2022.02.11 ON AIR

リアル・サザン・ソウル・シンガー、ウィリー・ウォーカーの遺作”Not In My Life”

Not In My Life / Wee Willie Walker (BSMF-2750)

ON AIR LIST
1.Don’t Let Me Get In Your Life/Wee Willie Walker
2.Darling Mine/Wee Willie Walker
3.Warm to Cool to Cold/Wee Willie Walker
4.Let The Lady Dance/Wee Willie Walker

2019年11月19日に亡くなった最後のリアル・サザンソウル・シンガーと言われたウィリー・ウォーカーの遺作”Not In My Life”が昨年10/29に日本のBSMFレコードからリリースされました。少し遅れましたが今日はそのアルバムを聴きながらウィリー・ウォーカーを偲びたいと思います。
昨年亡くなった女性シンガーのキャロル・フランを少し前にON AIRしましたが、ウィリー・ウォーカーもキャロルと同じように若い頃はなかなかヒットが出ず、広く名前を知られることもなかったシンガーでした。その本領が開花したのが60才過ぎてからで本当に遅咲きのソウルシンガーでした。
最近のブルーノ・マーズやジョー・バティーストなど若い才能のあるミュージシャンたちの華やかな活躍振りも興味のあるところですが、ウィリー・ウォーカーのようにトラッドな南部のソウル・スタイルで歌い続けてくれたシンガーはとても頼もしい存在でした。
ずっと続くコロナ禍の中、今こそ黒人クラブで一杯呑みながらゆったりとウィリーのようなサザン・ソウルを聞きたいと思います。77歳でまだまだ歌える力を残して天国へ行ったウィリー・ウォーカーの遺作”Not In My Life”からまず一曲

1.Don’t Let Me Get In Your Life/Wee Willie Walker

ウィリー・ウォーカーはこのアルバムを録音した直後に亡くなりました。
彼は1941年ミシシッピ州生まれ。1959年「Little Girl Echo」という曲で初録音デビューしましたが、ヒットには至らなかったようです。そして1967年にスペンサー・ウィギンスやジェイムズ・カーと言った素晴らしい南部のソウルシンガーをデビューさせたゴールドワックスからビートルズの「Ticket To Ride」のカバーをリリースしたのですがヒットしなくて、翌年にはシカゴのチェス・チェッカーからもシングルを発表し、その後もシングルをリリースしたがヒットには至っていません。
でも彼は工場で機械工として働いたりや医療従事の仕事をして生計を立てながら週末にクラブで歌うという生活を続けました。やっぱり歌うことが好きだったんですね。そこではサム・クックやオーティス・レディングのカバーも歌っていたようです。次の曲もそういう60年代のR&B、ソウルの匂いがするいい感じの曲です。

2.Darling Mine/Wee Willie Walker

いいですね。僕はソウルに入ったのがサザン・ソウルだったのでこういう南部のテイストが好きです。
それでずっと知られていなかったウィリー・ウォーカーが知られるようになったのは、体調を壊し少しリタイアしていてから復活した2002年にリリースしたアルバム『Willie Walker』
これが彼の初アルバムでなんと61歳でした。ずっとシングルしか出したことがなかったんですね。
その後、ギタリストのカーティス・オベダが率いるミネアポリスのバンド「ブタンズ」がバックを務めるようになり、いわゆるメンフィス・ソウル風のしっかりしたバンド・サウンドで歌えるようになったことが彼の復活に繋がりました。
2004年に『Right Where I Belong』2006年『Memphisapolis』(メンフィサポリス)と順調にアルバムリリースを続け、ヨーロッパにもツアーに出かけ2008年には日本にもやってきました。残念ながら仕事で僕はこの来日公演を見れなかったのですが・・・

