2024.10.11 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第四回

Junior Parker vol.1

名ブルーズ・シンガー、ジュニア・パーカーの栄光のデュークレコード時代

ON AIR LIST
1.Next Time You See Me/Little Junior Parker
2.That’s All Right/Little Junior Parker
3.I Wanna Ramble/Little Junior Parker
4.Driving Wheel/Little Junior Parker
5.Sometimes/Little Junior Parker

昔、来日した名ギタリストのデヴィッド・T.ウォーカーがステージでジュニア・パーカーの”Next Time You See Me”を歌っていたのでステージが終わった楽屋で「あの曲はジュニア・パーカーですよね」と言ったニコッと笑って「君はジュニア・パーカー知ってるんか。彼は最高のブルーズ・シンガーや」と言ってました。
今日のスタンダップ・シンガーはその最高のブルーズ・シンガー、ジュニア・パーカーです。

ジュニアという言葉は年下だったり、息子という意味だったり、あるいは経験の浅い者に対してジュニアと呼ぶこともあリます。ジュニア・パーカーは本名ハーマン・パーカー。ジュニアと付いたのはサニーボーイ・ウィリアムスンが大好きでいつもサニーボーイにつきまとっていて息子みたいに見えたのでジュニアと呼ばれるようになったそうだ。
今回のスタンダップ・ブルーズ・シンガーのシリーズは楽器を演奏しないで歌だけで勝負するブルーズマンのことだが、ジュニア・パーカーはそのサニーボーイ・ウィリアムスンを師と仰いだハーモニカを吹く。でも、全曲でハーモニカを吹くわけではなくイメージとしてはやはり歌で勝負したヴォーカリスト、スタンダップ・ブルーズ・シンガー。
1950年代からメンフィスを中心に南部一帯でツアー・ライヴを続け、50年代半ばに契約したデューク・レコードからヒットを連発する。しっかりしたオーケストラ・アレンジをバックに歌うのは同じレーベルのスタンダップ・ブルーズ・シンガー、ボビー・ブランドと同じだった。
男っぽく少し武骨さも感じさせるブランドに比べてジュニア・パーカーの歌は滑らかでメロウだった。
まずは1957年のヒット
「次に君と会う時はも物事は同じやないよ。俺は昔のままではないで。もし君を傷つけたとしたらそれは君自身のせいや。ことわざにもあるように光り輝くものがすべて金ではないし、聖書にも書いてある通り自分で蒔いた種は自分で刈り取らんとあかんのや。君はずっと俺に嘘をついて騙してきたけど、別の女王が君がいた王座にいま座っている」別れるのはええけど次会う時はもう一緒やないんや。新しい女ができてるかもしれん・・・みたいな振られたときの捨て台詞か。

1.Next Time You See Me/Little Junior Parker

1932年の生まれだから同じ時代にメンフィスで活躍したボビー・ブランドの2つ下、B.B.キングの7才下、ジョニー・エースの3才下。またいちばん若いのですが、面白いのは彼らが作り上げた当時のモダンブルーズ以前のダウンホーム・ブルーズの感覚を彼がずっと持っていたことです。いわゆる南部のイナたいブルーズ感覚です。
例えばシカゴ・ダウンホーム・ブルーズのアイコンのひとりジミー・ロジャースのこんな曲を歌っています。1957年の録音です。ハーモニカはジュニア・パーカー本人、ギターはパット・ヘア、ドラムはのちにB.B.キングのバンドマスターになるソニー・フリーマン。

2.That’s All Right/Little Junior Parker

イントロのハーモニカが始まりそれにギターが絡んでいくところなんかはもうブルーズっという感じです。ゆったりとダウンホームでありながらどこかシカゴ・ブルーズとは違うモダンな感覚があります。とにかく歌がうまい。
次の曲はデュークレコードでスターになっていく最初の曲でジョン・リー・フッカーのワン・コード・ブギをベースにしたダウンホームな曲調と思いきやジュニア・パーカーのモダンな歌声が聞く者を圧倒する名曲です。このダウンホームとモダンという二つのテイストがミックスされているところが彼のミソです。

