2023.03.17 ON AIR

ブルーズ・ギター名人、ウエイン・ペネットの作品集を聴く

Wayne Benett In Session 1950-1961

ON AIR LIST
1.Stormy Monday Blues/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)
2.Hard Luck Blues/Amos Milburn(g.Wayne Bennett)
3.Knocking At Your Door/Elmore James(g.Wayne Bennett)
4.I Feel Alright Again/Junior Parker(g.Wayne Bennett)
5.You’re The One(That I Adore)/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)

どんな世界にも名人と呼ばれる傑出した才能の持ち主はいますが、今日ON AIRするウエイン・ベネットは間違いなくブルーズ・ギターの名人です。まあ、ブルーズだけではなく何でも弾けるギタリストなのですが、彼が活躍した時代がブルーズとR&Bの全盛期だったのでそのあたりにいい録音がたくさん残っています。
ウエイン・ベネットは1931年オクラホマの生まれ。ロスアンゼルス、ニューヨーク、シカゴで活動し晩年はニューオリンズに住み92年にずっと患ってた心臓の病で亡くなりました。享年61歳。ちょっと早いですね。心臓の手術を受ける予定だったのにその前に亡くなったそうです。
ブルースを好きな人たちの間でウエイン・ベネットと言えば、必ず話題に出るのはボビー・ブルー・ブランドの”Stormy Monday”での名演です。もちろん名ブルーズ・シンガー、ブランドの歌の素晴らしさあってのものですが、ギター・ソロだけでなく歌と呼応して弾くオブリガードの見事さも聴いてください。

1.Stormy Monday Blues/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)

ウエイン・ベネットのギターでこの曲のムードが決められていると言ってもいいと思います。T.ボーン・ウォーカーのギター・スタイルを基本にジャズ・テイストを混じえて自分のフレイズを織り込んだギターが素晴らしく、またギターの音質(トーン)が絶品です。
ウエイン・ベネットの影響を受けたギタリストはたくさんいると思うのですが、オールマン・ブラザーズ・バンドのデュアン・オールマンもその一人。オールマン・ブラザーズがStormy Monday Bluesをカバーしてるのをご存知の方もいると思いますが、彼らは原曲のT.ボーン・ウォーカーをカバーしたのではなく今のボビー・ブランドのバージョンをカバーしています。コード進行がボビー・ブランドのバージョンだからです。なので当然今の素晴らしいギターは誰だということになったのだと思います。
ウエイン・ベネットはアラジン、ヴィー・ジェイ、コブラ、デューク、フェデラルと名だたる黒人音楽のレコード会社でスタジオ・ミュージシャンとして録音していますが、今回いろいろ調べていてこの人のバックギターもベネットなんだという発見もありました。

40年代中頃から50年代中頃に人気を博したビアニスト・シンガーのエイモス・ミルバーンの全盛期あたりに録音された次の曲にベネットが参加しています。当時19歳とは思えない落ち着いたギタープレイで見事な歌のバックアッブをしています。
そもそもこのブルーズが悲しいブルーズのいちばんに挙げたいくらいヘヴィな歌詞でこんな内容です。「岩がオレの枕で地面がオレのベッド、(家はなくて)ハイウェイがオレの家・・行くあてもないのに歩いて歩いている。オフクロは死んでしまってオヤジに家から出された」と始まって最後は「オフクロの墓石の上で死んでしまおう」という悲しい歌です。

2.Hard Luck Blues/Amos Milburn(g.Wayne Bennett)

今の歌は元々ロイ・ブラウンが1950年に歌ってR&Bチャート一位になったブルーズですが、こういう歌に共鳴せざるを得ないほどアフリカン・アメリカン、黒人の人たちの生活はきついものだったということです。

ウエイン・ベネットはエルモア・ジェイムズの録音にも参加していて次の曲のイントロからオブリガード、ソロで聴けるシャープなギターはウエインのプレイだと思います。
最初、僕はこれはエルモア本人が弾いていると思ってたのですが、よく聴いてみると歌とオブリが重なっているところがあります。そこはエルモアが歌いながら弾くのは無理かなという箇所がいくつかあり、しかもこのテンションの高いちょっとモダンなギターはやはりウエイン・ベネットかと思います。

3.Knocking At Your Door/Elmore James(g.Wayne Bennett)