3.Warm to Cool to Cold/Wee Willie Walker

今日聴いている遺作となった”Not In My Life”のバックアップをしているギタリスト、アンソニー・ポールが率いる「ザ・アンソニー・ポール・ソウル・オーケストラ」が2017年のアルバム”After Awhile”からバックをやるようになりました。それでウィリーはずっと安定したバック・サウンドをバックに歌い続けることができました。アンソニー・ポールはベイ・エリアを中心に活動しているギタリストでボズ・スキャッグスやチャーリー・マッセルホワイトのバックもやってきた腕利きのギタリストです。やはりウィリーのようなソウル・シンガーは安定したバンド・サウンドがあるといい歌を歌えます。ステージの回数を重ねるほどバンド・サウンドも充実するので大切なポイントです。

2015年の『If Nothing Ever Changes』では、ブルース・ミュージック・アワードでアルバム・オブ・ジ・イヤーを含む3部門にノミネート。さらにリビング・ブルース・アワードでは2部門制覇。2017年の『アフター・ア・ホワイル』でも多くの音楽賞を獲得。いくつもの賞にも輝きウィリーにとってはいい晩年だったと思います。しかし2019年11月19日に眠っている間に天国へ行ってしまいました。77歳でした。
有名とは言えないウィリー・ウォーカーは他の仕事をしながらも歌が好きで歌うことを諦めなかった。
その歌声を聴いていると決してスケールの大きなシンガーでもないし、すごく華があるシンガーでもないのですが、歌に対して誠実で心がこもっていることがわかります。それが真のソウル・シンガーということだと思います。

4.Let The Lady Dance/Wee Willie Walker

華々しくはないですが、誠実な歌が聴けるリアル・サザン・ソウルシンガー、ウィー・ウィリー・ウォーカーの遺作「Not In My Life 」を聞きました。また来週。

2022.02.04. ON AIR

映画「ベルーシ」公開に寄せて久しぶりにブルーズ・ブラザースを聴く

The Blues Brothers Original Soundtrack (Atlantic 16017-2)

ON AIR LIST
1.Somebody Roan Me A Dime/Fenton Robinson
2..She Caught The Katy /The Blues Brothers
3.Peter Gunn Theme/The Blues Brothers
4.Boom Boom /John Lee Hooker
5.Shake A Tail Feather / Ray Charles

昨年12/17からジョン・ベルーシの伝記ドキュメンタリー映画「ベルーシ」が公開されました。ぼくはまだ見ていないんですが、映画は彼の幼少期からコメディアンを目指しそして個性的な俳優へとのぼり詰めていき最後ドラッグの過剰摂取で亡くなるまでを描いています。
僕は1978年の映画「アニマル・ハウス」で初めてベルーシを観て映画があまりに面白かったので記憶に残り、その後アメリカへ行った時にテレビで放映されていたコメディ番組「サタディ・ナイト・ライヴ」に彼が出演していて、そのハチャメチャぶりに大好きになった。その「サタディ・ナイト・ライヴ」の番組の中から生まれたキャラクターが「ブルース・ブラザーズ」でこれが映画化されて全世界ヒットになったわけです。それで映画のプロモーションで来日したときにジョン・ベルーシとダン・エイクロイドの二人がぼくのライヴ会場にやってきて一緒にセッションもしました。話も少しできたのですが、ダン・エイクロイドが元々ブルーズとかソウルとか黒人音楽好きで音楽をよく知っていました。映画の中でルイ・ジョーダンの”Let The Good Times Roll”がエルウッド(ベルーシ)のアパートでながれるシーンがあり、そこでレコードが映るんですが、それがデッカレコードの原盤だったのに気づいたので「あれ、デッカの原盤ですよね」と言ったらダンが「あれ、俺のレコードなんだ。よく原盤って気づいたね」と喜んでました。あとビートルズやストーンズのようなロックから黒人音楽に入った流れも僕と同じでシカゴ・ブルーズの話もしてましたし、次は南部を舞台にブルーズ・ブラザーズ2を作るとベルーシはその時言ってたのですが、よく年に亡くなってしまいました。