3.I Wanna Ramble/Little Junior Parker

めちゃ声出てますね。
今の曲は10年以上経ってからシカゴのマジック・サムがアルバム”West Side Soul”に”I Feel So Good (I Wanna Boogie)”として録音。そのバージョンも素晴らしい。マジック・サムもジュニア・パーカーの唱法を研究した跡が感じられますが、とにかくパーカーは歌が上手い。声のストレートな出方、豊かな声量、独特なビブラート、リズムの良さ、そして何より気持ちが感じられます。
その素晴らしさがデュークレコードでどんどん開花していき名曲、名唱をたくさん残しました。

次の曲のタイトルのDriving Wheelは直訳すると車の駆動輪ということですが、歌の内容は惚れた彼女が夜遊びする女性なんですが惚れてるから彼女のために車の駆動輪みたいに必死で動いて働いている男の歌です。
I give her ev’rything she needs, I am her drivin’ wheelなんかやるせないです。早くから車社会だったアメリカならではのブルーズです。

4.Driving Wheel/Little Junior Parker

とにかく50年代に一斉を風靡したジュニア・パーカーはブルーズから次の時代のソウルも感じさせる歌の才能を持ちながらもダウンホームな感覚をずっと持っていた本当に個性あるシンガーでした。
ブルーズは歌が上手くなければダメという音楽ではないのですが、でもこういう洗練されたソウルフルな歌声がマジック・サムなどに引き継がれて次の時代のブルーズを作っていくパワーになっていたと思います。

5.Sometimes/Little Junior Parker

こういうスタンダップ・シンガーのアルバムはギターないからなぁとなんてアホなこと思ってる人いるかも知れませんが、いまの曲みたいに思っきりうまいギターが入ってます。ギタリストのアルバムではなくヴォーカリストのブルーズのアルバムなんですが、ギターは絶対入ってます。しかもそのレコード会社のスタジオ・ミュージシャンですからみんなめちゃ上手いんですよ。だからスタンダップ・シンガーのバックのギターをカバーした方がいいんではないかと思いますが・・・ギタリスト諸氏。
来週もジュニア・パーカー

 

2024.10.04 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第三回

Johnnie Taylor vol.2

ブルーズ&ソウル・シンガーとして黒人同胞に向かって歌い続けたジョニー・テイラー

ON AIR LIST
1.This Is Your Night/Johnnie Taylor
2.Lady, My Whole World Is You/Johnnie Taylor
3.Still Called The Blues/Johnnie Taylor
4.Crazy Over You/Johnnie Taylor

ジョニー・テイラーは1976年に当時のディスコ・ブームに乗って”Disco Lady”というメガヒットを出したのですが、基本はブルーズンソウル・シンガーですからディスコのブームが終わっても揺るがないものを持っていました。1984年には南部の「マラコ・レコード」と契約してブルーズンソウル・シンガーとしての本来の姿を再び見せてくれました。そのマラコ移籍第一弾のアルバム”This Is Your Night”からタイトル曲。不倫ソングから立ち位置を変えて黒人中年女性の心に寄り添う曲を歌い始めます。

1.This Is Your Night/Johnnie Taylor

「今夜スポットライトを浴びるのは君だよ。子供達はベビーシッターに任せておしゃれをして出かけよう。今夜は君のための夜だよ」と優しく語りかけるようなジョニー・テイラーの歌声に家庭を守り子育てをする黒人女性たちはうっとりしたことでしょう。オシャレな曲なんですが、どこかダウンホームな親しみやすさがある絶妙なさじ加減の曲は南部の名ソングライター、ジョージ・ジャクソンが書きました。
先週聴いた60年代の”Who’s Making’ Love”や”Jody’s Got Your Girl And Gone”あるいは”Part Time Love”のような不倫ソングからこういう中年女性の心に沁みる曲をジョニー・テイラーは歌い始めました。
ライヴには黒人中年女性がノリノリで時にうっとりした眼差しでステージのジョニー・テイラーを見つめ、そこ彼は次の曲のように「レイディ、私の世界の全ては君なんだよ」というとろけるようなラブ・バラードを歌います。ライヴ映像を見てるともちろんMy Whole World Is YouのYouで客席の女性を指差します。最高です。

