2025.10.17 ON AIR

祝50周年P-Vine Records! 第13回

83年にP-Vineレコードがリリースした狂気の沙汰マディのLP11枚組その2

Muddy Waters The Chess Box

ON AIR LIST
1.Find Yourself Another Fool/Muddy Waters
2.Same Thing/Muddy Waters
3.You Can’t Lose What You Ain’t Got/Muddy Waters
4.My John The Conquer Root/Muddy Waters
5.My Dog Can’t Bark/Muddy Waters

P-Vineレコードが1983年にリリースしたこのLP11枚組セットは1947年から67年までの20年間のチェス・レコードでのマディ・ウォーターズの録音が収録されていますが、デビューから全盛期そしてブルーズ自体が沈滞していく時期までを記録しています。このボックスの企画を聞いたときに僕はP-Vineレコードの担当者に「狂気の沙汰や」と言ったんですよ。LP11枚組のボックスセットってまあ僕みたいなマディ・フリークは買うやろけど、値段も高いし、そもそもマディの代表的なアルバムはもうすでにリリースされてましたからよっぽど好き者やない限り買わんやろと言ったんですよ。売れないと思うと言ったんですが、これが売れたんですよ。日本人はこういう一つにまとまったボックスセットみたいなのが好きなんですかね。まあ、ぼくもJames Brownのアルバムをほとんど持ってるんですが、CDボックスがでた時に買いましたからね。
今日は最後の11枚目の64年から67年までシングルをコンピレーションしたアルバムを聴いて見ようと思います。60年代中期から後期に向かって白人のロック・シーンではクリームやジミ・ヘンドリックスなどブルースをベースにしたミュージシャンたちの活躍が始まります。いわゆるニューロックと呼ばれた音楽のルーツはブルーズでした。それならと白人ロック好き若者をターゲットにチェス・レコードはマディにロック・テイストの曲を歌わせました。こんな感じです。

1.Find Yourself Another Fool/Muddy Waters

まあ、あまりやったことのない8ビートのリズムでマディは頑張って歌ってます。でも、何か印象に残るものがないんですよね。これだけではロック・ファンにもブルーズ・ファンにも売れないやろと思うんですが・・。

次のは64年の録音ですが、ブルーズらしい素晴らしい曲です。マディの代表曲の一つと言っていいと思います。まだこういういいブルーズを録音することができたんですが、あまり売れなかったです。
「女性がタイトなドレスを着ると男たちはどうして夢中になるんだろうか。それは雄猫が夜に喧嘩をするのと同じことだ」と始まります。そして二番の歌詞でBig Leg Womanという言葉が出てくるのですが、ブルーズにはBig Leg Womanという歌もあるくらいで時々この言葉を見かけます。直訳すると大きな足の女ですが足の太ももあたりの肉付きがいい女性のこと。まあ下世話な言い方をすれば太ももがムチっとした女性のことです。つまりセクシーな女性。歌詞はどうして男たちはみんな足がムッちとしたじょせいが好きになるんだろう。それはブルドッグがハウンドドッグをハグするのと同じようなことさ」最後の一節が今もよくわからないのですが、要するに男たちはどうしてセクシーな女性を見るとどうして喧嘩になるんだろう。それはオスの動物たちがメスの取り合いをするのと同じことだ」
多分こういう意味だと思います。
バックのサウンドとビートも素晴らしく、マディの奥深い歌声がもうたまらない魅力です。

2.Same Thing/Muddy Waters

次の曲は9月17日にリリースした僕と山岸潤史のデュオ・アルバム”still In Love With The Blues”でも録音した曲で、この曲を聞いた若い頃に「ないものは無くせない」という日本語のタイトルと歌詞の内容とこの歌に感銘しました。
「お金も彼女も家も持っているからそれを失った時にがっかりする。落ち込んでしまうやろ。そやけど最初からお金も家も彼女もなかったそもそも失うことさえないんや」といういろんなもの所有していない黒人から生まれた曲やと思います。いいタイトルやと思います。「ないものは無くせない」