エルモアの歌のバックでリズムのいいコードワークをしながら時折オブリガードを弾く技はやはりすばらしい。

ブルーズのギター名人と呼ばれる人は他にも、「ブルース・ブラザーズ」でも活躍し多くのブルーズの名曲に参加したマット・マーフィ、そしてブルーズの巨人ハウリン・ウルフの右腕と称されたヒューバート・サムリン、そしてボビー・ブランドのバンドにベネットの後に参加したメル・ブラウンなど何人かいるのですが、不思議なことに他のギタリストはソロ・アルバムを残しているのにウエイン・ベネットだけソロ・アルバムがありません。ギタリストのランクにすればソロがあって当然の人なのに・・なぜかない。

ウエイン・ベネットの素晴らしさはギターソロだけでなく次のようなシャッフル・ビートのリズム、いわゆる裏打ちというやつですがそれも素晴らしくリズムをグルーヴさせています。

4.I Feel Alright Again/Junior Parker(g.Wayne Bennett)

最後にもう一曲ボビー・ブランドのバックで弾いているウエイン・ベネットを聴いてみようと思います。
タイトルの”You’re The One That I Adore”は私が愛おしく、熱愛するのはあなたですという意味だと思いますが、Adoreは崇拝するとかあがめるという意味もあるくらいで同じ愛するのLoveよりももっと精神的な愛に根ざしているという意味だと思います。ブランドが優しさと強さを混じえた歌の表現をするバックでオブリガートと時にコードワークでバックをするベネットのギターが秀逸です。

5.You’re The One(That I Adore)/Bobby Blue Bland(g.Wayne Bennett)

ボビー・ブランド、エイモス・ミルバーン、エルモア・ジェイムズ、オーティス・ラッシュ、バディ・ガイ、フェントン・ロビンソン、ジミー・リードなど錚々たるブルーズマンの録音とライヴに参加したギター名人、ウエイン・ベネットの50年代から60年代最初の録音を聞きました。ソロ・アルバム本当にないのかな・・・。

2023.03.10 ON AIR

ある日、私の胸に響いた歌声は全く知らない82歳の男の42年ぶりのアルバムでした

Tommy McLain/I Ran Down Every Dream

ON AIR LIST
1.I Ran Down Every Dream/Tommy McLain
2.No Tomorrows Now/Tommy McLain
3.I Hope/Tommy McLain
4.Before I Grow Too Old/Tommy McLain
5.That’s What Mama Used to Do/Tommy McLain

歌声だけで歌の意味がわからなくてもすごく惹かれるということがありませんか。
僕は今日聴いてもらうトミー・マクレインの歌声を初めて聴いた時に何か心を持って行かれるような強い魅力を感じました。今日は少しブルーズから離れて最近僕がヘビロテで聴いているトミー・マクレインのアルバムです。
60年代から活動して現在82歳になるこのシンガーの名前をうっすら知っているだけでまともに聴いたことは一度もありませんでした。ところがある日パソコンで別のミュージシャンのアルバムをネットで買おうとしていた時、トミー・マクレイン40数年ぶりのアルバム・・・と出てきて真っ白なヒゲを生やした彼が写っているちょっと変わったアルバム・ジャケットを見ました。名前はどこかで見たことのある・・・と思って何気なくそのプロモーション映像の矢印をクリックしました。すると流れてきたのがこのアルバムのタイトル曲でした。

1.I Ran Down Every Dream/Tommy McLain

この歌声に心が惹かれました。邦題が「夢から醒めて」でした。

「遠い昔を思い出すとフラフラと生きて、恋をしたり恋に破れたりしていた。そして音楽には関わり続けてきた。若かった頃はどんなやつの意見も変える情熱があった 。それからたくさん見た夢は消え去り、私が書いた歌詞のように忘れてしまった。でもそれが私の人生。真新しい調べとともに目覚める時まだ生きている自分に気づく。いろんな夢を駆け抜けた。いいことも、悪いことも、そしていくつかの話は決して喋らないけどね。」
この歌詞そのものが夢のような歌詞でバックのサウンドと相まって不思議な魅力を作っています。そして、そこに年輪を重ねたマクレインの歌声。その歌声には悲しみや孤独や後悔や優しさが詰め込まれています。
次の歌は「行くところもなく、金もなく、愛してくれる女性もいない、この街で迷っているオレに明日はない」