2.Lady, My Whole World Is You/Johnnie Taylor

こう言うバラードを歌いながらもやはり、自分でブルーズン・ソウル・シンガーのブルーズは意識してたのかライヴではスタックス時代のブルーズの曲も結構歌っていました。
次の曲は”This Is Your Night”に収録された新しく作られたブルーズの曲でこれもライヴでよく歌っていました。タイトルは「ブルーズはまだあるんやで」
「お金があってもなんか問題はある。それを医者に行って解決しようとする。とにかくブルーズと呼ばれるものはまだあるんや。小さな子供には新しい靴、嫁はんには新しい服がいるやろ。とうちゃんはできる限り頑張っている。ほんでもな、ブルーズはまだあんねん。何をしても何を言うても気持ちが落ち込むこともある。悩みがもうすぐ終わると思たらまた始まって最初からやり直しや。土曜日はパーティで楽しくやって、日曜は教会へ行く。ほんで月曜はまたつまらん仕事や。どう考えてもまだブルーズはあるねん」最後の土曜は遊んで日曜は教会へ行って月曜は仕事や・・の歌詞は有名な「ストーミー・マンデー・ブルーズ」のに由来してる歌詞です。

3.Still Called The Blues/Johnnie Taylor

今回特集しているジョニー・テイラー、そして来週紹介するジュニア・バーカーと言った人たちはブルーズも歌うし、ソウルも歌う、時にジャズ・スタンダードも歌います。彼らはシンガーとして並外れた才能があるのでどんな曲でも歌えるわけです。例えばシカゴ・ブルーズの二大巨頭、マディ・ウォーターズやハウリン・ウルフがジャズ・スタンダードもやソウルを歌ってもいいアルバムにはならないだろうとみなさん思うでしょう。B.B.キングも結構いろんなタイプの曲を歌いましたが、やはりいちばん本領を発揮したのはモダン・ブルーズでした。それは原点や出発点がどこなのかということもあり、どの時代にどこで生きたのかということもありますが、やはり歌の表現の巧みさは不可欠です。
次はCrazy Over You「会った時からずっとずっとお前のこと思ってる。他の男と愛し合ってるんやないかとヤキモチも焼く。一晩中お前と話していたい。お前にずっと夢中やねん。ちょっと他の女とあったけど許してほしい。もう2度とあんなことはせえへんから。どうしょうもないねん、この気持ち。ずっとお前に夢中や」途中のちょっと浮気したことを謝ってるとこなんか面白いです。愛してると言いながらなんかやらかしてしまう・・そういう歌多いです。

4.Crazy Over You/Johnnie Taylor

こういうミディアム・テンポのゆったりグルーヴする曲もオールド・スクールのソウルならではで、ぼくは好きです。

ジョニー・テイラーのキャリアを振り返ってみると少年の頃に「ハイウェイQC’s」というゴスペルグループにいてその後サム・クックが抜けた後のソウル・スターラーズというゴスペルの名門グループに入ってます。そしてそのサム・クックが売れて自ら立ち上げた「サー・レコード」とうレーペルでデビューしサムが亡くなった後スタックス・レコードに移籍して60年代後半にヒットを出して花開いたわけです。ルーツは確固としたゴスペルとブルーズ、そこからR&Bそしてソウル、ファンクという黒人音楽の流れを体験しそれに合わせて自分の音楽を作って行ったのです。そんな中で84年にマラコ・レコード契約して自分と同じ世代の黒人中高年層向きにブルーズとソウルを終生歌い続けられたことは本人にとって幸せなことだったのでは・・・と思います。で
これ、聴かなあかんやろ・・ジョニー・テイラーでした。

