2021.07.23 ON AIR

日本で唯一のブルースとソウルとゴスペルの専門誌「ブルーズ&ソウル・レコーズ」を紹介

ON AIR LIST
1.You’ve Got My Mind Messed Up / James Carr
2.It’s Wonderful To Be In Love / The Ovations
3.Deep Moaning Blues / Ma Rainey
4.Moonshine Blues / Bessie Smith

現在、私がエッセイを寄稿している音楽雑誌「ブルース&ソウル・レコーズ」を皆さんはご存知でしょうか。一年ほど前から”Fool’s Paradise”という連載を書かせてもらってます。私の連載はさておき今日はこの「ブルース&ソウル・レコーズ」という雑誌の紹介をしたいと思います。

「ブルース&ソウル・レコーズ」誌は隔月の発行でその時々のブルーズやソウルに関連した特集やライターの皆さんのエッセイや興味深い連載や、新譜紹介、日本のバンドの紹介、外タレの来日情報など盛りだくさんの雑誌です。コアなコーナーもありますが、私のエッセイ「Fool’s Paradise」などは全くコア感はなく、自分の音楽体験を元に普通のエッセイとして読めるものを目指しています。

この雑誌には毎回、その時の特集にちなんだCDが付録でついています。いちばん新しい160号はメンフィス・ソウルの特集なので、それに関連したゴールドワックスというメンフィスのレーベルに残された音源がついています。

そこからまず一曲聞いてみますか。

君は俺の心をかき乱すという歌です。夜は眠れないし食事も喉が通らない、彼女のためならいちばん高い山でも登るしいちばん深い海でも泳ぐ・・・まあ、何でもするよと。歌ってるのはゴールドワックス・レコードの代表的なソウル・シンガー、ジェイムズ・カー

1.You’ve Got My Mind Messed Up / James Carr

R&Bチャートの7位まで上がった曲です。

もう一曲続けて聞いて見ましょうか。やはり同じゴールドワックスに所属していたソウル・コーラスグループです。すごく有名なシンガーに声が似ているのですが・・・三人編成のコーラスでリードを取っているのはルイス・ウィリアムズです。

君に恋するのは天国のように素晴らしく素敵なことだというめちゃ甘いラヴソング。

2.It’s Wonderful To Be In Love / The Ovations

サム・クックにそっくりなルイス・ウィリアムズ。サム・クックのフォロワーや影響を受けた歌手はゴマンといるのですがそっくりなのはこのルイスさんがだんとつです。

こういう音源のCDが付いていてそれを聴きながら特集記事を読むとあまり知らない音楽のことでも少しずつ身近に感じてきます。

この「ブルース&ソウル・レコーズ」誌は前身の「ブラック・ミュージック・レビュー」そしてそのまた前身の「ザ・ブルーズ」という時代から僕はずっと読んでいます。

最初の「ザ・ブルース」が創刊されたのは1970年。もう50年以上前になります。

創刊したのは音楽評論家の日暮泰文さん。直接日暮さんに創刊の動機などを聞いたことはないのですが、1970年当時まだまだブルーズという音楽が日本で正しく認知されていない中、日本人にちゃんとブルーズを知ってもらいたいという気持ちだったと思います。日暮さんはその前60年代後半に同じ音楽評論家の鈴木啓志さんとブルーズ愛好会を作っていてその機関紙の延長が「ザ・ブルース」の創刊になったと思います。それはちょうど僕がブルーズに興味を持ち始め、歌い始めた頃だったのでブルーズのいろんな知識を得たくて「ザ・ブルース」を毎号隈なく読んでいました。

最初はほとんどブルーズだけをとりあげていたのですが、次第にブルーズと関連のあるゴスペルやソウル、ファンクなども取り上げるようになっていったのですが、そのあたりで「ブラック・ミュージック・レビュー」という名前になり、その後今の「ブルーズ&ソウル・レコーズ」へ名前が変わりました。

ブルーズ・ロックの特集やギターの特集もあり、戦前の古いブルーズの特集もあり前々号でとりあげられていたのが、最近ネットフリックスで公開された映画「マ・レイニーのブラックボトム」に連動したクラシック・ブルースの女性シンガー、マ・レイニーの特集でした。