2.No Tomorrows Now/Tommy McLain

広いアメリカの夜の寂しさが漂ってます。アメリカで真夜中に車を運転してるときや人の少ない夜中のハンバーガー屋でこういう気持ちになったことを思い出しました。
トミー・マクレインはスワンプ・ポップの伝説的シンガーと言われているのですが、スワンプ・ポップというのはR&RにニューオリンズのフルーズやR&Bそこにザディコやケイジャンというルイジアナ独特の音楽がミックスされたもの。以前この番組でON AIRしたボビー・チャールズやクッキー&カップケークスもそう呼ばれることがあります。トミーを聞いていてもわかるように叙情的でちょっと涙腺を刺激するようなメランコリーな匂いがある音楽です。
トミー・マクレインは1966年に”Sweet Dreams”という曲がスマッシュヒットだけで全国区のミュージシャンではないのですが、スワンプポップ好きの人たちには伝説となってました。彼はそのヒットの後にヒット曲はなかったのですがルイジアナ、テキサス周辺をベースに活動を続けていました。
全体的な特徴の一つが歌詞がシンブルなのに何か含みがあるところでその辺も好きなところです。
次の曲は曲名もI Hope、私は願うですごくシンブルです
「いつかどこかで私たちはもう一度逢うのだろう。もうあなたを愛さない。私はそう願う。踊り明かそう。明日には君は行ってしまうのだろう。泣きたいよ。さよなら。君のことを忘れるように僕は願うよ」自分が君を忘れることを願うと言う切ない歌です。

3.I Hope/Tommy McLain

次は「老いぼれる前に」という曲名で作ったのはボビー・チャールズです。
「毎晩踊りに出かけるつもり、全ての街の灯を見るつもり、全部華々しくやるつもりだ。老いぼれる前に急がなくては・・」

4.Before I Grow Too Old/Tommy McLain

僕も老いぼれかけているのでいろんなやりたいことを急いでやらんとね。

次の曲はお母さんの腕の中で泣いてる小さな男の子を見て自分がお母さんから受けていた優しさを思い出す歌
「ママがやってくれたこと」

5.That’s What Mama Used to Do/Tommy McLain

トミー・マクレインは40数年ぶりのこのアルバム「I Ran Down Every Dream」が生涯最後のアルバムになるだろうと言っているようです。そんなこと言わずにまたリリースして欲しいです。このアルバムにはマクレインのことを敬愛しているエルビス・コステロ、ヴァン・ダイン・パークスなどが参加しニューオリンズのアイヴァン・ネヴィル、ジョン・クリアリーも参加してます。
ぼくは最初に聞いた彼の歌声だけですぐに好きになりましたが、ゆっくり聴くとても味わい深い曲がたくさんあります。
82歳のトミー・マクレイン42年ぶり素晴らしいアルバムでした。

2023.03.03 ON AIR

本当にライトニンに駄作はないのか

The Rising Sun Collection/Lightnin’ Hopkins

ON AIR LIST
1.Trouble In Mind/Lightnin’ Hopkins
2.Get Up/Lightnin’ Hopkins
3.Katie Mae/Lightnin’ Hopkins
4.Goin’ To Louisiana/Lightnin’ Hopkins
5,Early In The Morning Blues/Lightnin’ Hopkins

テキサスの偉大なフルーズマンであるライトニン・ホプキンスがこの世を去ってもう40年にもなる。たった一度だけ日本に来たのが1978年。あれから43年か。自分が好きなブルーズマンの5本指に入るライトニンなので彼のアルバムは自分のコレクションの中でもかなり多いがそれでもまだアルバムがかなりある。今日聴いてもらうアルバムは時々ライヴを一緒にやっているギターの上村秀右くんからプレゼントしてもらったものだ。実はこのアルバム”The Rising Sun Collection/Lightnin’ Hopkins”はレコード屋で見たことがあったのだが、買わなかった。というのもこのThe Rising Sun Collectionのシリーズでリリースされているエスター・フィリップスとビッグ・ママを以前買ったのだが全く良くなかったからだ。演奏も歌も録音もよくなかった。それでライトニンも買わなかった。しかし「ライトニンに駄作なし」という言葉があるくらいで気にはなっていた。この「ライトニンに駄作なし」というのはギタリストでライターでもある小出斉くんが言った言葉だったと記憶している。確かにライトニンのアルバムにこれは良くないというのはない。でも、このThe Rising Sun Collectionはどうだろう・・録音されたのは1977年、このレーベルのオーナーが経営しているRising Sun Selebrity Jazz Clubでのライヴ録音。バックにベースとドラムが入っているがいつものように弾き語り感満載。
まず最初の一曲。古いトラッドなブルーズ。「心の中の厄介なことで私は憂鬱。でもいつの日か私の裏口にも太陽が差すだろう」というつらい毎日だけどいつの日か救われるだろうとかすかな希望を抱いたブルーズ