3.You Can’t Lose What You Ain’t Got/Muddy Waters

今のこの曲もマディの代表曲ですが、60年代半ばになるともうマディだけでなくブルーズ全体が下降線をたどっていく時代でチャートを上がる曲も少なくなっていきます。そんな中でもマディは今の二曲のようにクオリティの高いブルーズも録音しています。
黒人音楽の主流はもうR&Bからソウルに移る時代でファンクなども流行り始めます。シュプリームス、テンプテーションズなどのモータウン勢のソウル、オーティス・レディングやサム&デイヴなど南部スタックスのサザン・ソウル、ジェイムズ・ブラウンのファンクともうめまぐるしく変わっていく60年代後半、その中でブルーズという音楽自体の人気が落ちていきます。そこで戦っているマディなんですが、最初に聞いてもらったようなロックっぼいサウンドでも歌わなければ仕方ない状況になっていくわけです。B.B.キングやボビー・ブランドのようなモダン・プルースのシンガーたちはソウル・テイストの曲を歌っても様になってこの時代をしのいでいくのですが、マディは50年代のシカゴ・ブルースを基本にしているブルーズマンですから時代に対応していくのが難しかった。
次の曲のタイトル「ジョン・ザ・コンクァ・ルート」というのは黒人たちが故郷のアフリカから持ってきた民間伝承の宗教で、植物の一種でそれを持っていると幸運が訪れるというものです。この曲は全盛期に発表したHoochie Coochie Man やMannish Boyと同じ流れの曲で悪く言えば二番煎じなんですが、マディの歌だけは素晴らしいです。

4.My John The Conquer Root/Muddy Waters

次の曲もそれ以前にリリースしていた”Tiger In Your Tunk”と同じリズム・パターンを使った曲です。つまり制作するチェス・レコードもマディを売るための新しいアイデアが生まれなかったんですね。

5.My Dog Can’t Bark/Muddy Waters

このあとマディはファンク・テイストやロックテイストのアルバムをプロデュースされるのですが、本人が頑張って歌っても過酷な言い方ですがやはり50年代のものを越えるものは生まれませんでした。時代の流れを感じます。
前回と今回聞いてもらったマディ・ウォーターズ11枚組LPレコード・ボックスセットはネットでUSEDで出ていることがありますが、マディ・ウォーターズを体系的に知りたい方は是非ゲットしてください。
それにしてもこの11枚組LPレコード・ボックスセットをリリースした日本のP-Vineレコードは偉い!素晴らしい!

2025.10.10 ON AIR

祝50周年P-Vine Records! 第12回

83年にP-Vineレコードがリリースした狂気の沙汰マディのLP11枚組その1

Muddy Waters The Chess Box

ON AIR LIST
1.Gypsy Woman/Muddy Waters
2.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters
3.Rollin’ Stone/Muddy Waters
4.Rollin’ And Tumblin’/Muddy Waters
5.Just Make Love To You/Muddy Waters

少し前にP-Vineレコードが83年にリリースしたチャック・ベリーのLP三枚組セットをON AIRしましたが、P-Vineは翌84年に私が「狂気の沙汰」と呼んだマディ・ウォーターズのLP11枚組ボックスセットをリリース。チャック・ベリーの時はロック・ファンにもブルーズ・ファンにもLP三枚組は売れるだろう・・・と思いましたが、マディ・ウォーターズのしかもLP11枚というのは価格も高くなるだろうしちょっと無謀ではないかと思いました。ちなみに発売同時の定価は¥22,000。私もライナーノーツを少し頼まれて書きましたがこれは大変な企画だと思いました。
今日はマディの全盛だったチェスレコード時代のこの11枚のアルバムから私が個人的に思い出に残っている曲をON AIRします。
まず11枚のアルバムの1枚目のA面の1曲目。このボックスセットの最初の曲です。僕のLPレコードで聴いてもらうのですが途中で針が一箇所飛んでいます。そこもお楽しみください。
1947年ピアノのサニーランド・スリムのレコーディングにギタリストとして雇われたマディですが、多分時間が余ったので「マディ、お前も録音してみるか」ということだったんではないかと思います。初めてのリーダー録音。ピアノはサニーランド・スリム、ベースがビッグ・クロフォード、ドラムは名前がわからずUnknownと記載されてます。そして歌とギターのマディ・ウォーターズ