映画の最初のシーン、ベルーシが演ずるエルウッドが刑務所で寝ているところを看守に起こされるんですが、あまりみんな気づいてないのですがそのバックで流れているのがフェントン・ロビンソンの”Somebody Roan Me A Dime”
フェントン・ロビンソンはブルーズフリークの間では知られてますが、映画を観にくる一般の人たちにはまあ知られていないので映画の冒頭に「こんなブルーズ流すか・・」と笑いました。1967年にフェントンが録音した曲で「誰か金貸してくれへんか。彼女と別れる前の昔の自分に電話したいんだ。その電話代を10セント貸してくれへんか」という彼女と別れたことを後悔している歌
これはサントラには入ってません。

1.Somebody Roan Me A Dime/Fenton Robinson

ブルースブラザーズの映画を観ていて最初からこのマニアックな選曲に驚いたのですが、次の曲もマニアックな曲で1968年にタジ・マハールが「ナッチェル・ブルース」というアルバムに録音した曲です。映画のサントラからどうぞ。

2.She Caught The Katy/The Blues Brothers

ブルーズ・ブラザーズの二人が車に乗っているシーンが何度かあるのですが、そこで流れた曲が次のインスト曲の「ピーター・ガン」
「ピーター・ガン」は50年代の終わりから60年代にかけて放映されたアメリカの探偵物のテレビ番組で、そのテーマ・ソングです。この番組は60年代初めに日本でも少し放映されてたようですが僕は10才くらいで覚えてないのですが、曲は覚えてました。多分当時の日本のテレビの音楽番組で日本のミュージシャンにカバーされていたのだと思います。作曲したのは「ムーン・リバー」で有名な作曲家のヘンリー・マンシーニです。

3.Peter Gunn Theme(シーム)/The Blues Brothers


映画「ブルーズ・ブラザーズ」が公開されたのが1980年でした。それからDVDを何度も観ていますが、何度観ても楽しい映画です。その試写会の時に思わず「Yeah!」と声が出てしまったのがジョン・リー・フッカーがマックスウェル・ストリートで演奏するシーンでした。ジョン・リーの歌う姿にも感激しましたが、手にたばこを挟みながらハーモニカを吹くウォルター・ホートンが映った時に思わず「Yeah!」と声が出ました。ウォルター・ホートンはリトル・ウォルターほど有名なハーモニカ・プレイヤーではないのですが、素晴らしいセンスのあるプレイヤーです。
そのジョン・リー・フッカーが映画で歌っていたのが次の”Boom Boom”ですが、この曲はサウンドトラックには入ってません。
1962年Vee Jayレコードからリリースされたジョン・リーの大ヒットでイギリスの「アニマルズ」はじめ多くのロックバンドにもカバーされました。
原曲のジョン・リーです

4.Boom Boom /John Lee Hooker


映画ではジョン・リーの足元が映るシーンがありました。これはジョン・リーの録音によく足音が入っているのでそれでわざと足元を映したのですが、そういう映像のちょっとしたショットや選曲と出演ミュージシャンの選び方を観てこれはエンターテナーでありながらマニアックな映画だとわかりました。つまりブルーズや黒人音楽の美味しいところをよくわかっている映画で、それを痛快なエンターテナーとして作ったところが素晴らしいです。すごくよく出来た映画だと思います。
レイ・チャールズが楽器店の親父として登場したシーンも笑えるもので、そこでレイが歌ったこの選曲にもびっくりしました。

5.Shake A Tail Feather / Ray Charles


今の曲のオリジナルは「ファイヴ・ドュー・トーンズ」というグループが1963年にリリースしたものでなかなかマニアックなものです。でもさすがレイ・チャールズは新しい息をこの曲に吹き込んでいます。この曲でみんながストリートで踊るシーンも楽しかったですね。