1.Trouble In Mind/Lightnin’ Hopkins

イントロが始まったらお客さんの歓声が上がり反応が良かったのでライトニンはご機嫌になってます。
たぶんというか、絶対にウィスキーをぐいぐい飲んでるのでテンションは上がってるんでしょう。景気づけに得意のライトニン・ブギのインストを次にやってます。
「ライトニンに駄作なし」という言葉は今までぼくが聴いてきたアルバムでは当たっている言葉で「このアルバムあかんな。ダメやなぁ」というのはありません。その一つの理由はいつもライトニンはグルーヴしているからです。リズムがいい。バンドがついていようがいまいが、弾き語りでも演奏をするスタンスが全くわかりません。おそらくニューヨーク・フィルハーモニーてとやっても同じです。つまりやっていることは基本いつも同じなのです。やっていることを変えることはありません。だからいつも同じなのです。その同じようなアルバムをぼくは何枚も持っているわけですが、なぜかライトニンのアルバムをみると買ってしまう。常習性があるんですね。

2.Get Up/Lightnin’ Hopkins

勝手に終わってしまうんですね。なんか思いつたことをどんどんやってほとんどライトニンのやりたい放題です。ある意味パンク的な破裂した感覚も魅力です。フレイズやリズムにユーモアもあって面白いです。
いま思ったんですが、僕がライトニンを好きな理由の一つはこういうやりたい放題の自由さにあるんだと思います。こういう風にやっても形になるというかカッコいいんですよね。
そして次のようなスロー・ブルーズに入って行くところもかっこいいわけです。1946年ライトニンのデビュー曲ですがオリジナルではKatie Mae Bluesになっています。

3.Katie Mae/Lightnin’ Hopkins

もうひとつライトニンの歌声の魅力ですね。
バックはドラムとベースなんですが、ベースはあまり存在感がないというかたぶん勝手気ままにやって行くライトニンについて行くのが精一杯なんだと思います。普通のワン・コーラス12小節形式なんかライトニンは無視してますから。気が向いた時にコード・チェンジするのでベースはついて行くの大変やと思います。まあ聴いてればライトニンのクセがわかってくるんですがね。
次の曲はライトニンがMCで”Mojo Hand”と言ってるのにアルバムのクレジットはなぜか”Goin’ To Louisiana”になってます。

4.Goin’ To Louisiana/Lightnin’ Hopkins

I’m Going To Louisiana と歌い始めたところでもうかっこいいです。女性の歓声も聞こえてライトニンは絶好調です。弾き語りのブルーズ・スタイルの素晴らしさを感じるブルーズマンです。
結論から言うとやっぱりこのアルバムも駄作どころか素晴らしい一枚でした。これをプレゼントしてくれた上村秀右、ありがとう。
ひな祭りの夜にライトニン、思い出に残る夜になった・・・か?
そして、やっぱり「ライトニンに駄作なし」

2023.02.24 ON AIR

エウェーデンのフォーク・ブルーズ・シンガー、エリック・ビブの新譜

Eric Bibb/Ridin’
私のように黒い夜/Black Like Me

ON AIR LIST
1.Ridin’/Eric Bibb
2.Blues Funky Like Dat/Eric Bibb(Featuring Taj Mahal)
3.500 Miles/Eric Bibb
4.The Ballad Of John Howard Griffin/Eric Bibb(featuring Russell Malone)

今回はこの番組で初めて紹介するフォーク・ブルーズマン、エリック・ビブです。初めての紹介ですが新人ではなく1972年以来すでにアルバムも20枚ほどリリースしています。現在69歳。今回のアルバム”Ridin’”は3/24に日本のBSMFレコードからリリースされます。
グラミーにもノミネートされたこともありますし、ブルース・ミュージック・アワードも受賞しているので名の知れた方ですが、ちょっとバイオを紹介します。エリック・ビブはお父さんが60年代のフォーク・シーンで活動していたレオン・ビブという人で、おじさんがジャズ・グループのMJQのピアニスト、ジョン・ルイスさんです。僕はお父さんは知らないのですが、叔父さんのグループMJQは高校生の頃から好きで今でも時々聴いてます。
エリック・ビブは若い頃にヨーロッパに渡り今はスウェーデンを中心に活動しています。フォークとブルーズとゴスペルのテイストを持ってますが、柔らかい歌声で弾き語りにバックをつけたような全体のサウンドも柔らかくアフリカン・アメリカンと言われなければヨーロッパの黒人ルーツ・ミュージックが好きな白人が作ったアルバムかなとも思えます。
まずアルバム・タイトル曲です