1.Gypsy Woman/Muddy Waters

こういうサウンドは1930年代から流行ったシティ・ブルースと呼ばれる曲調で主にピアノとギターとかギターにハーモニカとかの編成で泥臭い南部のブルーズとは違った当時にしては少し小洒落たサウンドだったのです。ブルーバードというレーベルからこの手のブルースがたくさんリリースされたことからブルーバード・ビートとも呼ばれています。
南部の泥臭さを抑えてマディの歌の上手さだけを使って小洒落たブルーバード・ビートにして売ろうとチェス・レコードは目論んだのですが、売れなかったんですね。
それで次はマディに南部時代から得意としているスライド・ギターを弾かせて、ピアノは入れずにビッグ・クロフォードのウッドベースだけという録音させたのが次の曲です。これは売れました。

2.I Can’t Be Satisfied/Muddy Waters

マディがミシシッピにいた頃からやっていたスタイルでまさにデルタ・ブルーズ直送。そしてこの曲が評判になりここを原点にマディはシカゴ・ブルーズのボスへと上り詰めていくわけです。
この生き生きとしたマディの歌とギターとベースのグルーヴ感は今聴いても新しさを感じさせます。
さて、ロックバンドのローリング・ストーンズはマディ・ウォーターズの曲名からバンド名をつけたという話を知っている方もいると思いますが、その曲を自分が初めて聴いたときのなんとも言えない衝撃を今も思い出します。僕もまだロックを聴いていた頃だったのでストーンズのイメージから派手な曲を想定していました。すると聞こえてきたのはこれでした。

3.Rollin’ Stone/Muddy Waters

次の曲もマディで知る前に白人のブルーズ・ロック・バンド「キャンド・ヒート」のバージョンで知ってました。ブルーズのトラッドな曲でキャンド・ヒートが誰の元歌を聴いたのかわからないですが、これもマディで聞くと泥臭く関西弁で言う所の「いなたい」音だった。つまりその「いなたい」と感じたものこそブルーズだったのです。そしてそこにハマるとブルーズのマディ・ウォーター(泥水)に足を取られ底なし沼に浸かってしまうことになるわけです。

4.Rollin’ And Tumblin’/Muddy Waters

このマディ・ウォーターズ11枚組LPボックスセットは凡そ時系列に曲が収録されてます。ブルーズのスタンダードとして残っている曲も多く、最初から5枚目くらいまでは50年代のマディの勢いを知る思いです。そしてこの時系列の流れはそのままシカゴ・エレクトリック・ブルーズの流れでもあります。そしてマディの録音に参加する精鋭のブルーズマンたちの素晴らしさ。そしてその個性的な実力を持つブルーズマンたちが集まってマディを中心としたエレクトリック・シカゴ・ブルーズが作られていったわけです。次の曲も高校生の頃、ローリング・ストーンズがカバーしていて知っていたのですが、今思うとストーンズのカバーは若いと言うか・・この原曲を聴いた時にこれが大人の音楽、大人のブルーズだと思いました。サウンドとビートの重厚感、途中のリトル・ウォルターのハーモニカのきらびやかな音そしてマディのディープな歌声。大好きなブルーズです。

5.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters

このマディのLP11枚組セットは大げさでなく、日本のP-Vineレコードが作った世界に誇る名盤、名ボックスセットやと思います。中古盤でもあまり見かけることがなくなったんですが、ネットでは時々出ているようです。

 

