターはクラレンス・ホラマン。まさにブルーズという曲。なんか厄介なことが起きるような気がすることをI Smell Troubleつまり「トラブルの匂いがする」と表現しています。そのトラブルが具体的に何かということは歌われてなく、それは男女間のトラブルか金銭的なトラブルか、行く先々の漠然とした不安感なのかわからない、何か悪いことが起きるのではないかというブルーな気持ちが表現されてます。
3.I Smell Trouble/Bobby Blue Bland
途中で「そのトラブルに逃げたり隠れたりしないでオレは笑顔で立ち向かうよ。そしてそれが過ぎ去って行くのを願うばかりさ」という一節がいいですね。
ブルーズのスタンダードとなったこの曲もバディ・ガイ、アイク&ティナ・ターナー、この前特集したリトル・ジョニー・テイラーなどたくさんのカバーがあります。歌もギターもモダンブルーズの教科書のような曲です。
デューク・レコードで以前からアレンジや録音に参加していたトランペットのジョー・スコットが編成したオーケストラがボビー・ブランドのレコーディングバンドとしてつきます。1957年くらいです。トランペットにサックス、トロンボーンにピアノ、ギター、ドラム、ベースという豊かなサウンドになり、それがボビー・ブランドの歌声とうまくマッチしてのちに「デュークのブランド」と言われるようになります。
4.Cry Cry Cry/Bobby Blue Bland
後半に向かってブランドのゴスペル培った力強い歌声を聴くことができます。バックの演奏や録音のサウンドのクオリティが上がった感じがします。
いまの歌は”Cry Cry Cry”「オレのために泣いて欲しい。オレに涙を見せて欲しい。誰かが君を傷つけているように君は僕をずっと傷つけている。ひざまずいて泣いて欲しい。そして君への愛は無駄ではなかったと僕は気付くだろう」
なかなか複雑な大人の愛の歌です。
この頃の録音のドラマーはのちにジェイムズ・ブラウンのバンドに加入するジョン・ジャボ・スタークス、ギターはかのT.ボーン・ウォーカーも絶賛した名人、ウェイン・ベネット。もうこの頃のデュークのスタジオ・ミュージシャンは鉄壁です。そういう腕のあるミュージシャンがバックをしていたこともブランドの歌を引き立たせたと思います。次の曲ではジョン・ジャボ・スタークスのドラムが素晴らしくグルーヴしていて自然と体が動きます。
さっきの歌はぼくのために泣いて欲しいという歌でしたが、次は「泣かないで」です。
「君の愛が本物だとわかったからもう泣かないで。川のように海のように君はたくさん泣いた。わかってるよ君の愛が本当だということは。だからもう泣かないで」
5.Don’t Cry No More/Bobby Blue Bland
長くブルーズを聞いているとブルーズには本当にたくさんいい歌があり、れぞれの歌い方があります。例えば20、30年代のチャーリー・パットンやブラインド・レモン・ジェファーソンのような衒いなく思うままを吐き出すような歌、そしてその流れを汲むライトニン・ホプキンスやジョン・リー・フッカーのようなドライな、熱のある砂漠の風のような歌、そしてB.B.キングやこのボビー・ブランドのような力強いゴスペルの唱法の影響が強いアーバン・ブルースの歌・・・それぞれに魅力的です。その中でもボビー・ブランドがブルーズ・シンガーとしてブラック・ミュージックの世界で評価が高いのは黒人の人たちが感じる自分たちの生活の匂いをその歌から感じさせるからだと思います。
来週またスタンダップ・ブルーズ・シンガーの大本命、ボビー・ブルー・ブランドをお送りします。