ソウル・フード店の女将役のアレサ・フランクリン、教会の牧師役のジェイムズ・ブラウンはじめアメリカの人間国宝のようなキャブ・キャロウェイ、アレサの旦那役でマット・マーフィ、そしてバンド仲間の役でベースのドナルド・ダック・ダン、ギターのスティーヴ・クロッパー、ドラムのウィリー・ホールなどの出演も良かったですね。
主役のジョン・ベルーシが亡くなったのは1982年でまだ33才でした。とても才能のある俳優だったので残念でした。
今回の映画「ベルーシ」ちょっと観にいくのが遅れてますが、面白そうです。是非皆さんも映画館へ・・Hey HeynThe Blues Is Alright

2022.01.28 ON AIR

昨年、突如リリースされたマディ・ウォーターズ全盛期1954年ライヴ

Muddy Waters and His Band LIVE IN LOSANGELES 1954 (GNP Record GNP9057)

ON AIR LIST
1.Baby Please Don’t Go/Muddy Waters
2.I’m Your Hoochie Coochie Man/Muddy Waters
3.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters
4.I’m Ready/ Muddy Waters
予備:5.Oh Yeah/ Muddy Waters

昨年、ブルーズ・ファンの間で評判になったアルバムがありました。マディ・ウォーターズのライヴの10インチ・アナログレコードです。LPより少し小さいサイズの10インチレコードで5曲収録されています。
1954年にロスアンゼルスのシュライン・オーディトリアムで行われたライヴで、素晴らしい内容ですがレコードでしかリリースされていません。
録音メンバーは歌とギターのマディ・ウォーターズ、ピアノにマディの右腕オーティス・スパン、ギターが名人ジミー・ロジャース、ドラムにエルジン・エヴァンス、ハーモニカはリトル・ジョージと記載されてますが、ジョージ・ハーモニカ・スミスのことです。鉄壁のメンバーです。

まず録音された1954年はマディ39才。ブルーズマンとして脂が乗り切った絶頂期です。収録されているのはA面が”BABY PLEASE DON’T GO” “HOOCHIE COOCHIE MAN” “I JUST WANT TO MAKE LOVE TO YOU”の三曲。そしてB面が”I’M READY”そしてメンバー紹介のような喋りの録音が入っていて最後に”OH YEAH”。全5曲ですが、全盛期のライヴとしてとても貴重なものです。マディのライヴアルバムと言えば今までいちばん古いものは1960年のニューポートのライヴでしたが、これはそれより更に6年前ですからちょっと驚きでした。
まず最初から聞いてみましょう。ただひたすら「ベイビー、行かないでくれ」と歌うこの曲は古くからあるトラッドなブルーズですが、広く知られるようになったのはビッグ・ジョー・ウィリアムスが1935年に録音してから。マディは1953年にスタジオ録音してますからこれは翌年になります。

1.Baby Please Don’t Go/Muddy Waters

音のバランスが少し悪くてマディの歌とスパンのピアノの音が大きくて他が小さい。ベースがいないのでドラムがもう少し大きいと低音があっていいなぁと思ったりもしますが、なんせ1954年のライヴ録音で一つ一つの楽器の音を録ってないので仕方ないです。コンサートを主催した人が個人的な記録として録ったらしくてアルバムにするつもりは全くなかったようです。
でも、マディの歌とバンドの演奏の熱気は十分伝わってきます。
マディはすでにシカゴではかなり有名なブルーズマンになっていますが西海岸のロスあたりではどうだったのでしょう。