2025.10.03 ON AIR

BSMFレコードがリリースした60年代レイ・チャールズの名盤

Ray Charles/Ingredients In A Recipe For Soul

ON AIR LIST
1.Busted/Ray Charles
2.Born To Be Blue/Ray Charles
3.Ol’ Man River/Ray Charles
4.That Lucky Old Sun/Ray Charles

「ソウルのレシピの材料」(イングレディエンツ・イン・ア・レシピ・フォー・ソウル)とタイトルされたレイ・チャールズ全盛時のアルバムが日本のBSMFレコードから先月リリースされました。
50年代にアトランティックレコードからメジャー・デビューしたレイ・チャールズが60年代に入りABCレコードに移籍してカントリー・アンド・ウエスタンのカバー・アルバムを出し”I Can’t Stop Loving You”や”You Are My Sunshine”などのビッグヒットを出した後の1963年にリリースしたアルバム。
このアルバムには彼の代表曲となる”Busted”や”That Lucky Old Sun”,”Ol’ Man River”などが収録されています。
持っていない方はできればこの機会にぜひゲットして欲しいアルバムです。
まず一曲 曲名がBustedで「潰れた」「破産した」という意味ですが、「毎日毎日請求書が送られて来て自分が作っている綿花の値段は下がって彼女に靴も買ってやれない。兄貴に借金を頼んだけど兄貴も金がないという。俺は一文無しで金はない。ポケットは空っぽなんだ」という生活苦を歌った曲。

1.Busted/Ray Charles

今の曲はカントリー・シンガーのジョニー・キャッシュがレイのこのアルバム前年1962年に発表したものですが、レイはブルーズとゴスペルのテイストを乗せて全くオリジナルのように見事に録音しています。レイのこのカバーはチャートの4位まで上がりました。4位まで上がったということはこういう生活の困窮に共感する人たちが多かったということでしょう。
次の歌はジャズ・シンガーはじめ多くのカバーがあるスタンダードのような曲ですが、Blueという言葉の持つ二つの意味を使っている曲で一つは「青い」もう一つは「憂鬱」
「頭の上の空に黄色いお月様がある時にその月の光を眺めるべきだとみんなは言うけど、ぼくには金色の光は見えない。なぜなら僕はブルーに生まれているんだ」と悲しい歌詞で始まるのですが、途中で「ぼくは他の人より幸せなんだ。なぜって君を愛するスリルを知ったから。それだけで生まれて来た以上のものを手にいれた感じだ。でも、ぼくはブルーに生まれた。笑いたいけど何も面白いとは思わない。僕の世界は色あせたパステルカラーだよ」

2.Born To Be Blue/Ray Charles

いまの曲も重々しくストリングスが入っているのですが、ぼくは時々この時代のレイ・チャールズの曲に入っているこういうストリングスが邪魔に感じる時があります。レイの歌の良さを引き立たせるのに過剰なストリングスはいらない気がします。
次の歌は1920年代の半ばに作られた歌でミュージカルの”Show Boat”に使われて有名になった曲だそうです。
黒人の肉体労働者の目線で作られた曲でちょっと歌詞を説明します。この歌詞に出ているミシシッピ川はアメリカ南部を流れる大きな川、そしてもう一つでてくるヨルダン(ジョーダン)川はいつも紛争が止まらない中東のシリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル、パレスチナを流れるキリスト教にとっては聖なる川。
「白人が遊んでいる間、俺たち黒人はこのミシシッピ川で働いている。夜明けから日が暮れるまで働いている。このミシシッビ川から離れて、白人のボスからも離れてヨルダン川を見たい。あの川を渡りたい。流れ続けるあのヨルダン川を。生きるのに疲れ努力することにもうんざりだ。でも死んでしまうのは怖い。そしてオールドマン・リバーは流れ続ける」