 

2024.09.27 ON AIR

スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集 第二回

Johnnie Taylor

「南部の黒人たちの生活に根ざし圧倒的な支持を得たブルーズン・ソウル・シンガー、ジョニー・テイラーvol.1」

ON AIR LIST
1.Part Time Love/Little Johnny Taylor
2.Part Time Love/Johnnie Taylor
3.Who’s Makin’ Love/Johnnie Taylor
4.Jody’s Got Your Girl And Gone (Live)/Johnnie Taylor
5.Hello Sundown/Johnnie Taylor

ブルーズという音楽はヴォーカル・ミュージックです。ギターやハーモニカが前面で脚光を浴びることもありますがインストルメンタル・ミュージックではないのです。例えばB.B.キングのギタープレイは確かに多くのギタリストに大きな影響を与えましたが、B.B.がデビューして喝采を浴びたのはまずその歌が素晴らしかったからです。ブラック・ミュージックの世界では歌の力が最も重要です。しかし日本ではギターを弾かない歌だけのブルーズマンは大御所ボビー・ブランドはじめZ.Z.ヒル、ジュニア・パーカー、ジョニー・テイラーなどあまり人気がありません。そのことに長年腹立たしく思ってきたのですが楽器を弾かない歌だけで素晴らしいブルーズを残したスタンダップ・ブルーズ・シンガーたちの特集の2回目ジョニー・テイラーです。

1938年生まれのジョニー・テイラーは名門ゴスペル・グループ、「ソウル・スターラーズ」のサム・クックの後釜に抜擢された実力のあるシンガー。61年、そのサムが立ち上げた「サー・レーベル」からデビュー。そこから2000年に66才で亡くなるまでコンスタントにアルバムを出し続け、ヒットも多くブラック・ミュージックの最前線で活躍したシンガーでした。

前回のリトル・ジョニー・テイラーから今日はジョニー・テイラー。名前にリトルが付いているかどうかだけで歌っているジャンルが二人ともブルーズ&ソウル、二人ともゴスペル出身、活動した年代もほぼ同じ、二人とも似た芸風・・ということで前回聴いたリトル・ジョニー・テイラーのこの曲をまずちょっとだけ聴いてみよう。

1.Part Time Love/Little Johnny Taylor

この同じ曲をジョニー・テイラーも録音しているので今度はそのジョニー・テイラーのヴァージョンを。

2.Part Time Love/Johnnie Taylor

オリジナルの先に聞いたリトル・ジョニー・テイラーの歌はすごくパワフルでやや攻撃的、後のジョニー・テイラーはテンポも遅くしてなんとなく気だるいと違いはあるのですが似てるところもあります。二人ともゴスペル出身で歌い方がやはりゴスペル・テイストなところですね。。
先週聴いたリトル・ジョニー・テイラーは1943年生まれ。ジョニー・テイラーは38年生まれで5才ほど年上ですがほぼ同時代に活躍した二人。今の曲は1963年にリトル・ジョニー・テイラーがシングルで歌ってR&Bチャート1位(ポップチャート13位)になり、6年後の69年にジョニー・テイラーがリリースしたアルバム”Raw Blues”に収録されていますがシングルで出したかは不明です。しかし、ジョニー・テイラーも1968年に次のこの”Who’s Makin’ Love”がR&Bチャート1位(ポップ・チャートは5位)。お互いに60年代中頃から70年代にかけて活躍しています。ただ、今日聴くジョニー・テイラーの方が名前が知られたのは所属していたレコード会社がオーティス・レディングやルーファス・トーマス、アルバート・キングがいたメンフィスの有名レーベル「スタックス」
そしていまの”Who’s Makin’ Love”が映画「ブルース・ブラザーズ」で使われたり、76年には”Disco Lady”が300万枚というメガヒットになったり、晩年も南部マラコ・レコードからコンスタントに黒人に支持されたアルバムをリリースしました。なのでジョニー・テイラーの方が名前を知られているとうことはあります。では、68年のその大ヒット。
「あんたが外で誰かと浮気しているときにあんたの嫁さんは誰と浮気してるんやろね」という恐ろしいけど笑える歌です。先週から不倫ソング続きですが、今週もこんな感じで・・