次はこのライヴが録音された1954年の1月にスタジオ録音された曲でR&Bチャート3位になり13週もチャートインしていたマディを代表する曲I’m Your Hoochie Coochie Man。
恐らくこのヒットがあったからロスのこの大きな会場のコンサートにも呼ばれたんだと思います。このシュライン劇場は5,6000人はキャパがある大きな会場でサム・クックのソウル・スターラースズ時代のライヴ録音もこの会場でした。あとグラミー賞の受賞式の会場としても知られていて、シカゴのクラブで歌ってきたマディにすればかなりのステイタス。「西海岸でもオレのブルーズぶちかましたるで」と気合いも入っていたと思います。この日のライヴにはあとギター・スリム、ジョニー・ギター・ワトソンも参加したようでかなり大きなコンサートだったと思われます。
シカゴから悠々とこの会場にやってきたマディの顔が見えるようです。そこで歌ったのがこの曲。

2.I’m Your Hoochie Coochie Man/Muddy Waters

脂ぎったマディが「俺はお前の精力絶倫男だ」と自信満々に歌う様子が目に見えるようです。
こういう音源が急に出てくることはたまにありますが、ブルーズマンとしては超有名なマディ・ウォーターズの音源はもう出尽くしたと思われていたので驚きでした。

すごく生々しくマディの歌声が聴けるこのライヴレコードなのですが、特に次の曲の生々しさはマディの真骨頂を捉えています。セクシーなブルーズ・スターとしてマディが女性たちにウケたわけもよくわかります。1960年のニューポートのライヴより6年前の更にギラギラしたマディが聞けます。まだまだこれから登っていく時代ですから。
きれいに言えば「お前と愛し合いたいんや」ストレートに言えば「お前と何をすごくしたいんや」という意味ですが、そう思って聞いてください。なるほど・・・と思うマディの歌です。

3.I Just Want To Make Love To You/Muddy Waters

もうマディの声の出方が半端やないです。パワーが有り余っている感じです。
2曲目、3曲目そして次の曲も全てこの年1954年のヒットです。つまり、マディの全盛期でありエレクトリック・シカゴ・ブルーズが作り上げられたその年のライヴです。だからこのライヴ盤はブルーズの歴史上にも大きな意味があります。
「俺は準備できてるけど、お前も準備できてるといいな」

4.I’m Ready/ Muddy Waters

いやもうマディがバリバリにノッてますね。こんな感じでライヴやってたんですね。
では全五曲聞いてもらいたいのですぐに次行きます!

5.Oh Yeah/ Muddy Waters

もう一度紹介しますと、このアルバムのタイトルは「Muddy Waters and His Band LIVE IN LOSANGELES 1954」です。
タワー・レコード、ディスク・ユニオンは売り切れてますが、名古屋のレコード店「ウォルターズ・ジューク」さんにならまだあるかも知れません。
貴重な素晴らしいアルバムです。是非ゲットして脂ぎったマディを聞いてください。ただしレコードしかありません。CDはありません。
ではまた来週Hey Hey The Blues Is Alright!

2022.01.21 ON AIR

現代の若き才能ジョン・バティーストをもっと知りたい

Hollywood Africans / Jon Batiste (Verve 6787520)

ON AIR LIST
1.Kenner Boogie / Jon Batiste
2.Saint James Infirmary Blues / Jon Batiste
3.Don’t Stop / Jon Batiste
4.What A Wonderful World / Jon Batiste

先々週グラミー賞に11部門ノミネートされているジョン・バティーストの”We Are”を聞きましたが、知らなかった新しい音楽に出会って感動することほど嬉しいことはないと思う。自分にとっての新しい発見のようなもので、それで一気に自分の音楽の世界が広がったり変化したりする・・・去年の秋にグラミー賞の発表で11部門にノミネートされてその名前が広く知れ渡り始めたジョン・バティースト。今回のグラミーにノミネートされたアルバム“We Are”を先々週聞きましたが、今回は2018年リリースの”Hollywood Africans”を聞こうと思います。
ジョン・バティーストは1986年生まれですから、現在35歳。ジャズとR&Bのカテゴリーに入っているキーボード・プレイヤー、作曲家、歌手ということになりますが、実際彼がやっている音楽活動はそういう言葉だけでは収まらないもっと広いものです。