3.Ol’ Man River/Ray Charles

次のThat Lucky Old Sunもすごくいい歌詞なので少し訳します。
「朝起きて仕事に出かけて給料のために悪魔のように働くんだ。でも空の上の太陽は何もすることがないように一日中天国で転がっているだけだ。女房と喧嘩して子供のために苦労して白髪になるまで汗をかいて働き続ける。でも空の上の太陽は何もすることがないように一日中天国で転がっているだけ。空の上の神様は俺の目に涙が溢れているのがわからないのでしょうか。希望の光がある雲に乗せて私を楽園に連れて行ってください。あの川に連れて行って私の悩みを全て洗い流してください。そして空の上の太陽のように何もすることがなくただ転がっているようにしてください」

4.That Lucky Old Sun/Ray Charles

この(イングレディエンツ・イン・ア・レシピ・フォー・ソウル)というアルバムは黒人の貧しさや受けている差別、救いを求める宗教や苦しい生活などとても重い歌詞の歌が多いです。そして黒人で盲目でもあったレイが受けた苦難は私たちが想像もできないほどだったと思います。でも皮肉なことに白人のカントリー&ウエスタンを歌って大ヒットの連続となり有名になったところでレイはこういう黒人が受けてきた差別と貧困の歌を歌ったわけです。それを白人のレコード会社で白人のミュージシャンを使ってレコーディングしたのです。そしてこの後レイ・チャールズはとうとう自分のレーベルを作ります。それは初めて黒人が作ったレーベルでした。
歌をはじめ音楽はもちろん音楽業界でもレイはすごく先進的で革命的でした。ぼくはジニアス(天才)という言葉を安易に使うのは本当に嫌いです。僕の中でジニアスと呼べるのはレイ・チャールズただ一人です。

2025.09.26 ON AIR

中古盤放浪記vol.13

半分ジャケ買いしたベン・E・キングの”Spanish Harlem”は意外なラテン・アルバムだった

Spanish Harlem/Ben.E.King

ON AIR LIST
1.Spanish Harlem/Ben.E.King
2.Quizás, Quizás, Quizás/Ben.E.King
3.Sway(Quién será)/Ben.E.King
4.Perfidia/Ben.E.King
5.Come Closer To Me/Ben.E.King

ソウル・シンガーのベン・E・キングといえばみなさん知っている、もうポピュラー・ソングとなっている”Stand By Me”のオリジナルシンガーですが、そのベン・E・キングの気になるアルバムが前からありました。”Spanish Harlem”というアルバムなのですが、”Spanish Harlem”というのはベン・E・キングがドリフターズというコーラス・グループからソロに転向して最初に放ったヒット曲です。シングルでは”First Taste of Love”という曲のB面として1960年にリリースされました。ところがA面より評判が良くてリズム&ブルースのチャートで最高15位、ポップ・チャートで最高10位まで上がりました。10年後71年にはソウルの女王、アレサ・フランクリンがこの曲をカバーしてソウルチャートで3週間1位、ポップチャートでも2週にわたって2位と大ヒットとなりソウルの名曲として定着しました。
さて、その名曲のオリジナルが収録されているベン・Eのアルバム”Spanish Harlem”ですが、これがアルバム・ジャケットの写真が素晴らしく良くて(番組HPで是非ご覧ください)以前から中古レコード店で見かけるのですが、少しレアなアルバムなので値段が高い。しかも1960年という65年前のレコードなのでレコードの盤もジャケットも状態がいいのが少なくてなかなか手を出さなかったのですが、先日とうとう納得する中古盤に出会いました。
まずはそのタイトル曲の歌詞ですがハーレムというのはNYのマンハッタンの北の方にある街です。そこには黒人だけでなく南米系の人たちも多く住んでいます。その「スパニッシュ・ハーレムに一本の真っ赤なバラがある、街の通りのコンクリートから突き抜けて咲いている。それは太陽が落ちて夜にならないと表に出てこない」
いつもハーレムの通りを歩いている、多分夜の仕事をしているスパニッシュ系の美しい女性に恋をした歌だと思います。

1.Spanish Harlem/Ben.E.King

有名なソング・ライターチームのジェリー・リーバー&マイク・ストーラーのプロデュースで曲を作ったのはジェリー・リーバート。道路から赤いバラの花が一本だけ出ているいいジャケット写真です。