3.Who’s Makin’ Love/Johnnie Taylor

次は1971年ジョニー・テイラーの2度目のR&Bチャート1位に輝いた曲です。曲名は「ジョディはお前の女を奪って連れ去ってしまった」ですが、ジョディとは間男のことで女性の浮気相手のことをジョディと呼んでいます。要するに「一生懸命働いて出世して金儲けしょうと頑張ってる間に留守の家に入った間男(ジョディ)があんたの女を取ってしまうよ」と。まあ、前の歌と題材は似てますが、これも大ヒットしたということはよっぽどアメリカの黒人たちは不倫ソングが好きなんですね。
ではライヴ・バージョンで黒人クラブの感じを味わってください。

4.Jody’s Got Your Girl And Gone (Live)/Johnnie Taylor

でも、アメリカの映画とかドラマを見てると男は仕事をバリバリやって金をいっぱい稼がないと行けないし、子供たちとも遊んで女房といる時間もちゃんと作らないといけない・・大変です。いつもスキンシップしたり、もちろんレディ・ファーストだし、「愛してる」ってしょっちゅう言わなあかんし、金稼がなあかんし・・私には無理です。
では最後も不倫ソングです。
タイトルは「やあ、日没」
昼間は会えないが日が沈むと会える女性と密会してるわけです。悪いことやとわかってるけど会わずにはいられないと。だから夕暮れになって日が沈むのをいつも待っているわけです。

5.Hello Sundown/Johnnie Taylor

We Know It’s Wrongと悪いのはわかってると。
ジョニー・テイラーの絶妙な歌の表現です。大人の男のブルーズをそれも不倫の歌をこれだけ品良く表現できるシンガーもいないです。有名なところではビリー・ポールの”Me & Mrs.Jones”という曲も密会のソウルですが、あとは”Dark End Of The Street”とストリートの暗くなった奥で密会するという有名な歌もあります。日本で密会ソングやと島津ゆたかさんという歌手の「ホテル」いう歌謡曲くらいですか。
また、来週!

 

2024.09.20 ON AIR

ブルーズは歌/スタンダップ・ブルーズ・シンガー大特集
第一回目

Little Johnny Taylor

「ゴスペルに裏打ちされた強靭なブルーズ・ヴォーカル、リトル・ジョニー・テイラー」

ON AIR LIST
1.Part Time Love/Little Johnny Taylor
2.Open House At My House(part.1)/Little Johnny Taylor
3.True Lovin’/Little Johnny Taylor
4.Everybody Knows About My Good Things/Little Johnny Taylor
5.Hard Head/Little Johnny Taylor

いつも同じことを言いますがブルーズという音楽はヴォーカル・ミュージックです。ギターやハーモニカが前面で脚光を浴びることもありますがインストルメンタル・ミュージックではないのです。例えばB.B.キングのギタープレイは確かに多くのギタリストに大きな影響を与えましたが、B.B.がデビューして喝采を浴びたのはまずその歌が素晴らしかったからです。ブラック・ミュージックの世界では歌の力が最も重要です。しかし日本ではギターを弾かない歌だけのブルーズマンは大御所ボビー・ブランドはじめZ.Z.ヒル、ジュニア・パーカー、ジョニー・テイラーなどあまり人気がありません。そのことを私は長年腹立たしく思ってきたのですが、とうとう堪忍袋の尾が切れたというか今回から楽器を弾かない歌だけで素晴らしいブルーズを残したスタンダップ・ブルーズ・シンガーの特集をします。今日聞いてもらうのは「モダン・ブルーズの至宝」とも呼ばれるブルーズ・シンガー、リトル・ジョニー・テイラー。
ブルーズをかなり知っている人でもリトル・ジョニー・テイラーのことはあまり話題にしません。でも1963年R&Bチャート1位(ポップチャート13位)になった彼の最大のヒット曲は今やブルーズ&ソウルのスタンダードになっています。
”Part Time Love”
「彼女とうまいこと行かへんで墓場に入っているような寂しい生活をするくらいやったら俺はパートタイム・ラブ(束の間の愛)の相手を探さなあかんやろ」という歌詞。ブルーズには昔から間男(Back Door Man)など不倫、浮気ソングが数多くありますが、これはモダン・ブルーズの不倫ソングの典型。

