2024.10.11 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第四回

Junior Parker vol.1

名ブルーズ・シンガー、ジュニア・パーカーの栄光のデュークレコード時代

ON AIR LIST
1.Next Time You See Me/Little Junior Parker
2.That’s All Right/Little Junior Parker
3.I Wanna Ramble/Little Junior Parker
4.Driving Wheel/Little Junior Parker
5.Sometimes/Little Junior Parker

昔、来日した名ギタリストのデヴィッド・T.ウォーカーがステージでジュニア・パーカーの”Next Time You See Me”を歌っていたのでステージが終わった楽屋で「あの曲はジュニア・パーカーですよね」と言ったニコッと笑って「君はジュニア・パーカー知ってるんか。彼は最高のブルーズ・シンガーや」と言ってました。
今日のスタンダップ・シンガーはその最高のブルーズ・シンガー、ジュニア・パーカーです。

ジュニアという言葉は年下だったり、息子という意味だったり、あるいは経験の浅い者に対してジュニアと呼ぶこともあリます。ジュニア・パーカーは本名ハーマン・パーカー。ジュニアと付いたのはサニーボーイ・ウィリアムスンが大好きでいつもサニーボーイにつきまとっていて息子みたいに見えたのでジュニアと呼ばれるようになったそうだ。
今回のスタンダップ・ブルーズ・シンガーのシリーズは楽器を演奏しないで歌だけで勝負するブルーズマンのことだが、ジュニア・パーカーはそのサニーボーイ・ウィリアムスンを師と仰いだハーモニカを吹く。でも、全曲でハーモニカを吹くわけではなくイメージとしてはやはり歌で勝負したヴォーカリスト、スタンダップ・ブルーズ・シンガー。
1950年代からメンフィスを中心に南部一帯でツアー・ライヴを続け、50年代半ばに契約したデューク・レコードからヒットを連発する。しっかりしたオーケストラ・アレンジをバックに歌うのは同じレーベルのスタンダップ・ブルーズ・シンガー、ボビー・ブランドと同じだった。
男っぽく少し武骨さも感じさせるブランドに比べてジュニア・パーカーの歌は滑らかでメロウだった。
まずは1957年のヒット
「次に君と会う時はも物事は同じやないよ。俺は昔のままではないで。もし君を傷つけたとしたらそれは君自身のせいや。ことわざにもあるように光り輝くものがすべて金ではないし、聖書にも書いてある通り自分で蒔いた種は自分で刈り取らんとあかんのや。君はずっと俺に嘘をついて騙してきたけど、別の女王が君がいた王座にいま座っている」別れるのはええけど次会う時はもう一緒やないんや。新しい女ができてるかもしれん・・・みたいな振られたときの捨て台詞か。

1.Next Time You See Me/Little Junior Parker

1932年の生まれだから同じ時代にメンフィスで活躍したボビー・ブランドの2つ下、B.B.キングの7才下、ジョニー・エースの3才下。またいちばん若いのですが、面白いのは彼らが作り上げた当時のモダンブルーズ以前のダウンホーム・ブルーズの感覚を彼がずっと持っていたことです。いわゆる南部のイナたいブルーズ感覚です。
例えばシカゴ・ダウンホーム・ブルーズのアイコンのひとりジミー・ロジャースのこんな曲を歌っています。1957年の録音です。ハーモニカはジュニア・パーカー本人、ギターはパット・ヘア、ドラムはのちにB.B.キングのバンドマスターになるソニー・フリーマン。

2.That’s All Right/Little Junior Parker

イントロのハーモニカが始まりそれにギターが絡んでいくところなんかはもうブルーズっという感じです。ゆったりとダウンホームでありながらどこかシカゴ・ブルーズとは違うモダンな感覚があります。とにかく歌がうまい。
次の曲はデュークレコードでスターになっていく最初の曲でジョン・リー・フッカーのワン・コード・ブギをベースにしたダウンホームな曲調と思いきやジュニア・パーカーのモダンな歌声が聞く者を圧倒する名曲です。このダウンホームとモダンという二つのテイストがミックスされているところが彼のミソです。

3.I Wanna Ramble/Little Junior Parker

めちゃ声出てますね。
今の曲は10年以上経ってからシカゴのマジック・サムがアルバム”West Side Soul”に”I Feel So Good (I Wanna Boogie)”として録音。そのバージョンも素晴らしい。マジック・サムもジュニア・パーカーの唱法を研究した跡が感じられますが、とにかくパーカーは歌が上手い。声のストレートな出方、豊かな声量、独特なビブラート、リズムの良さ、そして何より気持ちが感じられます。
その素晴らしさがデュークレコードでどんどん開花していき名曲、名唱をたくさん残しました。

次の曲のタイトルのDriving Wheelは直訳すると車の駆動輪ということですが、歌の内容は惚れた彼女が夜遊びする女性なんですが惚れてるから彼女のために車の駆動輪みたいに必死で動いて働いている男の歌です。
I give her ev’rything she needs, I am her drivin’ wheelなんかやるせないです。早くから車社会だったアメリカならではのブルーズです。

4.Driving Wheel/Little Junior Parker

とにかく50年代に一斉を風靡したジュニア・パーカーはブルーズから次の時代のソウルも感じさせる歌の才能を持ちながらもダウンホームな感覚をずっと持っていた本当に個性あるシンガーでした。
ブルーズは歌が上手くなければダメという音楽ではないのですが、でもこういう洗練されたソウルフルな歌声がマジック・サムなどに引き継がれて次の時代のブルーズを作っていくパワーになっていたと思います。

5.Sometimes/Little Junior Parker

こういうスタンダップ・シンガーのアルバムはギターないからなぁとなんてアホなこと思ってる人いるかも知れませんが、いまの曲みたいに思っきりうまいギターが入ってます。ギタリストのアルバムではなくヴォーカリストのブルーズのアルバムなんですが、ギターは絶対入ってます。しかもそのレコード会社のスタジオ・ミュージシャンですからみんなめちゃ上手いんですよ。だからスタンダップ・シンガーのバックのギターをカバーした方がいいんではないかと思いますが・・・ギタリスト諸氏。
来週もジュニア・パーカー