1.Ridin’/Eric Bibb

幼い頃はニューヨークに住んでいて父親がフォーク・シンガーだったこともあり、彼の家にはボブ・ディランやジョーン・バエズ、ピート・シーガーなどが出入りしてたようです。50年代の終わりから60年代ですからフォーク・ブルームがあった頃ですね。そんな中で子供の彼が好きだったのがゴスペルとスピリチュアルズを歌った女性シンガーのオデッタ、やはりフォーク系のアフリカン・アメリカンのリッチー・ヘヴンス、そしてタージ・マハール。
今回のアルバムにはそのタージ・マハールがゲスト参加しているのでその曲を聴いてみましょう。

2.Blues Funky Like Dat/Eric Bibb(Featuring Taj Mahal)

エリックがギターだけでなくいろんな楽器を演奏することや、作られているサウンドを聴いてるとやはりタージの影響が強いなと思います。
次は60年代にピーター、ポール&マリーなどフォーク・シンガーたちにたくさん歌われた曲で、若い人たちにも歌い継がれているので知っている方が多いと思います。
列車に乗って街を出て行く歌ですが、たぶん恋人にわざと会わずに列車に乗って君が汽笛を聞く頃には僕は100マイル先に行っていると始まり、200マイル300マイルと故郷から離れて放浪して500マイルも遠くにきてしまったけど金も着替える服もない。故郷には帰れないという歌です

3.500 Miles/Eric Bibb

このアルバムにはいろんなタイプの曲が収録されているのですが、ジャズテイストでちょっと異色な曲が一曲あります。The Ballad Of John Howard Griffinという曲です。「ジョン・ハワード・グリフィンのバラード」ですが、このジョン・ハワード・グリフィンという人は以前この番組でも紹介しましたが「私のように黒い夜/Black Like Me」という本を書いた人で、白人のジャーナリストなんですが50年代の終わりに自分が黒人だったら世間でどんな風な扱いを受けるんだろうと白い肌を飲み薬と日焼け薬によって黒くしてしまった男の実話です。結局黒人として白人にひどいい差別を受けて殺されそうになったりするのですが、その壮絶な体験の話はぼくも読んで衝撃を受けました。興味のある方は本の写真もHPの今日の放送のところにアップしますのでご覧ください。そして読んでみてください。
この曲にはジャズ・ギタリストのラッセル・マーロンが参加していて素晴らしいギターを弾いています。

4.The Ballad Of John Howard Griffin/Eric Bibb(featuring Russell Malone)

ギタリストのラッセル・マーロンは元々オルガン奏者のジミー・スミスのバンドにいてその後ハリー・コニック・ジュニアのバンドに長く在籍していました。あとダイアナ・クラールやマルサリス兄弟やロン・カーター、ジャズ・ブルーズのクリーンヘッド・ヴィンソンともやっています。

エリックは13歳で音楽学校に入っているので正規な音楽教育も受けているのだと思いますが、音楽的にとてもしっかりしたものを感じます。やはりフォーク・ミュージックのテイストが強くブルーズというカテゴリーよりフォークの方がぴったりくるかなと思います。
母国アメリカを出て外から眺めるアメリカの音楽を自分のスタンスで作っているところが興味深いエリック・ビブ。ミシシッピ・ジョン・ハートやケブ・モあたりを好きな方にはぴったりくると思います。泥臭い弾き語りのブルーズを好きな人にはちょっと物足りなかったかもしれないですが、来週はライトニン・ホプキンズのコテコテのライヴアルバムです。

2023.02.17 ON AIR

遠い昔に音楽は人種を越えていた
黒人音楽に素晴らしい曲をたくさん作った白人のソングライターたちその4

ドク・ポマス

The Best Of Th Drifters
DEUCES WILD/B.B.KING

ON AIR LIST
1.Save The Last Dance For Me/The Drifters
2.Boogie Woogie Country Girl/Big Joe Turner
3.This Magic Moment/The Drifters
4.Lonely Avenue/Ray Charles
5.There Must Be A Better World/B.B.King with Dr.John

このところ黒人音楽に素晴らしい曲を提供した白人のソングライターたちの特集をやっているのですが、”Hound Dog”や”Kansas City”を作ったジェリー・リーバーとマイク・ストーラーのコンビの作品、そして先週は”Dark End Of The Street”や”Do Right Woman,Do Right Man”を作ったダン・ペンとスプーナー・オーダムの作品を紹介しましたが、今日はまずこの曲を聴いてください。