1.Part Time Love/Little Johnny Taylor

スティーヴィ・ワンダーに”Part Time Lover”という歌がありますがあれも不倫ソングで「昼間は知らない者同士、でも夜は恋人同士。悪いことやとわかってるがやめられへんねん」という歌です。まあ伝統的に不倫ソングはアメリカの音楽特に黒人音楽では伝統と言ってもいいくらいたくさんあります。
日本人とアメリカ人の倫理感とか道徳観とかが違うのでこういう歌は日本ではまず大っぴらには生まれませんが、寂しい夜をずっと過ごしているとパート・タイム・ラブでもいいから欲しいというのもわからないではないです。それでややこしい三角関係のゴタゴタが始まるのはめんどくさいですけどね。でもこういう歌がどこか笑えるんですよ。笑ってしまうんですね、「しゃーないなこいつら」いう感じです。
次の歌も不倫ソングです。「オレの金が家のどこにいくらあるのかガソリン・スタンドのにいちゃんが知ってるってどういうことやねん。そんで隣に住んでるツレはオレの好きなシーツの色や家のカーベットの色を知ってるっておかしないか・・」つまり自分がいない間にドアが開けっぱなしの家(Open House)にいろんな男が出入りしているという歌。まあ嫁さんがいろんな男と浮気してる話ですわ。こういう歌を黒人のクラブで聞いてると客がみんな笑ろてるんですよ。あるある・・みたいな感じで。おおらかというか・・。

2.Open House At My House(part.1)/Little Johnny Taylor

実はブルーズ界にはリトル・ジョニー・テイラーとジョニー・テイラーと二人いて、ややこしいことに二人ともゴスペル出身の二人ともブルーズ&ソウル・シンガーで、スタンダップ・シンガーです。しかも二人とも最初のPart Time Loveを歌っています。オリジナル・シンガーはリトル・ジョニー・テイラーですが、ジョニー・テイラーのヴァージョンもすごく良いです。それの聴き比べ来週やってみましょう。二人ともブルーズもソウルも歌うのでブルーズンソウル・シンガーと呼ばれてるんですが、次の曲はそのソウル・テイストの曲。

3.True Lovin’/Little Johnny Taylor

なんか黒人クラブでみんながダンスしてる風景が浮かぶようなダンス・ナンバーですが、すんませんけど次も不倫ソングです。
「郵便配達員も牛乳屋も水道の配管工の男もみんな、オレの嫁さんのことをよう知ってねん。俺のいいもの(My Good Tings)、そう嫁はんのことをよう知ってるんや」つまり、これも嫁さんが家に出入りするいろんな男と浮気してる話。
今日はこんなブルーズばっかでスンマヘンです。

