祝来日!メイヴィス・ステイプルズ大特集「メイヴィスと黒人音楽の歴史」Vol.1
ゴスペルから始まったメイヴィス・ステイプルズ

ON AIR LIST
1.Unclouded Day/The Staple Singers
2.Will The Circle Be Unbroken/The Staple Singers
3.Glory, Glory, Hallelujah!/The Staple Singers
4.Wade In The Water/The Staple Singers
85才になるゴスペル・ソウル・シンガーのメイヴィス・ステイプルズが三月に来日します。3/11,12,13と三日間ビルボード東京。そろそろツアーも止める年齢になってきているのでこれが最後の来日公演になるかも知れませんが、私は自分のバンドのツアーが入っていて今回観ることができません。でも、たくさんの人にメイヴィスのライヴを観てもらいたいのでこの際メイヴィス・ステイプルズの大特集をすることにしました。そしてメイヴィスの音楽人生を辿ることは黒人音楽の歴史の豊かな時代を辿ることにもなります。
メイヴィス・ステイプルズは1939年生まれで11才からゴスペルを歌いキャリアをスタートさせ、74年間も歌い続けてきた真のレジェンドです。1939年は第二次世界大戦が始まった年でブルーズではルイ・ジョーダン、ラッキー・ミリンダー、ジョー・リギンスなどジャンプ・ブルーズが人気になり、次に生まれてくるR&BやR&Rの土台ができた時代が40年代ですね。メイヴィスはゴスペルの人ですからマヘリア・ジャクソン、クララ・ウォードなどゴスペル・シンガーを尊敬し聴く一方でジャズのダイナ・ワシントンやサム・クックも好きなシンガーだったようです。
お父さんのローバック”ポップス”ステイプルズを中心として家族で作ったゴスペルグループ「ステイプル・シンガーズ」で初めて歌ったのが1953年。そしてグループの名前が知られるようになったのは50年代中頃にリリースした「Uncloudy Day」や「Will The Circle Be Broken」でした。まずはその「Uncloudy Day」から。お父さんのローバックのトレモロで揺らぐギターの音色で始まる独特のゴスペル・サウンドです。
1.Unclouded Day/The Staple Singers
今の歌はタイトルの”Unclouded Day”が「雲ひとつない日」で何度かHomeとLandが出てきて「雲ひとつない故郷」「雲ひとつない国」となるのですが、雲ひとつない晴れ渡った日の雲ひとつない晴れ渡った国というのは苦しいことのない日々と天国のことを歌っているのではないでしょうか。
今のトレモロがかかった揺らぐギターの音でブルージーな印象を受けた人もいると思いますが、お父さんのローバックはミシシッピ生まれでブルーズマンのチャーリー・パットンやサン・ハウスなどに影響されギターを弾き、最初はブルーズを歌っていました。このギターの音と家族で合わせるハーモニーがステイプルズのゴスペル・サウンドの個性となっています。
今の歌のソロをとったのはお父さんのローバック。ステイプル・シンガーズはお父さんがソロを取ることも多いのですが、次第にメイヴィスの歌が評判になりメイヴィスとお父さんがソロを取ることになります。次の曲もステイプルズの初期を代表する曲。これもお父さんのソロから歌が始まります。歌の内容はお母さんが亡くなり霊柩車で運ばれていくときに「頼むからゆっくり運転してくれ。母が逝くのを見たくないんだ」と葬儀屋に頼んでいる歌です。サークルとは絆のことで家族や友人の絆は永遠なのだろうかと歌っています。
2.Will The Circle Be Unbroken/The Staple Singers
歌詞の「ひとつひとつ、席が空いていく。ひとりひとり、みんなは旅立っていった」という最後の下りは今の僕の気持ちでもあります。
メイヴィスのお父さんのローバック・ステイプルズのあだ名はポップスつまり「お父ちゃん」という意味で、その意味の通り自分の子供達(最初は奥さんも参加していた)と作ったファミリー・ゴスペル・グループが「ステイプル・シンガーズ」でした。1948年頃のことです。先ほど言ったようにお父ちゃんは最初ブルーズを歌っていましたが10代の終わりくらいからはゴスペル・グループで歌いはじめ、1935年にシカゴに移住して働きながらゴスペル・グループ「トランベット・ジュビリーズ」に参加しました。そして1948年に自分の奥さんのオセオラと子供達と一緒に「ステイプル・シンガーズ」を結成します。そして50年代の初めからレコーディングを始め、50年代中頃には”This May Be the Last Time”そしてさっきの”Uncloudy Day”,”Will The Circle Be Unbroken”といった曲で知られるようになります。レコーディングが始まった頃には奥さんはメンバーから抜けて、息子のパーヴィスと娘のクレオサそしてメイヴィスというメンバーになります。もう一曲ステイプルズのゴスペルを聞いてみましょう。
3.Glory, Glory, Hallelujah!/The Staple Singers
次第にその歌の素晴らしさが評判になり「ステイプル・シンガーズ」の主要メンバーなっていくメイヴィス。その後メッセージ・ソング、フォークソング、そしてR&B、ソウルといろんな歌を歌うことになりますが、今も変わらず彼女の根底にあるのはゴスペルです。コントラルトと呼ばれる女性の声としてかなり低い音域が出るメイヴィスの歌声はとても個性的で私は聞いていてすごく落ち着くし和みます。
では最後にもう一曲
遠い昔から歌われソウル・コーラスグループTake 6などにも歌われている黒人霊歌です。「水の中を行け」という歌ですが、昔白人の地主から過酷な労働を課せられた黒人たちが逃げるときに犬に追いかけられるのを防ぐために臭いの着かない川の水の中を進んで行けという教えからきている曲です。
4.Wade In The Water/The Staple Singers
ソロを取るメイヴィスの若々しい素晴らしい歌声どうですか。
来日するメイヴィス・ステイプルズの大特集の一回目は彼女の歌のルーツであるステイプル・シンガーズ時代のゴスペルから聞いてもらいました。次週は60年代の公民権運動に喚起されたがステイプル・シンガーズゴスペルからフォークソングやメッセージ・ソングに傾倒していった頃の曲を聴こうと思います。
できるなら今回のメイヴィス・ステイプルズ特集は続けて聴いてもらいたいです。