そういう遠い昔の歴史的なブルーズというのはなかなか接する機会がないと思いますが、この「ブルーズ&ソウル・レコーズ」の特集記事を読んで、付録CDを聴くとクラシック・ブルーズへのすごくいい手引きとなります。CDの一つ一つの曲にも解説が書いてあります。1928年録音

3.Deep Moaning Blues / Ma Rainey     

この号の付録CDにはマ・レイニーと同時代のベッシー・スミスの歌と比較して聴く為にベッシーの歌も入ってます。

曲は「ムーン・シャイン」日本でも昔「どぶろく」と呼ばれるような密造酒がありましたが、次の歌はアメリカの黒人たちが隠れて作っていた密造酒のことで「ムーン・シャイン」と言います。警察に見つからないように月の明かりだけを頼りに酒を隠してある場所へ行ったことから「月の輝き」ムーン・シャインとよばれました。ムーン・シャインって少しロマンティックに聞こえるのであま~い曲かと思ったら密造酒でした。

1924年録音

4.Moonshine Blues / Bessie Smith

こういうCDが本についていてその解説もあるというのはすごくその音楽を理解するのにいいと思います。

自分が知らない音楽に出会うきっかけというのは、なかなか自分だけでは限界があります。そこでこういう「ブルーズ&ソウル・レコーズ」誌のような本があると親しみやすくなります。

毎号読んでいると自然とブルーズやソウル、ファンク、ゴスペルの知識が自然と増えてまた新しい音楽に興味が湧くと思います。

今日は日本で唯一のブルースとソウルとゴスペルの専門誌「ブルーズ&ソウル・レコーズ」の話をしました。ぼくのエッセイもよろしく。

ブルーズ&ソウル・レコーズ→https://bsrmag.com

2021.07.16 ON AIR

ブルーズ・ギターの職人たち 
メンフィスから世界へギター一本で名を馳せた男、マット・マーフィ

Matt”Guitar”Murphy In Session from memphis to chicago 1952-61(Jasmine JASMCD3178)

ON AIR LIST
1.Matt’s Boogie/Matt Murphy
2.Mother Earth/Memphis Slim & His Band(guitar:Matt Murphy)
3.Jamboree Jump/Memphis Slim With Matthew Murphy
4.So Many Roads So Many Trains/Otis Rush(rhythm guitar:Matt Murphy)

どんな職業にも職人技を持っている、名人と呼ばれる人がいます。今日はその職人技のブルーズ・ギターを聞かせてくれるギタリストのマット・マーフィー。彼が1952年から61年の約10年間に参加した音源をまとめたアルバム(Matt”Guitar”Murphy In Session from memphis to chicago 1952-61(Jasmine )がリリースされたので今回はそれで彼の見事なギターを聴いてみたいと思います。
私が最初にマット・マーフィのギターに感銘を受けたのは、60年代ブルーズマンたちがヨーロッパで開催された「アメリカン・フォーク・ブルーズ・フェスティバル」のコンサートで集ったライヴ盤に残されたこのブギの曲です。
安定したリズムで見事なビッキングのギターを聞かせてくれます。
1.Matt’s Boogie/Matt Murphy
ピアノ・メンフィス・スリム、ベースがウィリー・ディクソン、ドラムがビル・ステップニー、そしてギターがマット・マーフィ、1960年代前半シカゴ・ブルーズ一流のメンバーです。
マット・マーフィはミシシッピの生まれですが子供の頃にメンフィスに移住します。その子供の頃からお兄さんと一緒にギターを弾いていました。メンフィスで最初にお兄さんがジュニア・パーカーの”Mystery Train”の録音に参加してプロ入りし、マットはハウリン・ウルフのバンドに入ります。ここでウルフからブルーズの歌のバッキングについて教えられたとマットは言ってます。そのあと1952年にピアニストのメンフィス・スリムのバンド「ハウス・ロッカーズ」に参加します。ここからメンフィス・スリムの相棒ギタリストとしてスリムの録音とライヴにたくさん参加しています。余程相性が良かったのかかなり長い間ライヴも録音も共にしています。
マットのギターが曲全体にいいムードを作っているのがわかると思います。
「欲しいものをなんでも買えるたくさんの金を持っていても、どんなに偉くても、どんなに価値があっても、結局最後には大地(Mother Earth)に戻らなきゃいけないからな」
2.Mother Earth/Memphis Slim & His Band(guitar:Matt Murphy)
ピアニストのメンフィス・スリムは元々自分のバンドにギタリストを入れない人だったそうです。つまりギタリストが好きやなかったんですね。わかりますよ、ギタリストによっては音がでかくてこれ見よがしにやたら弾きまくるギタリストもいますから・・。ピアノはステージでアンプで音を大きくすることもできないし、無神経なギタリストだとピアノが聞こえなくなります。嫌になる気持ちはわかります。1952年にスリムのバンドに入り63年にスリムがフランスのパリに移住してしまうまで約10年間二人のコラボは続きました。マットが弾くソロや歌の合間のオブリガードなどはスリムの歌とピアノにうまく対応していて二人のコンビネーションは抜群でした。
次の曲はマットとスリムのデュオの録音で、ロックン&ロール・テイストですが二人の絶妙な音のやり取りを聞くことができます。
3.Jamboree Jump/Memphis Slim With Matthew Murphy
最高のグルーヴです