4.Everybody Knows About My Good Things/Little Johnny Taylor

めちゃ声出てます。歌のテンションも高いです。生で聞いたらすごいと思います。
リトル・ジョニー・テイラーは1943年に生まれて2002年に亡くなってます。享年59才ですから若くして亡くなったんですね。7才くらいで有名ゴスペル・グループのマイティ・クラウズ・オブ・ジョイに入って歌ったこともあるくらいですから子供のころから歌の才能が認められていたんでしょう。そのマイティ・クラウズ・オブ・ジョイにいたシンガーでありソングライターのクレイ・ハモンドが書いたのが最初に聞いたパート・タイム・ラブです。
リトル・ジョニー・テイラーが影響を受けた歌手は僕も大好きなリトル・ウィリー・ジョンとのことです。少し高めの声でアグレッシヴに歌うところなんかはウィリー・ジョンに似ているかも知れません。そのウィリー・ジョンの特集も近々します。
リトル・ジョニー・テイラーは70年代終わりまではかなりいい感じで歌っていたのですが、80年代から録音も少なくなっていきます。それでもこういうタイプのシンガーは黒人サーキットでは根強い人気があるのでずっとクラブ・サーキットを回っていたんでしょう。
もう一曲聴きましょう。

5.Hard Head/Little Johnny Taylor

今回から始めたスタンダップ゜・シンガーの特集ですが、当たり前のことなんですが、ブルーズは歌が大切で歌詞も大切なんですね。アメリカの黒人クラブにいくとよくわかるのですが、黒人のお客さんは歌詞にものすごく反応します。リズムがあって踊ってればいいという音楽ではないんですね、ブルーズもソウルも。その歌を一緒に歌ったり、歌詞に笑ったり、嬌声を上げたり、同意する言葉を言ったり・・・
このリトル・ジョニー・テイラーの曲もまさに自分たちの生活の歌として彼らの身近にあるものなのだと思います。
来週は先ほど話に出したジョニー・テイラーの特集・・またおもろい不倫ソング出てきます。お楽しみに。

 

2024.09.13 ON AIR

追悼ブリッティッシュ・ブルーズの先駆者、ジョン・メイオール vol.2

ON AIR LIST
1.The Stumble/John Mayall & The Blues Breakers
2.You Don’t Love Me/John Mayall & The Blues Breakers
3.The Supernatural /John Mayall & The Blues Breakers
4.Someday After a While (You’ll Be Sorry) /John Mayall & The Blues Breakers
5.Hard Road/John Mayall & The Blues Breakers

先週に引き続き先ごろ7/22に90才で亡くなったジョン・メイオールの特集です。先週はエリック・クラプトンがジョン・メイオールのバンド「ブルース・ブレイカーズ」に在籍した時に残したアルバムから聴きましたが、クラプトンが一年も経たずバンドを辞めてしまった後に加入したギタリスト、ピーター・グリーンが在籍した67年のアルバム”Hard Road”を聞きます。クラプトンはすでに腕利きのギタリストとしてイギリスでは名の知れた存在でした。ピーター・グリーンはまだそれほど名は知られていませんでしたが、クラプトンに負けない自信があったようです。ではまずそのギターの腕前を聞いてみましょう。クラプトンはブルーズ・ブレイカーズでフレディ・キングのインスト”Hideaway”を録音しましたが、それに対抗するかのようにピーター・グリーンは同じフレディ・キングのこのインスト曲を録音しています。

1.The Stumble/John Mayall & The Blues Breakers

ギターの音色がいいですね。クラプトンの”Hideaway”もいいんですが、この”The Stumble”も負けず劣らず攻撃的なワクワクするギターです。まあこれだけ弾ければクラプトンの後釜としてメイオールも納得したでしょう。
ジョン・メイオールのバンドは「メイオール学校」と呼ばれるようにいろんなミュージシャンが出入りしてストレートにブルーズを演奏する経験をしました。そしてその経験を生かして次のステージに向かって行ったわけです。
クラプトンはやめた後に「クリーム」を結成しブルーズをルーツにした新しいロックへの試みをしました。ピーター・グリーンも一年ほどで辞めてしまいブルーズ・ブレイカーズのベースのジョン・マクビーと以前ブレカーズに在籍していたドラムのミック・フリートウッドと「フリートウッドマック」を結成し歴史に残る曲を録音しました。またその後にブルーズ・ブレイカーズに参加したミック・テイラーは後にローリング・ストーンズに加入してロックの名曲を残すことらなります。そういった新しいブルーズロックの動きが後にハード・ロックの母体ともなっていきます。つまりジョン・メイオールはイギリスのブリティッシュ・ブルーズだけでなく広くブリティッシュ・ロックやハードロックの土台作りにも貢献した人と呼べます。彼自身に大きなヒット曲があったわけではありませんが、若いミュージシャンにロックをやる上でのブルーズの重要性を教えた人でした。次は多くのブルーズマン、ロック・ミュージシャンにカバーされた黒人ブルーズマン、ウィリー・コブの1960年のヒット。歌とハーモニカはジョン・メイオールです。