まずこのピアノのインスト曲を聞いてください。

1.Kenner Boogie / Jon Batiste

聞いてもらったようにピアノのブギ・ブルーズです。トラッドなピアノ・ブギを踏襲している演奏ですが彼のピアノのテクニックの素晴らしさが随所に出ています。ベースパターンを弾く左手の安定感はもちろんですが、過去の先達のブギ・ピアニストたちが弾いてきたトラッドなフレイズがいくつも出てきます。そのことでもわかるように彼は過去の音楽遺産にとても敬意をはらって学んでいます。それは彼が生まれ育ったニューオリンズが昔から伝統的な音楽を大切にする街だというのに大きく関係していると思います。でも、それだけではなく彼の新しいフレイズやグルーヴ感があります。いまの曲のタイトル「ケナー・ブギ」のケナーはニューオリンズから少し離れた彼の故郷の街のことです。

次のSaint James Infirmary Bluesは邦題が「セント・ジェームズ病院」というタイトルで浅川マキさんが日本語で歌われていたのを覚えています。アメリカではトラッドな曲で1928年録音のルイ・アームストロング以降、ビリー・ホリディ、ボビー・ブランド、確かロックのジャニスも歌っていたように思いいます。セント・ジェームズ病院で亡くなった彼女に会いに行った歌です。ネットには亡くなった子供に会いに行ったと書かれているものもありますが、全体を読むと死んだのは彼女だと思います。お金がなくて医者にちゃんと診察してもらえずスチレッチャーに乗せられたまま死んでいいる青白い彼女と対面するというヘヴィな歌です。
タッチの強い途中のピアノ・ソロの展開が素晴らしいです。

2.Saint James Infirmary Blues / Jon Batiste

ジョン・バテスィートがどうしてこの古い曲を取り上げたのかわかりませんが、彼は10代から故郷のニューオリンズで音楽を始めて一族がバティース・ブラザーズというバンドを組むほどの音楽一族でそういう育ちもあっただろうし、ジュリアード音楽院で学生だった頃にも過去のたくさんの音楽を吸収したようです。
ジョンはジャズ・ピアニストという看板がありますが、今のように歌が歌える人でそれが大きな武器になっています。
それもジャズ・スタンダードを歌うだけでなく自分のオリジナルやR&Bのカバーも歌います。次の曲は彼のオリジナルで信じることや夢見ることをやめないでという内容でサビのメロディが心に残ります。

3.Don’t Stop / Jon Batiste

いい声してますよね。ピアノの音もきれいです。

次の曲はもうジャズだけでなく多くのミュージシャンにカバーされているスタンダードな曲です。このジョンのアレンジは個性的で新しい感じがします。こういうところがジャズ的なところかなと思います。
ただカバーをしているだけでなくそこに彼の精神性がすごく感じられる。つまりリアリティが感じられる音楽を彼はやっています。

4.What A Wonderful World / Jon Batiste

ジョン・バティーストはまだ35歳で、ブラック・ライヴズ・マターの運動にも関係している政治意識や社会意識も高い彼がこれからどんな音楽を発表してくれるのか本当に楽しみです。これから聞く音楽が増えた嬉しい気持ちでいっぱいです。来日コンサートもやってほしいですね。

2022.01.14 ON AIR

80歳でグラミーにノミネート、ビッグ・チーフ、モンク・ブードローの素晴らしい新譜

Bloodstains and Teardrops(Whiskey Bayou Record CDWSK1006)

ON AIR LIST
1.Bloodstains and Teardrops / Big Chief Monk Boudreaux
2.Mr.Okura / Big Chief Monk Boudreaux
3.Choo Choo / Big Chief Monk Boudreaux
4.Blues, Blues, Blues / Big Chief Monk Boudreaux