マット・マーフィだけでなくジミー・ロジャース、ロバート・Jr.ロックウッド、エディ・テイラーと言ったブルーズのスタジオ・ミュージシャン的なギタリストはソロとか歌の合間に入れるオブリガードが上手いということだけではなく、その曲のグルーヴ感を作るリズム・ギターがしっかりできる人たちです。それがまず基本です。
次のオーティス・ラッシュの代表的な曲のバックでザク・ザク・ザク・ザクというリズム・ギターで曲のグルーヴを作っているのがマット・マーフィ。素晴らしいソロとオブリガードはオーティス・ラッシュですが、バックのマットのリズム・ギターに今日は注意して聴いてみてください。
4.So Many Roads So Many Trains/Otis Rush(rhythm guitar:Matt Murphy)
イントロから突き刺すようなソリッドなラッシュのギターを受けて、最後までずっしりとしたリズムを繰り出しているマットのリズムが素晴らしいです。この曲の肝はこのマットのリズムギターにあります。

70年代に入ると、74年にブッダ・レコードからジェイムズ・コットン・バンドの名盤「100%コットン」に参加。
このアルバムでマット・マーフィはアレンジを担当して実質的なバンド・リーダーの役割を果たしています。面白いことに彼のギター・ソロらしいソロはありません。しかし、このアルバムはマットなくしてはできなかったアルバムで彼の卓越したリズムギターが随所で聞かれます。

マットが亡くなったのは2018年でした。

マットのようなギター名人でも最初からすごくギターが上手かった訳ではなく、20代の最初にミシシッピからメンフィスに出てきた時はまだまだの腕前だったようです。それでもなんかとかハウリン・ウルフのバンドに入ったり、ジュニア・パーカーの録音に呼ばれたりして次第にのし上がっていきます。T.ボーン・ウォーカーやジャズ・ギターのモダンな奏法の影響を受けてますが、ブルーズのアーシーな部分も持っているところがいいですね。
80年代にはブルーズ・ブラザーズに参加して映画でご覧になった方も多いと思います。
ギター一本で世界に知られたブルーズマン、マット・マーフィでした。

2021.07.09 ONAIR

最近リリースされたお薦めのモダン・ゴスペル・アルバム

The Gospel Truth/The Complete Singles Collection (Stax/Craft Records )

ON AIR LIST
1.Just My Imagination (Just My Salvation)/Rance Allen Group
2.Don’t Let The Green Grass Fool You (Don’t Let The Devil Fool You)/Reverend W. Bernard Avant Jr. & The St. James Gospel Choir
3.Who Is Supposed To Be Raising Who/21st Century
4.That Will Be Good Enough For Me/Rance Allen Group