2.You Don’t Love Me/John Mayall & The Blues Breakers

ジョン・メイオールはブルーズのカバーそして自作のブルーズなどたくさんの録音を残した人でしたが、ブルーズを志す若い人に自由にそのミュージシャンがいいところを出せるようにするプロデュースをしたり、前回ON AIRしたクラプトン参加のアルバムでもクラプトンが初めて歌を録音した”Ramblin’ On My Mind”が収録されてましたが、メイオールがクラプトンに歌うことを勧めたのではないかと思います。次の曲もピーター・グリーンがフリートウッドマックで発表し大ヒットとなった”Black Magic Woman”の原曲となっているようなマイナー・キーのラテン調リズムです。

3.The Supernatural /John Mayall & The Blues Breakers

ピーター・グリーン・ワールドが全開という感じです。こういう個性的なフィーリングをピーター・グリーンはずっと持っていくんですがその感覚の素晴らしさに気づいて自分のバンドで録音させたジョン・メイオールの先見の明もあったと思います。
次の曲もフレディ・キングがオリジナルですが、メイオールの歌もいいですしピーター・グリーンのギターも火を吹いてます。別れを告げられた男が「いつの日かお前は後悔する、オレを哀れんでくれるな。心は真っ暗だけど俺は一人寂しく列車に乗って行くよ」と。

4.Someday After a While (You’ll Be Sorry) /John Mayall & The Blues Breakers

メイオールは高めの歌声なんですが、黒人ブルーズマンで高い歌声といえばJ.B.ルノアーでした。そのJ.B.ルノアの素晴らしさに早くから気づいていたのもメイオールでルノアが亡くなった時に「J.B.ルノアの死」という曲をリリースしてルノアを追悼しました。
彼が録音したカバー曲を見てみるとシカゴ・ブルーズを中心にフレディ・キングのようなモダン・ブルースそしてロバート・ジョンソンのような戦前のカントリー・ブルーズと多彩なレパートトリーがあります。つまりブルーズという音楽全般を彼は自分で探索したミュージシャンで、自分のバンドに参加したミュージシャンに聞くべきブルーズを示唆した人だったと思います。

5.Hard Road/John Mayall & The Blues Breakers

思い出しましたがもう50年以上前、1971年に京都会館のジョン・メイオールが初めて来日したコンサートに行きました。ドラムはいなかったのですが、ベースはキャンド・ヒートの名ベーシスト、ラリー・テイラー。ギターはこの人もあまり話題にならないですが同じキャンド・ヒートの素晴らしいギタリスト、ハービー・マンデル。ジョン・メイオールは主にキーボードとハーモニカそして歌。ドラム・レスのトリオ編成でしたがすごくいいコンサートでした。僕はブルースに突入する頃で初めてライヴで聴いたブルースでした。そして翌72年に僕は塩次伸二とウエストロード・ブルーズバンドを結成するのですが、塩次伸二もピーター・グリーンが大好きでこのアルバム「ハード・ロード」を二人でよく聴いてました。そして、バンドの名前を考える時にこのアルバムタイトルの「ハード・ロード」からロードをもらって、頭には関西にいるということでウエストをつけて「ウエストロード・ブルーズバンド」としました。

ジョン・メイオールさん、ありがとうございました。