1.Save The Last Dance For Me/The Drifters

この曲を聴いたことのない人はいないだろうと思うほどの有名曲。倍賞千恵子さんや越路吹雪さんの日本語ヴァージョンもヒットした名曲ですが、原曲は1960年にリリースされた黒人コーラス・グループ「ザ・ドリフターズ」。リードで歌っているのは”Stand By Me”で有名なBen.E. King。彼がドリフターズに在籍した当時に大ヒットしたものです。
ご存知の方も多いと思いますが、この曲を作ったドク・ポマスは子供の頃にポリオ(小児麻痺)を患い松葉杖がないと歩けない状態でした。だから女性とダンスをするのは難しかったのですが、彼女が他の男と踊っているのを見てる時に「最後のダンスだけは僕と一緒に踊って欲しい」という切ない想いを込めて作った歌でした。
ドク・ポマスは本名ジェローム・ソロン・フェルダーで1925年の生まれです。両親はユダヤから移民でアメリカにやってきました。彼は子供の頃からブルーズが好きで病気を持ってましたがステージで歌いブルーズ歌手を目指していました。その頃の彼の憧れは偉大なジャズ・ブルーズ・シンガーのビッグ・ジョー・ターナーでした。1956年にその憧れのビッグ・ジョー・ターナーにドクが書いた曲がスイングする軽快なブギのこの曲でした。

2.Boogie Woogie Country Girl/Big Joe Turner

ポリオという病を持ちながらプロのブルーズ・シンガーを目指すことも難しく、彼は付き合っていた彼女と結婚することを機にソングライターの道を目指すことにしました。その時にドクの曲作りのパートナーとなったのがピアニストのモート・シューマン。そこでドクのソングーライターとしての才能も花が開いて二人はエルヴィス・プレスリーやボビー・ダーリンといった50年代の人気歌手にもたくさん曲を作りました。
最初に聞いてもらったSave The Last Dance For Meをヒットさせたドリフターズには他にもいい曲を提供していて次の曲もR&Bチャート4位、ポップチャートで9位に入るヒットとなりました。

3.This Magic Moment/The Drifters

次は1956年アトランティックレコードからレイ・チャールズが歌いR&Bチャートの6位になったブルーズ。まだヒットがあまり出ていないレイ・チャールズの初期の礎になった曲です。ちなみに60年代にシカゴ・ブルーズのマジック・サムがこの曲のパターンを使って自分の代表曲となる”All Of Your Love”を作ったのは有名な話です。
「窓が二つあるオレの部屋は陽の輝きがない。あいつと別れてから暗くて淋しい部屋だ。泣きたい、死にたい、寂しい通りに住んでいるオレ」
彼女と別れたから住んでいる街も寂しい街に感じるという歌。

4.Lonely Avenue/Ray Charles

ドク・ポマスはドクター・ジョンともたくさん曲を作ってました。次の曲はその二人が作って1981年にB.B.キングがレコーディンングしました。アルバムタイトルにもなったこのThere Must Be A Better WorldでB.B.はグラミーを獲得しました。もうすでにドク・ポマスもドクター・ジョンもB.B.キングも天国へ行ってしまいました。
今日はB.B.のアルバム「デューシズ・ワイルド」でドクターとB.B.がデュエットしているヴァージョンで聴いてください。
「俺は時々不思議に思う・・俺は何のために戦っているんやろって。勝っていたはずやのに結局いつも負けてる。俺はつまづいてばかり。俺は分かっているもっともっとマシな、いい世界がどこかにあるはずやって。愛した女はみんな他の男を好きになる。そしてはじまることもなく愛は終わってしまう。この世で見つからないのならたぶんあの世で見つかるんだろうな。泣く代わりに笑うことを覚えるんや。でも、きっとどこかにもっといい世界がどこかにあるはずや」

5.There Must Be A Better World/B.B.King with Dr.John

50年代から60年代にかけて白人のソングライターたちの曲を黒人シンガーが歌ってたくさんのヒットがあった話をここ何回かしてきました。その音楽の世界ではとっくに人種の壁はなかったわけです。白人のキャロル・キングが作って黒人シンガーのアレサ・フランクリンが歌った「ナチュラル・ウーマン」もそうです。
音楽には黒人も白人も日本人もないです。素晴らしい曲があるだけです。