ゴスペルはブルーズと並んでブラック・ミュージックのルーツのひとつだということは知っていてもどこから入っていいかわからないとか、何を聞いたらいいのかわからないという人も多いと思います。
今日紹介するのはファンクやソウルとほぼ同じ感覚で聴くことができる70年代のモダン・ゴスペルのコピレーション・アルバムです。リリースのレコード会社は60年代から70年代にソウル・ミュージックの名曲をたくさんリリースしたスタックス・レコードのゴスペル・レーベル「the Gospel Truth」 
スタックス・レコードのゴスペルというだけでちょっと興味が持てる人もいると思います。しかも70年代のゴスペルですから当然当時流行りのサウンドやビートの影響を受けています。もちろんトラッドなゴスペルを歌っている人やグループもいるわけですが、流行りのサウンドやビートを取り入れるというのもゴスペルを古い音楽にしたくないという人たちの考えだと思います。
最初に聞いてもらう「ランス・アレン・グループ」の曲はソウル・コーラス・グルーブ「テンプテーションズ」の1971年R&Bチャートトップに輝いた”Just My Imagination”の歌詞だけを変えたものでImagination をJust My Salvationと変えたものです。 salvationというのはキリスト教の罪を犯したことから魂を救う、救済するという意味です。
原曲のJust My Imaginationは毎日窓から好きな女性が通り過ぎるのを見ていた。そしてその娘と付き合うことになったなんて俺は幸せなんだ・・と、でもそれは自分の想像だったのさ、つまりJust my imagination・・・という内容なのですが、それをランス・アレンが「今朝目覚めて新しい朝を神様に感謝する。窓から朝日を見る美しい太陽、それ(神様の愛)は私の燃える魂を救ってくれる。夜にひざまづいて私は神さまに祈る 私からあなたの愛を奪わないでください。神様に感謝します」と書き換えた歌です。
1.Just My Imagination (Just My Salvation)/Rance Allen Group
ランス・アレンの歌は強力でいつも全開、全力みたいな人で聴くこっちもパワーがいるんですが、すばらしいゴスペル・シンガーです。
昔、ロスで観たコンサートで何人か出演した中の1人が彼だったのですが、パワフルでハイテンションで歌がなかなか終わらなかったのを覚えています。お客さんも総立ちで凄かったです。
次もソウルのウィルソン・ピケットが歌った曲の歌詞を変えたものですが、元々の歌は「長い時間付き合って2人で築いて来たものを捨てて他の男に行ってしまおうとする彼女に青い芝生に騙されたらあかんよ。心変わりしたらあかんよ」と。それを悪魔に騙されたらあかんよと書き換えた歌です。歌っている人とグループ名がめちゃ長いです。
2.Don’t Let The Green Grass Fool You (Don’t Let The Devil Fool You)/Reverend W. Bernard Avant Jr. & The St. James Gospel Choir
今の二曲のような馴染みやすい曲からゴスペルを聞いて行くのもいいかと思います。
ゴスペルは昔からブルーズやR&Bの影響も受けているし、ブルースもゴスペルの影響を受けています。結局黒人音楽はブルーズもジャズもソウルもファンクもゴスペルもリンクしているので、ゴスペルもその時代に流行っている音楽の影響を受けるのは普通のことです。
次の曲は70年代のファンク・ミュージックの影響をもろに受けているような曲でこれがゴスペル?と言いたくなるくらいファンクな曲です。
3.Who Is Supposed To Be Raising Who/21st Century

最後にもう一曲ランス・アレン・グループです。
「私は春や秋のパリに行ったことがない。タジ・マハールのインドにも、ウインタースボーツをしにスイスにもカーニバルやマルディ・グラがあるニューオリンズにも霧の日のロンドンにも行ったことがない。私はもし天国に行けたならそれで充分満足なのだ。天国が私の行きたいところなのです」
4.That Will Be Good Enough For Me/Rance Allen Group

僕はアメリカで日曜の朝に黒人教会へ何度か行ったことがあります。もちろんキリスト教の信者ではないので教会の後の方で見学させてもらっている感じです。みんなちゃんとスーツを着て女性もジャケットを着用するようなフォーマルな装いで来ます。やはり遊びではなく教会の神様の前にいくわけですから。僕もジャケットをちゃんと着て行きました。
神父さんの話があって、信徒の人が自分の間違った行いを懺悔するというようなこともあり、それについてまた神父さんが話されるのですがそれがもう歌を歌っているような話し方でした。そして神父さんの話が盛り上がっていくとクワイアの歌が始まります。だから教会には歌だけ、音楽だけがあるのではなく神父さんの話や、集まった人たちのコミュニティの話もあるわけです。その中の音楽がゴスペルというわけです。
ぜひ、皆さんもブルーズと同じように奥深いゴスペルの世界に入ってみてください。
今回は最近リリースされたお薦めのモダン・ゴスペル・アルバム The Gospel Truth/The Complete Singles Collectionを聞きました。