このアルバムは今のスパニッシュ・ハーレムがラテン調でヒットしたことからラテンの名曲をベン・Eに歌わせるという企画だったと思います。あとはラテンの名曲がどっさり入ってます。
日本でもぼくが子供の頃、50年代終わりから60年代ラテンのブームがあり、アイ・ジョージさんとか坂本スミ子さんとかラテン・シンガーがいて江利チエミさん、ザ・ピーナッツもラテンの曲を歌ってた記憶があります。次に聴いてもらうのはラテンの中でも有名曲で英語のタイトルはPerhaps, Perhaps,Perhapsでつまり「たぶん、たぶん、たぶん」という意味ですが、男が求愛の言葉で女性に迫っても彼女の答えはいつも「たぶん、たぶん、たぶん」としか言ってくれないという内容です。

2.Quizás, Quizás, Quizás(Perhaps, Perhaps,Perhaps)/Ben.E.King

実は自分の親父がラテンのレコードを持ってまして子供の頃に家で流れてました。別に親父はラテン・ミュージックが好きというわけではなかったと思いますが、巷で流行っていたから買ったんでしょうね。ナット・キング・コールのラテン・アルバムもありました。
そういえば今日のベン・E・キングがナット・キング・コールに歌が似てるんですよ。キング・コールがもっと力入れて歌った感じ。次の曲はメキシコの作詞作曲家によって書かれた曲ですが、英語の歌詞にしたことで広くヒットしました。そういえばメキシコからトリオ・ロス・パンチョスというグループが来日してテレビでこの歌を歌ってた記憶があります。

3.Sway(Quién será)/Ben.E.King

やっぱり歌うまいですね。元々こういうラテンを歌っていたシンガーみたいですよね。
次はスペイン語で「ぺルフィディア」でこれもラテンの有名曲ですが、ぼくが10代の頃ベンチャーズがこの曲を「パーフィディア」というインストルメンタル曲で演奏していました。男が女性にフラれた曲で曲名「ぺルフィディア」は「不誠実」とか「裏切り」とかいう意味だそうです。あとグレン・ミラー楽団とかビリー・ボーン楽団とかオーケストラがこの曲をカバーしていたなぁ・・なんか懐かしくなってきました。聞き覚えのある人もいると思います。

4.Perfidia/Ben.E.King

最後はやはりナット・キング・コールが1958年に歌ってヒットしたバージョンでぼくは知っているのですが、これもラテンの有名曲です。
ベン・Eの歌の表現も素晴らしいですがナット・キング・コールかと思うほどよく似ている瞬間があります。

5.Come Closer To Me/Ben.E.King

結局、ベン・E・キングくらいのうまい歌手だとR&Bとかソウルだけでなくなんでも高いクオリティで歌えるんですよ。
今日はアルバム・ジャケットに興味があって買ってみたらソウルではなくラテン曲のアルバムだったという楽しい裏切りでした。ジャケット写真が本当にいいので番組HPでご覧ください。

 

2025.09.19 ON AIR

LP中古盤放浪記その12

若い頃金がなくて手放したレコードとの再会

American Folk Blues Festival’65~’66 (Phillips/日本ビクター SFL-7386)

ON AIR LIST
1.Slow Down/J.B.Lenoir
2.First Time I Met The Blues/Buddy Guy
3.Checkin’ On My Baby/Junior Wells
4.All Your Love/Otis Rush
5.I Keep On Drinkin/Little Brother Montgomery