先週グラミーに11部門でノミネートされたニューオリンズの若き才能ジョー・バティーストをON AIRしましたが、今回は同じニューオリンズの80歳、マルディグラ・インディアン「ゴールデン・イーグルス」のビッグ・チーフ、モンク・ブードローの新譜「ブラッドステェン&ティアドロップス(血痕と涙)」です。
このアルバムも今回のグラミーの「ベスト・リージョナル・ルーツミュージックアルバム」にノミネートされています。80歳のモンク・ブードロー、グラミー獲得してほしいですね。
実は今回のモンクのアルバムはトラッドなマルディグラ・インディアンの音楽ではなくこんな感じで始まります。アルバムのタイトル曲です。

1.Bloodstains and Teardrops / Big Chief Monk Boudreaux

レゲエですね、ジャマイカのキングストンまでギタリストのデイモン・ファウラーだけ連れてレコーディングしたそうです。あとは地元ジャマイカのミュージシャン達。録音はジャマイカとニューオリンズと二箇所で行われたようですが、このジャマイカ録音が実にモンクにハマってます。
全体的にはレゲエとブルーズ、スワンプ、マルディグラ・インディアンなどニューオリンズ、ルイジアナの音楽のミックスされた音楽となりました。元々、ジャマイカとアメリカ南部は音楽的に近いものがあり、レゲエのリズムの発生はブルーズのシャッフルのリズムから始まったり、アメリカのR&Bのカバーもレゲエでたくさん聴くことができます。
次の曲のタイトルがオクラ、英語の発音はオウクラ
日本でも食べるオクラがニューオリンズの名物料理のガンボにも入っていて、オクラが実はアフリカ発祥の食べ物だとニューオリンズに行った時初めて知りました。

2.Mr.Okura / Big Chief Monk Boudreaux

まだあるかなぁ・・ニューオリンズの「メナス」っていうレストランのガンボが美味しくていいつも通ってました。

僕が初めてニューオリンズに行った時、マルディグラ・インディアンの演奏にはタンバリンなどの打楽器だけでギターやキーボードのような和音楽器が何もなかった。打楽器と歌だけだった。とてもアーシーでプリミティヴでそれが音楽の原点を聴く思いですごくよかった。
それですぐニューオリンズのレコード店でマルディグラインディアンのアルバムいくつか買いました。
今回のアルバムにはろんなパターンの曲が収録されてますが、次の曲はロック・テイストでイントロは「クリーデンス・クリアウォーター」の曲みたいで、モンクの歌はストーンズのキース・リチャーズが歌っているように聞こえます。

3.Choo Choo / Big Chief Monk Boudreaux

80歳ロックしてます。かっこいいです。

ニューオリンズのマルディグラ・インディァンにはいくつものトライヴと呼ばれる団体、グループがありそのグループのトップがビッグ・チーフと呼ばれる人で、モンクはゴールデン・イーグルスというトライヴのビッグチーフです。ニューオリンズはいろんな人種がミックスされた人たちがたくさんいてアフリカン・アメリカン、フランス系、スペイン系、カリブ系、ネイティヴ・インディァン系などたくさんの人種が交差しています。人種差別が激しかった頃は白人の支配から逃げる黒人をインディアン達が助けかくまったりという話もあります。その中から黒人とインディァンのミックスの人たちが生まれてきたりと・・それは他の人種ともあって本当にいろんなミックスの人たちがいます。

次の曲は「ブルーズ、ブルーズ、ブルーズ」という曲名ですが、レゲエとブルーズがミックスされルイジアナのケイジャンテイストもある面白い曲です。

4.Blues, Blues, Blues / Big Chief Monk Boudreaux

モンク・ブードローは何度か日本に来たことがあり、ニューオリンズで活動している僕の盟友の山岸潤史がワイルド・マグノリアスでギターを弾いていた時、モンクもマグノリアスに参加して来日しました。その時すこし話しましたが、とても温厚な優しい物静かな人でした。
80歳、モンク・ブードロー、グラミー獲得してほしいです。
みなさん、ぜひこのアルバムをゲットしてください。本当にいいです。