2021.07.02 ON AIR

今夜はリクエストにお応えしてロバート・ナイトホーク

Sweet Black Angel/Robert Nighthawk (ROOTS RTS 33056)

ON AIR LIST
1.Black Angel Blues(Sweet Black Angel)/Robert Nighthawk
2.Anna Lee Blues/Robert Nighthawk
3.Handsome Lover/Robert Nighthawk(vo.Ethel Mae)
4.Jackson Town Gal/Robert Nighthawk
5.Someday/Robert Nighthawk

今日はリスナー石尾さんという方からリクエストをいただいたロバート・ナイトホークを聞きます。石尾さん、お待たせしました。
ロバート・ナイトホークはB.B.キングのようなすごく有名なブルーズマンではないのですが、とても味のある塩昆布みたいなブルーズマンです。
そのB.B.キングの大ヒット曲”Sweet Little Angel”の元歌、原曲はこのナイトホークのSweet Black Angelという曲でもっと遡るとタンパ・レッドにたどり着きます。スライド・ギターの上手さでも有名なブルーズマンです。
リクエストされた石尾さんからナイトホークに影響を与えたとスライド・ギターは誰でしょうかという質問も受けているのですが、スライドギターの名人、タンパ・レッドの影響も受けていると思いますが、最初にギターの手ほどきを受けた従兄弟のヒューストン・スタックハウスというブルーズマンからの影響が方が大きかったと思います。
ナイトホークはスタックハウスともう一人トミー・ジョンソンという偉大な南部のブルーズマンの影響も受けています。トミー・ジョンソンはチャーリー・パットンやサン・ハウスと並ぶミシシッピー・ブルーズの偉人で「Big Road Blues」「Canned Heat Blues」などブルーズ史上に名作を残しています。
つまり、ロバート・ナイトホークはトミー・ジョンソンやヒューストン・スタックハウスの南部の泥臭いブルーズに、当時の都会的なタンパ・レッドの洗練された要素も持ったブルーズということができます。
ではナイトホークの有名曲Black Angel Blues別名Sweet Black Angel
「俺には可愛い黒い天使がいるんだ。彼女が羽根を広げているのが好きなんだ。俺の上で羽根をひろげてくれる時なんかもう最高よ。彼女に5セントをおねだりすると10ドルもくれるんや。しかもウィスキーが飲みたいと言うたら瓶ごと買ってくれるんやで」
1.Black Angel Blues(Sweet Black Angel)/Robert Nighthawk
綺麗なスライド・ギターの音色の演奏は絶品です。そして体で響いているようないい声で落ち着いた淡々とした歌いっぷりです。

彼の声質もあると思うのですが全体的にややダークな曲調が多く、今のようなミディアム・テンポのものが多いのですが次もそうです。
アンナ・リーという女性に惚れた歌ですが、彼女がなかなか自分だけの女性にはなってくれない、困ったことに夜遊びする女性なんです。これが最後の通告だなんていうてますがなかなか別れられんでしょ。そういうもんですよ、ホレてしまうと。知らんけど・・・。
2.Anna Lee Blues/Robert Nighthawk

アルバムにはアンナ・リーではなくてエセル・メイという女性シンガーがシングルのカップリングで何曲か収録されてます。ナイトホークの彼女だったらしくどういう経緯で彼女も録音されることになったのかわかりませんが、なかなか歌えるシンガーでちょっとメンフィス・ミニー風なところもあります。
どうなんでしょうね「俺の彼女なんやけどなかなか歌上手いねん、一緒に録音さしてもらわれへんやろか」なんてナイトホークが推したんでしょうか。曲名が「ハンサムな恋人/ハンサムラバー」ですが、ナイトホークのことでしょうか。確かにナイトホークは目鼻立ちのしっかり、キリッとしたなかなかええ男ですが・・・。
3.Handsome Lover/Robert Nighthawk(vo.Ethel Mae)
エセル・メイさん、悪くないんですけど記憶に残るほどのインパクトもないんですよね。結局、ナイトホークはその後メイさんにフラれてめっちゃ落ち込んだらしいです。
ブルーズマンにはオープン・チューニングというイレギュラーなギターのチューニングでスライド・ギターを弾く人が多いのですが、ナイトホークは普通のチューニングでスライドを弾いています。