若い頃はお金がなくてレコードを買うのにも四苦八苦していました。歳を重ねてからもお金のことを考えずにレコードを買ったことはありませんし、すごくレアなLPやシングルが高くて断念することは今もあります。若い頃はアルバイトもしてましたが、バンドが少し忙しくなると継続するバイトができなくてレコードどころではなくなり泣く泣くレコードを売ったこともあります。
実は今日紹介するアルバムはそういう金がなかった頃に売ってしまった一枚で売ってからしばらくしてすごく後悔したアルバムです。というのもこのアルバムはブルーズを知り始めた頃に何度も何度もよく聞いたアルバムで自分にとって思い出深いものでした。お世話になったアルバムです。なんで売ってしまったのだろうと・・・後悔しましたが、そのくらい金に困っていたんですね。そのアルバムに今年に入って出会いました。もちろん自分が持っていた全くのそのアルバムではないんですけど・・。とても状態のいいレコードでジャケットも自分が持っていたものより綺麗です。中古レコード屋のボックスの中で見つけた時はなんか昔好きだった女性にばったり出会ったようなときめきがありました。そのアルバム「アメリカン・フォーク・ブルースフェスティバル’65~’66」を今日は聞きます。
まずこのアルバムですごく好きなJ.B.ルノアのこの曲を。ハーモニカはシェイキー・ホートンことウォルター・ホートン

1.Slow Down/J.B.Lenoir

8小節のブルーズ・バラードですごく素朴な感じがたまらなく好きで買った当初、多分1971年頃は何度もこの曲をリピートしていました。ウォルター・ホートンのハーモニカもダウンホームでいい感じです。
このアルバムがリリースされたのは1967年でPhillipsの音源を日本でコンピレーションして日本ビクターからリリースされたものです。まだ日本でのブルーズの黎明期にも入っていない頃で解説を書いている中村とうようさんも関連資料が少なくて手探りで書いている感じです。
そのとうようさんがモダン・シカゴ・ブルースを代表する一人と書いているバディ・ガイです。
バディはこの曲を何度も録音しているのですが、僕はこの録音が一番好きです。「初めてブルーズに出会った時」
という曲名ですが本当に初めてブルーズに出会った頃の思い出の一曲です。

2.First Time I Met The Blues/Buddy Guy

ウエストロード・ブルーズバンド時代に僕はこの曲をカバーして50年くらい歌っていて僕にとっても大切な一曲となっています。だからこのアルバムは本当に売ってはいけないアルバムだったんです。
でも、いまこうしてまた出会えてよかった。
次はいまのバディ とはブラザーといってもいいジュニア・ウエルズ。バックはギターがオーティス・ラッシュ、ドラムがフレッド・ビロウ、ベースはジャック・マイヤーズと当時のシカゴ・ブルーズの精鋭たちです。ドラムとベースがすごいです。

3.Checkin’ On My Baby/Junior Wells

この当時ジュニアは32歳、ラッシュは31歳、バディ・ガイは29歳です。みんな初めてヨーロッパへ行った時だと思います。そしてみんなシカゴのゲットーから抜け出そうともがいていた頃です。
次はオーティス・ラッシュ。次の曲はエリック・クラプトンがジョン・メイオール・ブルース・ブレイカーズにいた頃にギタリストとして録音している曲ですが、調べてみたらそのアルバムもこのライヴがあった66年リリースなんです。クラプトンはこのコンサートを聴きに来たんでしょうか。

4.All Your Love/Otis Rush

シカゴ・ブルーズの若手と言われた3人が聞けるのもこのアルバムの魅力です。三人三様、それぞれ素晴らしいです。
さて最後はこれも一曲目のSlow Downと同じようにヘヴィ・ローテーションで聴いていた曲です。
当時自分が始めていたウエストロード・ブルーズバンドはエレキ・バンドなので必然的にモダン・ブルーズを取り上げることになっていたのですが、僕が自分の部屋で好んで聴いていたのは一曲目のJ.B.ルノアのSlow Downとか次のピアニスト、リトル・ブラザー・モンゴメリーのようなダウンホームなブルーズでした。

5.I Keep On Drinkin/Little Brother Montgomery

音楽は個人的な体験や経験に他ならないと言いますが、本当に40年ぶりくらいにこのLPを聴いていると当時住んでいた京都の街や通ってたロック喫茶やジャズ喫茶もバイト先のビアホールなんかが浮かんで来ました。