2016.11.25 ON AIR

偉大なソングライターは素晴らしいシンガーだった~若き日のダン・ペン

DAN PENN/Close To Me: More Fame Recordings (ACE CDCHD1477)
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ON AIR LIST
1.Close To Me/Dan Penn
2.Diamonds/Dan Penn
3.Do You Need It/Dan Penn
4.Reaching Out For Someone/Dan Penn
5.Downright Uptight Good Woman/Dan Penn

 

 

 

 

僕はR&Bやソウルという黒人音楽をすごく好きになった頃、曲作りも演奏もすべて黒人がやっているものだと思っていた。それが何かのアルバム・ジャケットの裏にレコーディング風景を撮った写真が出ていた。ベースは黒人のジェーリー・ジェモットでギターは白人のデュアン・オールマンだった。そしてドラムセットの前に座っている眼鏡をかけた白人の大学生みたいな男が座っていた。いかにもサエない感じの若者。でも、それがその頃好きだったドラムのロジャー・ホーキンスだった。「えっ?ロジャー・ホーキンスって白人なの?こんなサエない感じの?」と驚きました。そして、彼らがアラバマの小さな街マッスルショールズのフェイムというスタジオのスタジオ・ミュージシャンだということもわかった。
そのフェイムスタジオのソングライターにダン・ペンがいた。曲のクレジットを見るたびに変な名前やなぁと思っていた。
今日聴いてもらうのはそのフェイムスタジオでアレサやオーティス・レディング、ウィルソン・ピケットはじめ60年代のソウル・シンガーたちにたくさん歌を提供したダン・ペン(彼も白人)の、彼自身の若き日の歌を聴いてみようと思います。アルバムは”More Fame Recordings”。これの前に”the Fame Recorddings”というのが2012年にリリースされているので、これは続編となります。こういう未発表的な、蔵出し音源はつまらないものが多いですし、しかもこれは続編ですからね・・と思ったらこれが大間違い。この音源はいろんな歌手に歌ってもらうためのデモ音源と言われてたんですが、実は真剣に歌手ダン・ペンとしてシングル発売を狙った正規の、ちゃんとした録音だったんですね。
まずは1964年ダン・ペン初シングルのA面
1.Close To Me/Dan Penn
「君がそばにいてくれたら僕の悩みはみんなどっかへ言ってしまう。僕のそばにいて欲しい」
うーん、ファイヴ・サテンズ、ムーングロウズ、ドリフターズ、フラミンゴスなど50年代のコーラスグループのテイストも入れ込んだソウルフルなダン・ペンの歌声も素晴らしいし、すごくいい曲やと思うんですが、これがまったく売れなかったんです。

ダン・ペンは1941年アラバマ生まれ。14才の時に書いた1960年にコンウェイ・トウィティ( Conway Twitty )が歌ってヒットさせた「Is a Blue Bird Blue」が名前だ出た最初。かなりマセた少年ですよね。地元の小さなクラブなんかで歌いながらシングルを何枚か出していたけどパッとせず、リックホールが作ったフエイム・スタジオのセッションマンになる。ですが、ギターはあまり上手くなかったんですが、曲を作る才能があって、それでフェイムスタジオに来る黒人歌手たちに曲を書いていた。

次はちょっとニューオリンズのテイストがあるポップな曲ですが、こういうのも作ってたんですね。とにかく、自分の曲を歌手やレコード会社に使ってもらいたくて、ラジオやレコードからいろんな音楽を研究し、録音の時には周りがくたびれても「もう一曲やろう、もう一曲やろう」と気持ちが終わらなかったダン・ペンだったそうです。自分たちの可能性をいろいろ探ってたんでしょうね。それとやはり音楽で生活したいという気持ちも強かったと思います。
2.Diamonds/Dan Penn
ずっとこのアルバムを聴いていると彼の一生懸命さが伝わってきます。白人でありながら黒人音楽を好きになっていった若者の情熱を感じます。
彼は自分の作った曲を「素晴らしい黒人シンガーはちょっとだけ変えてもっと良い曲にしてくれた」と言ってます。
でも、次の曲なんかは黒人シンガーが歌ってると言っても誰も疑わないと思う。つまり、ダン・ペンはいわゆるブルーアイド・ソウル(白人のソウルシンガー)の素晴らしい歌手でもあったということが証明されている。この曲は例えばオーティス・レディングやウィルソン・ピケットが歌っていても全然おかしくないものです。
3.Do You Need It/Dan Penn

ダン・ペンを1970年代半ばからソロとして歌い始め、その前60年代はソングライター、プロデューサー、つまり裏方の人だと思っていたんですが、実は若い頃本気で歌手としてやりたかったんですね。その歌が本当にソウルにあふれていて素晴らしくて、なんでこれが売れなかったのかと思います。
ダン・ペンの曲はサザンソウル系のシンガーによって歌われたものが多いのですが、彼はノーザンソウルのモータウンのソウルをよく聴いて研究したと言ってます。次の曲なんかはちょっとそのモータウン的要素があるかなという曲。
「遊びやなくて本当の愛が欲しい。愛を求めて誰かに手を伸ばしている。誰か助けてくれないか」
4.Reaching Out For Someone/Dan Penn

スペンサー・ウィギンスやソロモン・バークなどたくさんのサザン、ディープソウル・シンガーたちが取り上げている”Uptight Good Woman”の原曲が次の曲。ゴスペルタッチの、どう考えても黒人が作り黒人が歌っただろうと思えるんですが、これが白人のダン・ペンなんですね。
相棒のキーボード、スプーナー・オーダムとふたりで録ったデモですが、すごくソウルにあふれてます。

5.Downright Uptight Good Woman/Dan Penn
ゴスペル・テイストを感じさせるすごく気品のある美しい曲でした。

いい音楽を作っていい歌を歌っても、どんなに熱意がこもっていてもそれが売れるのはたまたまだと僕は思う。もちろん、それを仕事にしている以上ヒットを狙うのだけど、当たらないことの方が多い。でも、ヒットを狙ううしろには「こんないい曲」作ったんだけど、みんな聴いてくれないかなという気持ちが大切だと思う。
このアルバムのライナーで、ひとつのリフを思いついただけで「やった!」って思ったとダン・ペンは言ってます。その「やった」の積み重なりがこんな風に素晴らしい曲の出来上がりに繋がっていくんですね。
今日は偉大なソングライターであり、そして素晴らしいシンガーでもあるダン・ペンの若き日のアルバムClose To Me: More Fame Recordingsを聴きました。