4.Jackson Town Gal/Robert Nighthawk
やっぱりこのテンポが好きなんでしょうね。
聞いてもらっているようにどの曲もほとんどテンポがミディアムからスローです。そのあたりも彼がもう一つ売れなかった理由ではなかったかと思います。曲のバリエーションがないと言うか。
シカゴの有名なレーベル、チェス・レコードはナイトホークが売れると思い録音していたのですが、あまり売れず1964年に最後のチェスレコードでの録音となります。ハーモニカのウォルター・ホートン、ギターはバディ・ガイ、ベースがジャック・マイヤーズ、ドラムがクリフトン・ジェイムズという当時のバリバリのメンバーです。途中のギターソロはバディ・ガイが弾いていてナイトホークはヴォーカリストに専念していていい味を出している曲でアップテンポのシャフルでいい感じなのですが、チェスはこの曲を売れないと判断してリリースしないで未発表にしてしまいました。
5.Someday/Robert Nighthawk

彼は若いころにいくつか芸名があり、ロバート・リー・マッコイとかランブリン・ボブとかピーティーズ・ボーイとか名乗っていたのですが、最初にレコーディングした曲が”Prowling Night Hawk”、プラウリング・ナイトホーク(獲物を求めてうろつく夜の鷹)という曲名だったのでナイトホークに落ち着きました。
一曲目に聴いてもらったSweet Black Angelが少しヒットしただけであとはヒットがなく、彼はシカゴのマックスウェル・ストリートでストリート・ミュージシャンとして日銭を稼ぐ生活をしていました。でも、彼はずっと生まれ故郷のアーカンソー州ヘレナへ帰りたい気持ちが強かったようです。そして最後は1967年に故郷ヘレナで亡くなっています。58歳でした。心臓を患っていたようです。
ブルーズマンとしてはすごく有名になれなかったのですが、彼が残した美しいスライド・ギターとミディアム・テンポの霧がかかったようなダークなブルーズは彼にしかできないブルーズで多くの人に愛聴されています。

2021.06.25 ON AIR

ブルースピアノの名手、オーティス・スパンの名盤復活

Otis Span Is The Blues/ Otis Spann (CANDID/SOLID CDSOL-47019)

ON AIR LIST
1.The Hard Way / Otis Spann
2.Otis In The Dark/ Otis Spann
3.I Got Rambling On My Mind#2 / Robert Jr.Lockwood
4.Worried Life Blues/Otis Spann

シカゴ・ブルーズのピアニストと言えば必ず名前が上がるオーティス・スパン。シカゴ・ブルーズのボス、マディ・ウォーターズの右腕としてマディを支えて、多くの名曲にその演奏を残してきたピアニスト。そのオーティス・スパンが1960年に発表した名盤”Otis Spann Is The Blues”が現在日本盤で復活リリースされているので今日のON AIRを聴いて気に入った方は是非ゲットしてください。
この”Otis Spann Is The Blues”はスパンとギター名人のロバートJr.ロックウッドのデュオで録音されたアルバムで、ピアノ名人とギター名人の見事なコラボ・ブルーズを聞くことができます。
まずはアルバムの1曲目
幼い頃から白人にコントロールされている社会の中でまともに教育を受けられず、文字の読み書きや算数などができなかった多くのアフリカン・アメリカンの辛く、悔しい気持ちを代弁するブルーズです。厳しい道を自分を奮い立たせて歩んできたと始まるブルーズ。
1.The Hard Way / Otis Spann
ロックウッドのギターのバッキング・サポートも実に見事。ピアノと被らないようにコードワークと単弦のオブリガード、そしてどちらのソロとも言えない絡み合うギターとピアノ。デュオ・ブルーズの名演です。

次はスパンのピアノ・ソロです。ピアノは基本的に打楽器だと僕は思っているのですが、スパンのピアノの素晴らしいグルーヴ感が味わえる曲です。左手のどっしりしたリズム・キープと様々なフレイズを叩き出す右手のコンビネーションが素晴らしいです。
2.Otis In The Dark/ Otis Spann
ピアノの鍵盤を叩くタッチの強さがわかります。そしてピアノから溢れる音の大きさが半端ではありません。ブルーズ・ピアノの基本が詰まった演奏です。

オーティス・スパンはミシシッピのジャクソンで1930年に生まれてます。
お母さんがブルーズギターを弾いてお父さんがブルーズピアニストという、もうブルーズマンになるしかないような環境で育ちました。ミシシッピのジャクソンという街は大きくていろんなブルーズマンが生まれ、訪れた街でもあります。彼は17歳までジャクソンでいろんなミュージシャンと演奏していたのですが、お母さんが亡くなり先にシカゴにいたお父さんを頼ってシカゴに来ました。すでにブルーズピアニストとしては出来上がっていたのでしょう。来て間もなくしてマディ・ウォーターズのバンドのオーディションを受けて合格。そこからずっとマディのバンドで演奏しマディのバンドにはなくてはならないバンマス的な存在になりました。他のブルーズマンとの仕事もしていましたが、1953年から1969年まで16年間マディのバンドに在籍しました。マディも相当信頼していたのがわかります。
ソロ・アルバムは1960年リリースのこの”Otis Spann Is The Blues”が初めて。一応スパン名義のソロ・アルバムですが、内容は半分をロックウッドが歌っているので実質的には双頭アルバムと言っても良いと思います。
一曲、ロックウッドの歌も聞いてみましょう。義理のお父さんのロバート・ジョンソンが原曲ですが、多少歌詞を変えて歌っています。
3.I Got Rambling On My Mind#2 / Robert Jr.Lockwood

次の曲はスパンが大きな影響を受けた1940年代から50年代に活躍したブルーズ・ピアニスト、ビッグ・メイシオが残した名曲。チャック・ベリー、レイ・チャールズ、メンフィス・スリム、ジュニア・ウエルズなどたくさんカバーされています。
「神様、あいつと別れてめちゃ傷ついたけどいつの日かそんなにくよくよすることもなくなるんや。おまえが行ってしまってから毎晩落ち込んで悲しんだけどそれもいつの日かなくなるんや。おまえが居らへんようになってずっと昼も夜も悩んだけどいつの日にか心配しなくてええようになる」
この毎回最後に繰り返す「But Someday Baby I Ain’t Gonna Worry My Life Anymore」という一節はいつの日か死んでしまうから心配しなくていいという意味が含まれていると思います。
人種の差別を受け、貧しいままずっと生きて、愛する人がいることだけが救いだったのに、愛する人にも去られて絶望する日々にいつの日かこの悩みも死んでしまえばなくなり神様の元に行けるという悲しいこの歌が大ヒットしたのはある意味とても辛いことです。
4.Worried Life Blues/Otis Spann

番組HPにアルバム・ジャケットなどもアップしてますので参考にしてください。
原盤のキャンディッドというレコード会社はジャズ系のレーベルです。ニューポート・ジャズ・フェスティバルにマディ・バンドの一員として出演したスパンの歌とピアノに感銘を受けたジャズ評論家のナット・ヘントフがこのアルバムのプロデュースをしました。
「オーティス・スパンはブルーズだ」というアルバム・タイトルに偽りが全くない、純度100パーセントのブルーズ・アルバムで日本盤が再発されたこの機会に是非ゲットしてください。
再発盤にはボーナス・トラックが6曲収録されています。そして、このアルバムの続編と言ってよいスパンの”Walkin’ The Blues”も同時発売です。それにはセントルイス・ジミーがゲスト・ヴォーカルで参加しています。そちらのアルバムもいいので是非。
この発売元は日本のウルトラ・ヴァイヴ/ソリッド レコード。発売は3/10なので早めにどうぞ。ソリッド・レコードからは他にもメンフィス・スリム、ライトニン・ホプキンスのキャンディッド時代のアルバムがリリースされています。